§004 2022,07,12(Tue)

公安調査庁 調査第一部 部長室




製品の秘密を暴くことが現状難しいとなれば、当然すべての注目はInterstitial intelligent industry Co.,Ltd・・・Icube社と、その社長であり当該特許の発明者でもある人物に集まる。


コチラは聊か非合法に踏み込むため、公安調査庁が動けぬ間、既に内閣調査室が動いていた。

と言うのも当然ながらC国やR国の非合法組織は、すでに動いていると報告がある。

端的に言って今後の世界を変えかねない代物。

既に莫大な利権を手にし、意味不明とまで言われる超高性能電池の秘密、その全てを握るIcube社のたった一人の人物。


調査開始以来、電話・メール・手紙と思いつく全ての手法で本人への接触を試みているがいまだ回答ナシ。

実際姿を知る者さえいない謎の人物だった。



SNSでも一部ネット民により同様の個人特定サーチが行われているらしいが、珍しく手掛かりは無い。

無論、経歴等公にされてはいけない個人情報について、本来表に出せない部分も含め極秘裏に入手しているが、こちらも記録が殆どない。



御子神みこがみ彼方かなた、なる人物が、横浜出身で本籍が今もそこにある今年43歳になる男性であることは調査済み。

しかし両親はどちらも一人っ子、双方の祖父母共に既に他界。

そしてその両親、および姉も1998年に自動車事故で亡くしていた。

祖父母にはさすがに兄弟姉妹が数名いたが、祖父母は本人が生まれる以前に亡くなっているため完全な没交渉、互いの存在も知らない。

同じ御子神姓を持つものはその範囲にはいなかった。

3親等以内の親戚は皆無の天涯孤独、で、結婚歴もない。

地元横浜の小学校から横浜国大付属中、横浜翠嵐を経て東大理Ⅰに合格している。

学歴はエリートだが実際は小学校も休みがち、中学はほぼ不登校。

テストだけは保健室で受けそれでトップクラスの成績だったらしい。

その為内申は悪くもなく高校も名門と言われる県立に順当に合格していた。

と言って高校も最低の出席日数で、目立たず成績は中庸だったという。

それでいて一発合格した東大には結局入学せず、そのまま渡米してしまったという異色の経歴の持ち主。

東大合格直後に両親と姉の事故が発生しており、その影響もあると思われる。

それらですらSNS上の個人特定にも特化した “鬼板”のからの情報だ。

無論裏は取ったが・・・。

実際当時の同級生にとっても、殆ど幽霊クラスメートで、小学・中学はいつも不在なのに成績だけは良かったことしか記憶になく、親しい友達や人となりを知る者は居なかった。

卒業アルバムも撮影日欠席で結局掲載できなかったらしい。

当然高校でも完全引きこもりと認識され、こちらは集合写真こそあるものの、周囲の陰に埋もれ暗く暈けて判別もできない有様。

クラスメートのほとんどが言われるまで、或いは言われてもその存在を忘れているとのこと。


既に廃棄された10年以上前の記録や、電子登録される以前の記録がないのは仕方ないとしても、ここ5年であるのはMyナンバーに記載された自社からの役員報酬記録だけ。

当然Myナンバーカードは未作成で写真もない。

海外渡航歴も米国留学時代のみ。

パスポートは2007年に切れており以降の申請はない。

出入国の記録はあっても、電子化される以前のパスポートデータは既に廃棄された後、写真はない。

健康保険の使用履歴も皆無。

コロナワクチンも打っていない。

特定された本人名義銀行口座の出金記録は開設時に少額、後に家族の事故死亡時に相当額の保険金や資産を整理したあとの入金が入っていた。

留学費用は当初父親の口座から落ちていたが、引き継ぎ以降は自身の口座から落ちている。

20歳の時に全体の半分にあたる高額の引き出しが行われていたが、その後は定期的に引き継いだ土地建物の光熱費の基本使用料分と固定資産税、成人以降の公的年金、健康保険等公的支払いのみに充てられていた。

留学時にドルで引き出された高額現金が何に使われたかは不明。

他は所持するカードの使用履歴とともに全て留学時代のものしかなかった。


当然家族がなくなった当時の保険や相続のやり取りはあったはずだが、既に24年前のこと、記録は何も残っていなかった。

本当にこの人間は今現在生きているのか?と感じてしまうくらい生活感が何もない。

運転免許についてだけは、18歳の渡米前に取得しており、帰国時に再取得、5年後に一度更新している。

無事故無違反。

自家用車を所持した記録もないので当然なのか。

そしてこれも顔写真すらない。


文字データ等はずっと残るが顔は年とともに変化していくため写真は最新を残して削除される。

帰国後更新した巡り合わせで2020年に最新の更新しているため、その写真があるはずなのだが、昨年の8月警視庁の職員が上司に叱られた腹いせに26万人分の免許証データを削除してしまう事件が起こった。

