第45話 明日菜とダンジョン探索①

 ダンジョン8層。


 細道からたくさんの部屋につながっており、入り組んだダンジョンになっている。とても迷いやすいという特徴を持ち、8層でありながら、初心者殺しと呼ばれている。


 何より、恐ろしいのは細道から部屋へとつながる道は複数あり、平衡感覚が鈍くなったり、唐突に吐き気を感じるものが現れたりするところだ。


 それほどまでにダンジョン8層はいびつなのだ。


「明日菜さん。いいですか、絶対に俺から離れないでくださいね。一度離れたら、帰れないので」


「わ、わかりました」


 今回の探索は天宮明日菜の実力を試すことを主においている。それを試すのに、8層はぴったりの場所だ。


 菜々花さんが言うには、8層で特に異常を起こさなければ、50層まで大丈夫だと言っていた。


(実際、本当かは知らないけど)


 けど、ある程度の基準にはなるだろう。


「明日菜さん、体調とか大丈夫ですか?」


「あ、はい!全然平気です!!」


「何かあったら、言ってくださいね」


 この調子だと、大丈夫そうだ。


 顔色の変化は特にない。むしろ、平常心を保てているし、足さばきも素晴らしい。足音を一切立てていないのが確固たる証拠だ。


 常に戦う可能性を加味して行動している。探索者シーカーとしてはすごく優秀だと俺は判断する。


 って、これだけでも、わかる。この天宮明日菜という探索者、間違いなく優秀だ。


 周りに気を配る広い視野と現状を把握する能力、ある程度の状況に陥ることを想定した動き。


 伊達に『巌窟』パーティーにいたことはある。


 (だからこそ、わからない。どうしてあの人たちは、明日菜さんを……)


 しばらく、8層の探索を続け、途中で休憩をとる。


「全然、魔物が現れませんね」


「8層は魔物が発生しにくい層だからね。遭遇しても、4本足で歩くホースっていう魔物とベアウルフぐらいだ」


「へぇ~~詳しいですね」


「こう見えても、層ごとに出現する魔物はある程度知識として覚えているんだよ」


「す、すごい!!」


 とはいえ、ホースにはできる限り遭遇したくはない。8層のホースは群れをなさないかわりに、個体としてかなりのポテンシャルを持ち合わせている。


 正直、俺一人なら何とかなるけど、今は明日菜さんがいる以上、無理な行動はつつしみたい。


「そういえば、明日菜さんって今いくつなんですか?」


「え?え~~と、20です」


「へぇ~~じゃあ、大学生なんですか?」


「そうです。はい……日向くんは……」


「俺ですか?俺は16の高校生ですけど」


「なぁ!?高校生!!すごいな~すごいな~私はなんて、もう20なのに……」


 場を和ませようとありきたりな質問したら、なぜか、明日菜さんの顔色が悪く……。


「もう20ってまだ20じゃないですか。それに、人生いろいろ!!何が起こるかわからないものですよ」


「だ、だよね!!まだは私は20!!まだ可能性のある探索者シーカー!!」


「そうです!!」


 実際に、探索者シーカーとして成功するには5年から10年はかかると言われている。基本、探索者シーカーはレベルでそのすごさがみんなにわかるようになっているため。


 すごいといわれるのが、レベル・4からだから、5年から10年。その期間にレベル・4に至れなかったら、探索者シーカーとして成功はできないと基準が探索者シーカー界隈で定められている。


 まぁ、実際にそうかはわからないけど。


「そういえば、日向くん!ニュース見ました!!神城由紀さんに続いて、二番目に早くレベルアップしたそうじゃないですか!!すごいです!!」


「そ、そうか?ってよく調べているな」


「ニュース見るのが趣味なんですよ。でも、日向くんのレベルアップは結構有名ですけどね」


「けど、有名といっても悪評のほうでだけどね」


 たしかに、あのニュースで有名にはなったけど、探索者シーカーの口から出る言葉、到底誉め言葉として受け取れる言葉ではなかった。


 正直、そんなに罵詈雑言ばりぞうごんを陰口で言うなら、直接来いって感じだけど、そんな勇気が彼らにあるはずがない。


「さてと、休憩は終わりだ。進もうか」


「はい!!」


 そして、しばらく進み続け、ついに魔物と遭遇する。


「グルルルルる」


「ひぃ!!」


「落ち着いて!明日菜さん!!」


 ベアウルフか、ちょうどいいな。


「よし、じゃあ明日菜さん。少し戦ってみようか」


「え?」


 俺は、予備用の剣を明日菜さんに渡すと、無理無理と顔を横に振るも俺はにっこりと笑顔で。


「いけるって」


 と返す。その笑顔を見て、明日菜さんは青ざめる。


「無理ですよ!!日向くん!!」


「大丈夫だって!!ベアウルフは少し足が速いだけの魔物だから!ほら、足が速い犬だと思えば……」


「むりむりむり!!絶対無理!!だって、私一回も魔物を倒しことないもん!!」


「じゃあ、これを機に一回倒してみよう!!」


「無理です~~~~!!!」


 前衛に出させようとするも、岩陰に隠れて出てこない明日菜さん。


 これは困ったな。このままじゃあ、俺がベアウルフを倒してしまう。


「仕方がない。少し、荒くいくか」


 どうしても、今日中に明日菜さんの実力を知りたい。だから、少し危険だけど。


「がぅぅぅぅ!!!」


 俺の視線が下へずらすとベアウルフが襲い掛かる。


 一直線にまっすぐ、俺が油断しているように見えるのだろう。


 と次の瞬間、俺は軽々と足を蹴り上げ宙を回って回避する。ベアウルフはそのまま直進し、その先には。


「……へぇ?」


 ふと顔を上げると、すぐそこには牙をむき出しにしたベアウルフの姿が。


 その瞬間、天宮明日菜は渡された剣を引き抜き、瞬時に真っ二つに引き裂いた。


「…………はぁ!?私は何をして……」


 想像以上だった。


 人は最大のピンチに陥った時、2種類の反応が出る。咄嗟によける者と抗う者の2種類。


 そして、天宮明日菜という人間は抗う側だった。


 急に目の前に現れたベアウルフを予備動作なく、瞬時に引き抜き、切り裂いた。


 間違いない。天宮明日菜という探索者シーカーに向いている。


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