第44話 残念女の子だった

「パーティーにですか?」


 明日菜さんは驚きのあまりに、目を見開いている。


「そう、実はちょうど、パーティーを作ろと思っていたんだけど、中々集まらなくて、もしよければなんだけど……」


「で、でも私なんかが……」


「明日菜さん、俺はどうしても、君に入ってほしんだ!別にお試しでもいい!!そこで正式に入るか決めてもらっても、構わないから」


 俺は熱心に、明日菜さんを勧誘した。瞳を見て、熱意を込めて、決して冗談ではないと訴えかけるように。


「で、では……そのお試しなら」


「よし!!」


 (言質は取れた!!これで……)


「それじゃあ、明日の……そうだな17時ぐらいに探索者協会シーカーきょうかい前に集合でもいいかな?」


「あ、はい!構いません!!」


「それじゃあ、17時に集合で」


 こうして、俺と明日菜さんは解散した。


 その後は俺は『シリア商店』に向かう。


 すでに19時を回っていて、普通のサラリーマンなどをよく見かけた。探索者シーカーは夜まで潜っていることが多く、パーティーが大きければ、『遠征』と呼ばれる1週間程度、ダンジョンに潜りっぱなしということもある。


「しかし、いいタイミングに勧誘できたよな」


 明日菜さんが事実上の脱退宣言をされたとき、俺の脳裏にとある考えがよぎった。


『あれ、もしかして、勧誘するチャンスじゃない?』


 かなりひどい考えかもしれないが、間違いなく今がチャンスだと思った。人の心は脆いもの。そして、心が疲弊しているときが一番考えが鈍るのが人だ。


 そこをつけば、勧誘できると思ったわけだが、我ながら卑怯な人間だなと認識する。


 でも、パーティーに仮とはいえ、入ってもらう以上しっかりと、役割とか考えるつもりでいる。


 『巌窟』パーティーではサポーターをやっていたみたいだし、最初は、サポーターでやらせて、途中でほかに役割が見つかったら、その役割に専念してもらう。


 あくまで、俺の見解だが、明日菜さんはおそらく、アタッカーに向いている探索者シーカーだと思っている。


「明さ~~~ん!魔石を売りに来ました!!」


 シリア商店に入ると、違和感を感じるほどに物静かだった。


「今日って休みだっけ?」


 店内は明るい。いつも明さんが作業している机にはついさっきまで作業していた痕跡がある。


「道具もついさっきまで使われている……なら、明さんは一体どこへ?」


 しばらく、あちこち探していると、シリア商店の扉がガラガラっと開く。


「ふぅ~~って、日向がじゃねぇか。どうした?」


 入ってきたのは、もう見慣れてしまった明さんだった。


「どうしたって、魔石を換金しにきたんですけど」


「おっ、そうかわりわり、ちょっと急用があってな。ちょっと店を外してたんだわ。で、換金してほしい魔石っていうのは?」


 どうやら、急用で席を外していたらしい。まったく、だったら扉あたりに「急用で留守です」って張り紙でも張ればいいのに。


 俺は、ポケットから今回、ダンジョン9層で取った魔石を取り出し、明さんの机に置いた。


「どれどれってこれ、カカルの魔石じゃねぇか!?日向、ついにカカルに手を出したのか?」


「偶然だよ。たまたまカカルに襲われている探索者シーカーを見つけてさぁ、3匹しかいなかったから、こう……ぶしゃっ!ってね」


「お前も、もうそこまで成長したのか。なんだか、コボルトに苦戦したころが懐かしく感じるぜ」


「やめてくれよ。それより、早く換金してくれ」


「はいはい」


 明さんに言われた初めて実感する。


 ほんの数か月前の俺は、1層のコボルトさえ苦戦する探索者シーカーだった。なのに今はコボルトなんて敵にすらならないし、今では10層まで到達している。


 この数か月で俺は、変わった。


 コボルトに苦戦していたころの俺が懐かしい。きっと、今の俺があるのは由紀さんのおかげでもあり、支えてくれた明さんや菜々花さんのおかげだ。


「え~と、よし換金終わったぞ!!」


「いくらぐらいになりました?」


「税金抜きで、1000万だな」


「う~ん。ギリギリだな」


 1000万となると、引越しや明日菜さんのことを考えると少し心配になる。それに回復薬ポーションのこともあるし、昔だったら、1000万も稼いだら、おおはしゃぎだったんだろうけど。


 今じゃ、いくら稼いでも足りない。


 まぁ、強くなっている実感があるからまだいいけど。


 すると、明さんが突然、涙を流す。


「ど、どうしたんですか?」


「日向もついにここまで立派になったんだなって思ってな。ぐすぅ!これからもがんばれよ」


「あ、ありがとうございます」


 俺は換金済ませて、そのまま家に帰った。


 そして次の日、いつも通り、学校で授業を受け、学校が終わると、すぐさま探索者協会シーカーきょうかい前に向かった。


「少し早く来すぎたかな」


 現時刻、16時40分。一応、誘った側、礼節をもってしっかりと10分前行動をっと思ったんだけど、早く来すぎたようだ。


「まぁ、待ち合わせ時間まで待つか」


 しばらく、すると。


「来ない……」


 現時刻、17時30分。


 やっぱり、勧誘の仕方を間違えたかな。悪知恵を働けば、とんぼ返りのように返ってくるっててか。


 と、少し反省していると、トントントントンっと走る足音が聞こえているくる。


「す、すいませ~~~~ん!!」


「うん?」


 ふと、聞こえたほうへと顔を向けると、そこには、艶やかな金髪、黄金に輝く瞳、そして、後ろに抱えている大きな荷物。


「あ、明日菜さん?」


「はい!!」


「その……後ろにある大きな荷物は一体……」


「すいません!準備に時間がかかってしまい!この荷物はもしもの時用のためです!!」


 もしもの時用って、いったいどんな時なんだろうと思う俺。


 身の丈に合わないほどに膨れ上がっているリュックが二つ、それを軽々と持ち上げている明日菜さん。


「とりあえず、荷物の整理をしてからいきましょう」


「えぇ!?」


 なんで!?って表情で伝わってくるが、そんなに大きな荷物、ダンジョンじゃ邪魔でしょ。


 俺は片っ端から荷物を整理した。


 明日菜さんが持ってきたリュックの中身には色々なものが詰まっていた。


 『非常用食料』、これはまぁまだわからんでもない。

 『寝袋』、ダンジョン内で寝る気かよ。

 『お弁当箱』、遠足かぁ!!

 『いろいろ怪しい薬草』、こんなもの口にできるかよ!!


 などいろいろ無駄なものが多かったので、とりあえず、いらないと判断したものは置いていくように言った。


「せっかく用意したのに……」


「明日菜さんは一体、どこへ行く気だったんですか」


「ダンジョンです!!」


 俺はこの時、天宮明日菜という人物を少し理解できた気がした。 


 この子、正真正銘の残念女の子系のバカだ。


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