第46話 明日菜とダンジョン探索②

 想像以上、それが天宮明日菜に抱いた探索者シーカーとしての印象だった。


 咄嗟だったとはいえ、ベアウルフに対して、弱点である頭部に狙いを定め、尚且つ正確に刃をあてて切り裂いた。


 偶然という一言で済ませることができるが、俺はそれの考えをはねのけるほどの、可能性を明日菜さんに感じた。


「やればできるじゃないですか」


「い、今の偶然ですよ。ベアウルフが目の前に迫ってきたから、反射的に……」


「でも倒したことに変わりはない!それに、初めて魔物を倒したんだ。少し感想を聞きたいな」


「か、感想ですか!?」


 明日菜さんは一度も魔物を倒したことがない。なら、初めて倒した感想ぐらい聞いておかないと。


「反射的だったので、何とも……」


「少しぐらいあるだろ?たとえば、そうだな~~~不思議な気分だったっとかさ」


「え~~~う~~ん。そうですね…………」


 この時、天宮明日菜はあの時、陥った状況を振り返っていた。いくら反射的にとはいえ、ある程度は覚えている。


 ベアウルフが襲い掛かってきたとき、私が何を思い、切り裂いたとき、一瞬でも何を感じたのか。


(私はあの時、何を感じて、何を思ったの)


「特にないです」


 そうはっきりと、告げたとき、俺はニヤリと口角を上げた。


「そうか、じゃあ、しょうがないな。さぁ、探索の続きだ」


「は、はい!!」


 そのまま、順調にダンジョン8層の探索は進み、ついに9層の螺旋状階段を見つける。


「ここが、9層へ続く階段……」


「降りたらだめだぞ。もし降りたら、確実に死ぬから」


「わ、わかってますよ、それぐらい」


 俺も明日菜さんもすでに9層には足を踏み入れている。


 ダンジョン9層、寒冷領域コールドゾーン


 環境が最も難敵となる探索者シーカーにとってはかなり厄介な層だ。特にソロ組は、寒冷領域コールドゾーン対策のために、自力でお金を集めて、挑まないといけないため、一つの大きな壁になっている。


 まぁ、すでに俺は超えているから、そこまで苦戦はもうしないと思うが、問題は。


「そういえば、明日菜さんって9層を超えたことあるんですか?」


 もともと『巌窟』パーティーのメンバーだし、さすがに超えたことはあると思うが、念のため聞くと。


「こ、超えたことはありますよ。ええ、超えたことは……私、何もしてませんけど」


 暗い表情、その時点で察した。


 本当に、『巌窟』パーティーで明日菜さんは何をしていたのだろうか。


「そ、そうか……」


 これは、近いうちに明日菜さんとしっかり9層に挑む必要がありそうだ。


「今日はもう帰りましょう、明日菜さん」


「あ、はい」


 元気がない。


 顔を下へうつむき、まるで活気がなく、まるで干からびた人のような姿。こうなったのは俺の責任かもしれない。


「明日菜さん、そこまで気を落ち込む必要はないです!!」


「……若いってすごいですね」


 (余計に暗くなった!!)


 これはどうしたものか……。そういえば、愛華が女の人はおいしいものを食べると機嫌がよくなるって聞いたことがある。


「明日菜さん!帰りに一緒においしいものでも食べましょう!!初めて魔物を倒した記念に!!もちろん、今回は俺が奢りますから!!」


 その一言に、明日菜さんは俺のほうに振り返り、思いっきり力強く肩を掴んで。


「ほ、本当ですか!!!!」


「え、ええ」


「本当の本当に!私なんかがいいんですか!!!」


「うん。だから、そんなに顔を近づけないでくれ」


「あ、すいません、日向くん」


 顔を赤らめながら、金髪をもみもみといじる明日菜。


 愛華が言っていたことは、本当だったみたいだ。


 とはいえ、どこに食べに行くか、決めてないし、そういえば、『シリア商店』に向かう予定だったし、明さんにでもおすすめのお店聞こうかな。


「さぁ、帰るよ、明日菜さん」


「…………あの、ちょっといいですか?」


「なに?」


「その~~さん付けをその、やめてほしいというか……その、堅苦しいなって」


「う~~~ん、たしかに」


 まだ、正式なパーティーを組んでいないとはいえ、命を預けあう仲間だ。さん付けは距離を感じてしまい、チームワークに支障をきたす可能性がある。


「じゃあ、明日菜ちゃん?いや、明日菜?やっぱり、馴れ馴れしい気がするけど、明日菜さんは何て呼ばれたいって、ど、どうした?」


 ふと、明日菜さんのほうを見ると、顔を赤らめて、耳まで真っ赤にして、顔を隠すようにしゃがみこんでいる。


「な、なんでもありません……」


 (何でもないなら、なんで顔を隠すんだ?まぁいいけど)


「それで、呼び方なんだけど……」


「好きなほうで結構です!!」


 急に顔近づけ、はっきりと口にした。


「で、でも明日菜さんに不快な思いをしてほしくないし、一応、明日菜さんが決めたほうが」


「好きなほうで結構です!!!!」


「そ、そうか、じゃあ、明日菜ってこれから呼ぶようにするよ」


 初めて、明日菜の素顔を見た気がした。


 そのまま、俺たちはダンジョンを無事に出ることができ、その後のことを、明日菜に伝える。


「それじゃあ、この後、魔石を換金して、ご飯を食べに行こうか」


「はい!!ごはん楽しみです!!」


 (頭の中が完全にごはんで埋まってるな)


 こうして、俺と明日菜は『シリア商店』へと向かった。


「明さ~~ん。換金しに来ましたよ!!」


 いつも通り、扉を開けると、椅子に座ってくつろいでいる明さんの姿があった。


「おっ、日向か……ってえぇぇぇぇ!?」


 突然、俺を見るや否や明さんが驚きの表情を見せる。


「ど、どうしたんですか?」


「ひ、日向が、女を連れてきただとぉぉぉぉ!!!?」


「ちょっと待てぇぇぇぇぇ!!!」


 その時、隣にいる明日菜はなぜか、瞳を輝かせていた。


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