第8話 自作プログラムに挑戦・名前を付けよう


 さて、ひとまず本人の承諾は取れたし、早速戦闘以外のプログラムの作り方を聞いていくことにしよう。



(それではまず、左上の方にある『戦時』と書かれたボタンをタップするですよ)


「ボタン……? あ、これの事かな」



 プログラミングをする場所の左上にある赤地に白文字の『戦時』を叩くと青地に白文字の『平時』に表示が変わり、プログラムの表示もまっさらになった。



(これで、戦闘以外のプログラムを作成できる状態になったです。

 次に、プログラムを書いていた辺りの上の方にある『新規作成』をタップするです)



 言われた通りにすると、『画面』の中央に全体より二回りほど小さい四角形が表示された。

 四角形の中には『以下の項目を入力してください』という文章の下と、その下に色々な文字が箇条書きで並んでいる。

 箇条書きの内容を目で追っていくと、次のようなことが書かれていた。


『登録可能数 0/5』

『プログラム名:』

『動作条件  :』

『引数    :』

『戻り値   :』


 ……何となく分かるような気がするのもあるけど、全く分からないものもいくつかある。

 独特な単語ばかりで覚えられるか少し不安ではあるけど、とりあえずは触ってみるしかない。

 『次行っていいよ』と頷き、ヘルプに先へ進むよう促す。



(では、最初にこのプログラムに名前を付けるです)


「えっ? 名前? その、アミリーとか、ロイドとかそういうの?」


(ぷぷぷ。何だそりゃ、そういう意味じゃねーっての。

 誰だよ、そのアミリーってのは)


「あ、うん。アミリーは綺麗な銀髪をした僕の……え、違うの?」


(説明が足りず申し訳ございませんです、マスター。

 ここで言う名前というのは、『一目見て何をするためのプログラムか』分かるように付けるものという意味になるです。

 ですので、今回ですと『タイル塗り』というような名前が宜しいかと思うです)



 なるほど、やりたい動作や防ぎたい攻撃の名前を入れておくと、管理がスムーズになるっていうことか。

 これで面倒くさがって『プログラム1』『プログラム2』『プログラム3』……とか適当に付けてしまったら後が大変になりそうだもんな。



「そうなんだ。それで、どうやって名前を付けるの?」


(では、<プログラム名>をタップするです)



 言われた通りにすると、またまた小さな四角形が出てきた。



「また四角形が出てきた。真ん中に変な絵が書いてあるけど……えっ?」



 何も触っていないのに、勝手に文章が追加されたぞ?

 なになに……

 『また四角形が出てきた。真ん中に変な絵が書いてあるけど』でよろしいですか?

 ……だって。なんだこれ。



(ちょっとアンタ、何サボってるですか! このくらいサポートするですよ!)


(えー。めんどくせーなー。

 ……ったく。ほれ、これで良いだろ)



 ヘルプに注意されたアイディが寝転がったままそう言うと、一瞬で文章が別な物へと変わった。



「『タイル塗り』でよろしいですか? ……だって」


(『はい』をタップするです)


「これかな」



 言われた通りにすると、小さな四角形は消え、元の大きな四角形の中の表示が『プログラム名:タイル塗り』に変わっていた。



「なるほど、文字はこうやって『入力』するんだね。さっきのは僕の声がそのまま入っちゃったってことか」


(仰る通りですわ、マスター。

 本来でしたらIDEのサポートで直前の会話などを反映したものを自動で入れてくれるはずなのです。

 ……まったく、アイツと来たらマスターの邪魔をするだなんて何を考えているですか)


「まあまあ。まずは何でもやってみないと分からないし。

 失敗も大事じゃないかなって思うよ」



 そんな誰もが言うような当たり障りのない発言だったはずなのだが、意外にもアイディは好印象を持ったようで、珍しく駄目出しをしてこなかった。

 それどころか、寝転がっていたアイディは何と起き上がり――と言っても胡坐をかいてはいるが――、腕組みをして「うんうん」と頷き、更に珍しく僕の事を褒めだしたのだ。



(ほほー。お前、良い事言うじゃねえか。

 思ったより向いてそうだな、プログラミングがよ)


(何でコイツはこんなに態度がでかいですか……)



 一体何が彼の琴線に触れたのかは分からない。だけど、とにかくこれで今後は多少スムーズに話が聞けるようになるだろう。

 なら、今がチャンスだ。またまた脱線しないうちにどんどん進めよう。急がないと日が暮れてしまうぞ。



「次は……動作条件、か」



 段々とタブレットの操作が分かってきたこともあって、説明に先んじて<動作条件>の場所をタップする。

 すると、今度は色々な短い言葉が並んだ小さな四角形が表示された。


<自動実行>

<実行ボタン>

<音声実行>

<動作実行>

<登録済み条件>

<呼び出しでのみ使用>


 ……先頭から、こんな感じの文字が並んでいる。

 他にもあるけど、単語の意味すら分からないものばかりなので後で時間のある時にでもチェックすればいいだろう。



「色々出てきたけど、ここから選べばいいんだよね?」


(その通りです、マスター。

 このプログラムが実行される条件をここで指定することができるですよ)


「なるほど……えーと、自動実行と実行ボタン、っていうのは防御モードと攻撃モードと一緒だよね。他のは何だろう」


(<音声実行>は特定の言葉に反応させることが出来るです。

 例えば、『こんにちは』を条件に登録するとマスターの『こんにちは』という言葉でプログラムが起動するです)


「へええ。それって、何でもいいの?」


(はい。一応、文字数の制限はあるですが、そうそう引っ掛かるようなものではないです)


「それじゃあ例えば、僕のオリジナル技の名前、とかでも?」


(問題なしです。

 ただ、噛んだり間違ったりすれば当然発動しませんので、あまり複雑なものはお勧めしませんです)


「そうなんだ……ふうん……」



 脳裏に、カッコいい技名とともに派手な攻撃を繰り出す自分の姿が思い浮かぶ。

 僕の好きな物語の中に出てくる無敵の英雄たちは、凄い攻撃をするときに格好よく技の名前を叫んでいた。

 もしかして、タブレットでも似たようなことが出来るんじゃないだろうか。



(お、なかなか分かってるじゃねーか。

 お前はまだスキルレベルが足りねーから無理だけどよ、成長すれば攻撃プログラムにも条件追加が出来るようになるぜ)


「本当!?」


(ああ。ま、俺様のお勧めはムチャクチャそれっぽい名前にしておいて出すのは足払いとか、そういう使い方だけどな)


「うわ。ずるいなあ」


(戦いなんてもんは勝ちゃあいいんだよ。カッコつけるのなんざその後だって間に合うんだからよお)



 さすがにアイディの言う使い方はどうかと思うけど、それでも色々と応用が出来そうな能力だ。

 スキルレベル、というのがイマイチどういうものかは分かってないけど、まあ経験をたくさん積みなさい、ってことなんだろう。頑張らないと。


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