第14話 SSランク
「ほらっ! 何をボーっとしていますのっ! 魔物のボスがそちらに行きましたわよ!」
同行者への攻撃は余りにも不利と判断したか、
「あ、えーっと、『三段突き』っ!」
森の中に響き渡る女性の声に引っ張られ、さっき『音声条件』で登録したばかりの攻撃プログラムを起動する。
――次の瞬間、例によって限界まで
三段突きというシンプルな名称にそぐわない急所狙いの高速三連突きは、一段目に続き、二段目の喉、そして三段目の心臓と突き立て、完全にとどめを刺してやる。
こうして作成したばかりの新技、『三段突き』によって容赦なく生命を奪われた
「ふうっ。これでひと段落かしらね」
横たわったフォレストビーストの生命活動が停止していることを確認した女性は、傍に控えていた『爺』からハンカチを受け取ると上品に額の汗を拭っていく。
「周りの魔物が逃げていくみたいですよ。どうしますか?」
「捨ておきなさいな。小者を幾ら狩ったところでキリがありませんもの。
それに、森の奥への深追いは危険ですわよ」
プレートアーマーにグリーブ、ガントレットという騎士の防具で身を固め、長い金髪を後ろで結わえた少女は、その出で立ちには全く似合わないレースのハンカチで汗を拭きながら、まるで歴戦の冒険者のようなことを言う。
「そうなんですか?
逃がしちゃって大丈夫なのかな……」
「……貴方、おかしなことを仰いますのね。この手の知識は冒険者なら常識では無くて?」
「あ、いえ。……すみません。実は、こういうのってあんまり経験が無かったもので」
「あら。あれだけの腕をお持ちなのに、意外ね」
「いえ、僕なんて全然ですよ。
それより、その『
「ふふ。これでも力の三割も出していなくてよ」
「あ、あれで?
さすがはSSランクの
世界に五十個とないSSランクの
その数少ない所有者であり、今回の依頼主でもある女性を訪ねて屋敷へと赴いた僕を待っていたのは本人ではなく、例のあの老執事だった。
「お嬢様がお待ちです。どうぞこちらへ」という一言だけを発し、早足で先行する執事に付いて行くと――着いた先はなんと町の東にある森の中。
そして、執事の言った通り……そこには確かにエドール家の長女が居た。
彼女の放つ、不可視の槍で、矢で、剣で、穿たれ、貫かれ、切り刻まれて、触る事すら出来ずに絶命していく魔物たち。
白銀に輝く戦衣装に身を包んだ女性は、シンボルカラーの青では無いこともあって昨日とは別人にしか見えない。
だけど、そして光り輝く黄金色をした盾型の
「でも、こんな場所で一体何をやっていたんですか? 指名依頼と聞いて来たんですが……」
「あら。これが依頼ですわよ?
「え……僕、要りました?」
「ええ。これをやったのは私ではない、ということにしませんと」
「その……この件はロイド様がお一人でなさったこと、ということにしては頂けないかと……」
「ああ、そういう事ですか」
老執事の言葉でようやく何となくの事情が分かった。
まあ、確かにもうすぐ婚約するという箱入り娘が森で魔物相手に大暴れしていた、なんてことが知れたら良い顔をしない人も沢山いるのだろう。
とはいえ、手柄の替え玉なら僕以上の適任者が沢山居そうな気がするけど……。
「……なぜ僕に?」
「ロイドに何か違うものを感じたからですわ」
その言葉に、思わず背筋にゾクッとしたものが走る。
これは喜びとかそういうものではなく、『まさか、タブレットの秘密がバレた!?』という畏れの感情から来るものだった。
いやまあ、この人ならバレても問題は特に無さそうな気もするけど。
「……と、言いたいところなのですけれど。私は冒険者の方々と交流を禁じられておりますの」
「な、なるほど。たまたま知り合ったのが僕だった、という事ですか」
絶妙なフェイントに、ビックリさせないでくれよ、と内心で胸を撫で下ろしながら平然を装って話を続ける。
「分かりました。
……と言っても、僕はそれほど実績がありませんから周りから信じて貰えるかは保証できませんけど」
「依頼内容はぼかしてあるのだからわざわざご自分から仰る必要はありませんわ。聞かれたら『自分がやった』と答えて下さればそれで結構ですのよ」
「あ、それでああいう依頼内容だったんですね」
「そういう事ですわ」
なるほど、最初から彼女の書いた筋書き通りになったということか。
まあ、こちらとしても滅多に見られないSSランクの
「それで、どうしてこんな事をするんです? セルフィナ様ならご自分で動く必要も無いと思いますけど」
「……そうですわね……まあ、色々ありますのよ、私にも」
「はあ」
イマイチ要領を得ない回答だったけど、これ以上は聞かないで欲しいという意思表示にも聞こえたのでこれ以上は深追いしないでおくことにした。
ドミニムによれば彼女は二日後には婚約が成立するという。ならば、恐らくこれ以降セルフィナに関わることもないだろう。
今の自分に余計な事に首を突っ込んでいる余裕は無いのだから。
汗を拭い終わり、老執事にハンカチを渡したところでセルフィナは小さな異変に気付いたらしく、「あら?」と声を上げる。
「ロイド! その剣、刃こぼれしていますわよ!」
「ああ、これは
セルフィナは珍しく声を張り上げ、剣の異常を指摘してきた。
彼女が何に慌てているのか分からないけど、これは銀貨五枚で買った中古の安物だ。タブレットで強化された力で戦えば長く持つはずがない。
とはいえ、わずか二回の戦闘、都合二十回ほどの使用で修理が必要になってしまったのは財政的には少し痛いが……。
「え? ロイドの
あんな剣捌き、
「ああ、そういう事ですか。実は、僕の
「黒い……板……?
ロイド、貴方もしかして――!」
懐からタブレットを取り出し、彼女に見せてあげると、セルフィナの目は信じられないものを見たかのように見開かれた。
――流石は悪い意味での有名人だけはある。まさかSSランク持ちのお嬢様にまで僕の噂が届いていたとは。
「そうです。僕がダメな方の『不明』の
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