免許保有者数に対すればたった0.3%なのに、対象者もその中に入っていた。

公式にはその後バックアップから復元されたことになっていたが、実は写真記録だけバックアップデータに欠損が生じており、該当者の顔写真は空白のままだったのだ。


比較的最近の事象である会社の登記も行政書士が代行していたという事で、本人は法務局を訪れていないらしい。

担当した行政書士は高齢で1年前に病気で他界していた。

特許庁への申請時、面接活用審査を実施していたが、当時は既にコロナ禍、当然Web会議でのやり取り。

しかもここでも弁理士が代理で説明している。

こちらの弁理士は普通に存命だが、依頼者の人相については帽子にマスクとサングラスでほぼ不明。

コロナ禍、と言えばマスクを取る事もない。

殆ど修正のない原文を持参したという事で、会ったのも2,3回とか。

特許そのものは余りの内容の無さに驚いたが、クズでもカスでも登録されれば弁理士は報酬が貰える。

面接活用審査もあっさり通過したことで修正の打ち合わせもなかったとか。

それがあのEG-Packの基本特許だと聞いて逆に驚愕していたらしい。



結局のところ国内での公的記録に明瞭な顔写真は一枚も存在せず、人相を覚えている人も皆無、という事だった。




他方、渡米先での経歴は既にCIAが調査していた。

当然米国も件のブツの重要性は認識していて、内調の捜査協力依頼に即座に乗ってきたという。

無論、出し抜ける機会があれば平然と出し抜くだろうが。

それこそ日本政府がIcube社に輸出差し止めのような不利な事態でも起こせば、すぐさま本社を海外に逃がすことくらいしそうだ。

TO∀OTAを移転させる事は無理でも、文字通りのワンマン社長はその意味で余りにも身軽なのだから・・・。


MITに入学後3年で学士、その後4年、26歳でDr.E工学博士を取得している。

通常博士号取得まで9年かかるのだから2年のスキップは、優秀。

米国の場合ハイスクールからスキップ可能なので、最短では22歳で博士号取得できる。

2年の飛び級程度では極めて優秀、というわけではない。

修士論文、博士論文ともに今回の水素電池とは畑違い、AIに関するもので、主筆としたのはその2本のみ。

副筆も3本だけで、担当教授の手伝いであるソフトウェア構築である。

いずれも翌年にディープラーニングの父と言われるJ.Himtが公表したオートエンコードに類する内容だという。

今読み返せば当時のJ.Himtに先駆けた記述もあったのに当時は気づかなかった、というのが指導教授の弁らしい。

当時はまだディープラーニングという概念そのものが生まれる前であり、AIの再興には僅かに早く、学位は認められたものの高い評価では無かったわけだ。

寡黙で英語もあまり得意ではなく、専門用語は解するが逆に日常会話は苦手。

必要最小限しか会話が成立しない。

但しこれについては本人が敢えてそう見せたとの推測もある。

米国の場合大学入学に相当する語学力がなければ、日本の高校卒業後半年での入学資格は認められないからだ。

少なくとも日本の高校在籍中から米国大学の入学許可を得ていたらしい、という。

今となっては当時の資料など残ってはいないが。

当時同じ大学内に少数の友人は居たらしいが、今となっては誰かも判らず、研究室ではほぼ独り。

それでも成績だけはきっちりと出してくる如何にも真面目な日本人気質。

故に幾つかの企業や研究機関から声はかかったらしいが申請書類すら出さず、博士課程の修了とともに帰国していた。

そしてその後の経緯は不明―――、これがIcube社長:御子神彼方の於MIT個人調査結果だ。


1998年に渡米し、2005年に帰国している。

当然留学のためのFビザには顔写真があったはずだが、電子化される以前のデータに関して画像データは既に残っていなかった。

2001年の同時多発テロ以降、厳しくなっていった情報管理だが、電子化についてはETASでさえ始まったのは2009年。

州による対応や当時の記憶容量、米国と言うお国柄の膨大なデータ、更には担当者の資質等により、当時のデータは実は穴だらけという状況。

同じように在籍したMITの研究室にも人相が分かるような写真が1枚も残されていなかったという。

当時はまだ国民総スマホという時代ではない。

また当時から米国では写真に写ることを拒否する権利も理解されていたため、本人が忌避すれば、無理には撮られない。

パスポート等の公的な申請や、就職時の個人情報提出など必要性がなければ強要されることもない。

重要施設には監視カメラの配備くらいはあったがその解像度は現在のものと比べる迄もなく、当時のデータも基本全て廃棄済み。

在っても磁気テープの劣化や再生機器そのものが存在しなかったりしていた。

流石に入出国時の記録は僅かに残っていたが指紋こそ残っていたものの、顔写真については当時のカメラがこちらも画素が荒く、件の人物の入国時は眼鏡にぼさぼさの髪と髭。

しかも担当した入国管理の職員が適当だったらしく、ピンボケのブレた画像。

余りにデータが荒くAIを用いても人相の正確な判別は出来なかった。

入国は留学時の1回のみ、その後博士課程修了迄一度も帰国していない。

米国国内移動はあっても、当時の米国内線ドメスティックは顔認証をつかっておらずその回数も極わずか。


結局CIAですら当該人物の人相を把握することが出来なかった。




この情報化時代に於いて、見事なまでの嫌世隠遁の人生。

小中高の引き籠り。

留学した先でも研究一筋で人嫌い。

日下部としても何が楽しくて生きているんだと思うほど。


だが顔写真が無いというのは想定外だ。

通常この手の探索に米国が介入した場合CIAが関与し、合法非合法問わず洗い出す。

カードなどの使用記録があれば、そこから使用場所の防犯カメラ映像を入手し、人物を特定したのちAIで補完して3Dデータすら作り上げる。

PRIZMやECHELONと呼ばれるシステムは一部米政府関係者も存在を認めているビッグデータの広域監視システムで在り、嘗ては日本の政府関係者が監視対象になっていたこともある。

今やAIの進化と融合し、大規模な通信容量の拡大により、実際どこまで出来るかのそれさえ知り得ない巨大な諜報システムと化していた。

実際監視対象ともなれば、契約しているプロバイダ、そのアクセス記録のすべて、トレーディングやネットバンキングなどをしていれば収支も暴かれる。

更に人相が判れば、米国内要所に配置された防犯カメラ画像をリアルタイムで入手し、適合率の高い人物を抽出できるらしい。

実際米国の監視プログラムと見做されるPRIZMには、Miclosoftを皮切りに、Yahow、Goggle、Mera、Aqpleといったメガプロバイダからの情報収集を可能としている節もある。

今のネット社会に於いて、これらの介在しない生活は成り立たない。

通販サイトは無いが、IO5、Windos、Androgynos等のOS介在なしに運営できるサイトなどほぼ皆無。

Rinaxが辛うじてオープンソースを保っているが周囲を他のOSが埋めて居たら如何ともしがたいのが現状。

そこから特定さえできれば後は容易い。

公には隠蔽していても今のAIであればそれを可能にする十分な性能を有するらしい。


実際非合法、公になれば批判に当たる部分も多分にあり、公的な裁判証拠採用の蓋然性は皆無だが、少なくともCIAは米国の安全という大義名分の下同盟国内でさえ、かなりの無茶が許されているのも事実。

特に日本など諜報天国と迄言われて久しい。

今の高度情報化社会はリアル・アトリックスやリアル・ジェイツンボーンの世界を遥かに超えた超監視社会である。

尤もその最たる例が超監視国家と変貌しつつあるC国だが・・・。

何れは14億全国民の思想や言動をすべて監視するだろうとも言われていた。




そんな社会から独りぽつんと屹立するのが、今回対象となる人物―――。

一種憧憬とも言えそうな、何とも言えない想いも浮かぶ。


子供時代は単なる人見知り、極端な引き籠り体質だったのだろうが、大学以降の徹底した隠棲は寧ろ意図的と見て良い。

実際その時点でAIに触れている。

否、それを目指してMITに進学したからには、それ以前からAIに関しては調べていた、という方が正解だろう。

将来のAI進化が予測できたからこそ、徹底的な人相の秘匿をしている。

過去の出入国時等カメラに映るときには、長い髪や髭、マスクや眼鏡で顔の骨格や、鼻梁、光彩まで認識されないようにしていた。

普通に見えていた眼鏡は解析の結果特殊な偏向グラス。

度は入っていないが外からの視野はランダムに歪んで見える仕様だと判明した。

つまりは20年前の時点で、AIが人相の特定に主に使用する部位を的確に隠蔽していると言うことだった。



確かに会社設立以降記録はある。

会社のメールアドレスでは膨大なエージェントとのやり取り。

国内だけで実に1000社以上と取引がある。

海外の流通や渉外、保安に当たるPMCまで含めれば2000社―――。

それは、今度は逆に一個人にこれだけできるのか、というほどの膨大な量。

勿論その中に違法性を匂わせるものは皆無だという。

部品作成を依頼した各社とは、契約書もPDF、必要な図面は3DCADデータが飛んでくるだけ。

初期には設備の確認等に人が訪れたこともあったと聞くが、その相手は人材派遣会社の所属エージェント。

納期と品質さえクリアしていれば十分儲けの出る代金がすぐ振り込まれる。

全国遍く大小さまざまな工場をサプライネット化し、必要に応じて組み合わせもする。

資金繰りの苦しい中小工場には仕事の激減したコロナ下、救世主のような存在でもあったとも。


そしてその記録は全てIcube社が立てた専用サーバーから行われていた。

無論送受信は一般回線を使って行われていたが、リモート操作に関しては専用回線が使われているらしく、接続先が掴めなかった。

なにせ世界中のハッカーが侵入を試みているサーバーであるが、CIA・内閣調査室含めて侵入できていないらしい。



当然のことながらその中にも私的な個人情報は、一切無い。

もし痕跡を消せば、それを消したという不自然さが残るのだが、それすらない。


CIAの一部では社長は既に架空の人物ではないかとの話も出始めているとか。

でなければあの膨大なやり取りが説明付かない、と。

全世界の合法非合法問わず目耳を集めるデコイとしての存在。

故にワンマンベンチャーとしてあり、背後には大規模なプロジェクトチームがあるのではないか?

そういう推論だった。


更にもう一つの可能性は、本人が全く異なるIDを他に所持している可能性。

此処迄経済活動も、行動記録も出てこないのは、普段別人として活動しているからという推論。

この場合、免許など公文書を偽造していれば無論違法。

他人名義銀行口座や他人名義カードも虚偽の申請をしていれば同じ。

但し、本人名義の口座しか開設できなくなったのは平成15年以降。

それ以前に成人している対象が開設していた場合は異なる。

一端開設されていれば、例えば窓口で高額の現金取引をしない限り名義の本人確認はない。

クレジットカードも当時ならその名義で作れるし、今でもカード名義はイニシャルの場合もあり、必ずしも口座名義と一致しない。

携帯電話やスマホの契約は全て口座名義で可能。

更新時本人確認などないから支払いがきちんと行われている限り、名義など気にしない。

グレーではあるがそれが口座として売り買いされたわけでもなく、犯罪に使われていない以上、ただの消費行動となり違法性の立証は難しい。

未だに過去から残る同窓会名義の口座や管理組合名義の口座で使用されている事例が多数あるのだから。


そして困ったことにその場合、それを突き止める術はない。


そう、CIAの情報収集能力をもってしても個人情報の把握が出来なかった。





品川海岸沿いの社屋。

登記記録として公にもなっている唯一の地縁。

電話があるとのことだが、様々なオファーがあるらしくいつも話し中。

日に何度も回線が落ちるらしい。

HPへのアクセスや、メールも同じ状況らしくこちらは回線が絞られている。

建屋の周囲にはマスコミの記者やYouMoverらしき若者、明らかに宜しくない雰囲気の浮浪者、平凡を装った監視者等様々な人種が昼夜問わず集っている。


当然かもしれない。


一人社員の零細ベンチャー企業がたった10日間でいきなり6.4兆円を売り上げたのだ。

今期の売り上げ予想は、12兆8000億円強―――トヲタが正規従業員36万人を使って年間売り上げる額が18兆円弱と言われる中、たった一人で約13兆円―――。


金に集る雲霞の如く、有象無象が屯っていた。

この10日間で不法侵入未遂が16件。

但しその現場検証には警備を委託されている警備会社が立ち会い、家主は出てこない。

その余りの多さに常にPCパトカーが張り付いている。

殆どが宗教関係や、ありがちな慈善団体を名乗る業者、自称親戚―――何れも金に集る輩だが、当然ながら公安調査庁だけではなく、ほぼ確実に世界主要国のスパイも混ざっているはず。

内閣情報室もその対策に追われているだろう。

正しく、世界を変えうる技術。

そんな状態でとてもではないが普通の神経を持っているなら近寄る訳がないのだ。


これら全ての反動が判っているからこそのこれまでの極端な秘匿なのだろう。




そういう意味で会社としてのInterstitial intelligent industry Co.,Ltdは逆に派手だ。


設立は2015年。

当初から利益はほぼなく、一方で購入品は膨大。

5年前から販売しない在庫のみが増えている状態だった。

広範な委託、多数の設備導入、不動産購入多数。

国内にEG-Pack製造の最終工程となる工場を4カ所所持している。

何れも建設は4年前から、操業は去年から。

そこは日本各地から搬入された部品を組み立てる最終工程。

但し搬入以降すべてロボットによる完全オートメーション。

各工場24時間稼働で、1日10万台が出荷されてゆくほぼ無人の工場。

メインテナンスは工作機械会社の嘱託。

警備は警備会社と契約し常駐しているが・・・。

他にも世界各地の工業用地や動産、不動産、別荘、マンションまで様々な物件を購入していた。

パリやロンドン、ニューヨークの超高級マンションから、都内近県各所の土地建物、南海の孤島やアフリカの不毛の大地迄、中国資本でも此処迄するかという勢いで。


それらの費用含めて、7年間の赤字は、累積で8千億円にも膨れ上がっていた。

海外不動産だけで3000億円の規模である。

大企業の出資は一切ない。

資本金一千万のベンチャーとして最早異常。

全ては投資ファンドからの借金だ。

よく出資していた投資ファンドがこの額を許したな、とも思うがそれもそのはず、この10日でそれらすべてを一括返済も可能ということだ。

確かに中小企業なら10年まで赤字が繰り越せるから、どんだけ使っても返せる見込みがある以上、税制上有利なはず。

逆に出資した投資ファンドはこの内容を知っていた、という事にもなるが、このベンチャーキャピタルがまた詳細不明だった。

cube社とは専用回線を有しているらしく、そのやり取りは追うことが出来ていない。

資金力のないIcube社がファンドから資金を借りていたのは確かなのだが、その経緯が見えない。

唯一あるのは、税務署に提出される決算報告書にあるGOAST FOUNDという名称だけである。


GOAST FOUND―――設立は2004年と比較的若いボストンに本社を置く投資ファンドであるが、投資ファンドと言うより為替や先物、株式運用で名を馳せていることで有名な会社であった。

取引のほとんどがネットで行われており、専任の個別コンサルタントを置かないことでも独特。

しかしその運用益は群を抜いており、表には出てこないが一説では年平均190%を超えるとも言われている。

驚異的な情報収集力と未来を予測するがごとき仕手戦で会員制の投資顧客からは絶大な信頼を得ているという。

色々監視や制限が厳しくなった最近はあまり派手な仕手戦をしない為、表の収益上位には名を連ねないが、実質為替や証券市場で動かせる自己資金だけでも100兆円単位、顧客分を合わせれば500兆を超えるのではとも囁かれる厳然たる資金力を有するファンド界の隠れた巨人。

その顧客名簿に連なる名前が米国政権にも影響すると言われ、CIAですらそうそう手が出せないという鬼門のファンドだった。


このGOAST FOUNDがベンチャーキャピタルをしている話は今まで聞かなかったが、決算報告書に名前があり年間1000億円単位で借入しているのも確かだ。


5年間の雌伏―――出せば爆発的に売れることは分かっていたはず。

それを5年も引っ張った理由は・・・。



だからこそCIAの言い分も分かる。

これが当初小規模な売り出しだったらスペックが知れると同時に国か、実業巨大資本が動いた。

そして秘密を知る関係者、或いは守るべき社員が多ければ多いほど隠蔽や非合法な手段に対する防衛が難しくなる。

最小限の隠蔽対象、最極小の機密事項―――。

ここまで情報化が進み、新型コロナの影響もあり非対面の業務進捗が可能になっただからこそここまで隠蔽できている。

存在感の希薄なデコイを使い、素性を隠したままのチームが細かい指示や手配を行う。

監視機構と真向対抗して。


CIAにすら掴ませない尻尾。

逆にCIAが知れば、直にもC国やR国が知る。

CIAという組織は既に巨大で、そして相互に二重スパイがいるのは否定のしようもない事実。

合衆国政府の中にさえドラゴンスレイヤーとパンダハガーが居るのだ。

そして殆どがその立場をすら隠している。

何処かが情報を掴めばやがて世界が知る、それが今の実情なのだ。


そんな全世界の諜報組織が追いながら、今もって一片の欠片すら掴ませない。

単独かチームかは不明だが、何れにしても極めて手強い相手としか言えなかった。






度重なる接触の打診もナシの飛礫。



―――だから、あんなメールが返ってくるとは思っても居なかった。




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