第47話 日向、腹パンをくらう

 あまりにも信じられないのか、顎をがくがくしながら、明日菜を指さす明さん。


「日向もついに、彼女が……」


「だから、なんでそうなるんですか!!」


「え?違うのか?」


「違います!!明日菜もなんか言って……」


 と明日菜のほうに顔を向けると、物珍しそうに『シリア商店』の周りを物色していた。


「す、すごい。この魔石って一体何の魔物なんでしょうか。この大きな魔石も、このきれいな魔石も!!それにこの宝石のような形をした魔石なんて!!」


 明日菜ってもしかして、魔石買取店に立ち寄ったことがないのだろうか、と疑問に思った。


 だが、今はそんなことどうでもいい。


「おい、明日菜!!魔石は後でいくらでも見ていいから。こっちに来なさい!!」


「あ、はい!!」


「ほほぉ~~~呼び捨てなんだな、日向」


 いい年してにやにやとした表情を浮かべる明さん。


 久しぶりに本気で殴ってやろうかと思った。


「あんまり、調子に乗ってると、奥さんに……」


「あ~~~すまんすまん!!で、買取だったな」


「はぁ~~~」


 俺は、今日とった魔石を明さんに渡す。


「おっ!?今日はベアウルフだけか……珍しいな、いつもだったら、大物の魔物の魔石や大量の魔石を持ってくるのに」


「ああ、今日の目的が、魔石採取じゃなかったからな。それより、早く換金してくれ」


「はいはい。わかったよ」


「明日菜、魔石の換金が終わるまで、待機だ」


「わかりました!!じゃあ、魔石を見てきま~~す!!」


 女の子ってきれいなもの好きだよな。宝石とか、服とか。


 愛華も最近、服装とか気にしてるみたいだし、きれいなものか……。


 一体、何がいいのやら。


 しばらくすると。


「換金が終わったぞ!!今日は15万だ」


「ん?割と高いですね」


「ああ、最近、1層から10層で生息している魔物の魔石が不足してるんだよ。だから、最近は換金割合が高くなってんだよ」


「へぇ~~~」


「それより、この金額なら今日はそのまま受け取るよな?」


「受け取りますよ」


 換金を終えた俺は、ふと明日菜を見るとまだ魔石に興味津々だった。


 本当に、明日菜は探索者をやっていたのだろうか。魔石なんて探索者をやっていれば見慣れるもんだし、明日菜が所属していたのは『巌窟』パーティー。


 それこそ、魔石を見る機会や、戦闘経験なんて山ほど詰めたはずだ。


 何かおかしい。


 でも、まぁ楽しそうだし、俺が深く聞くことでもないな。


「それで、明さん」


「なんだよ。まだなんかあんのか?」


「そ、その……ここら辺の近くで、おいしいお店知りません?」


「美味しいお店?急だな……ってあ~~~なるほどな」


 またにやにやとした表情。


 本当に、明さんの頭はお花畑か!?っと言いたい。


「言っておくけど、違いますからね」


「はいはい。わかってるって、それで美味しいお店だが、いくつかあるぞ」


 そうこう話しているうちに、時間が過ぎていき、気づけば、20時を過ぎていた。


「なるほど、結構ありますね」


「まぁ、安く済ませたいなら。ここだな」


「定番ですね」


「まぁ、下手に凝ってるところに行くと逆にひかれたりするからな」


「へぇ~~うん?引かれる?」


「もういいだろう?お店は紹介したんだ。それに、お前まだ高校生だろう?帰るのが遅いとお巡りさんに捕まるぞ」


「大丈夫ですよ。逃げ切れるので」


「はぁ~~日向も十分に探索者に染まったな」


「それほどでも、それじゃあ、今日も換金ありがとうございます」


「おうよ!!」


「明日菜!そろそろ、出るよ」


「はぁ!?わ、わかりました!!」


 こうして、俺と明日菜はシリア商店を出た。そして、俺たちが向かった先は……。


「ここって……」


「そう、今日のご飯は焼肉だ!!」


「やったぁぁぁぁぁ!!!日向くん!!いいんですか!?」


「ああ、今日は俺の奢りだし、存分に食べてくれ!!けど、一応、22時には帰りたいから。早めに食べてくれ」


「わかりました!!」


 それから、焼肉屋に入店して、遅い夕ご飯を食べた。


 思ったよりも明日菜はよく食べていた。


 俺ももちろん、遠慮なくたくさん食べた。


「ふぅ~~お腹いっぱい」


 まだ明日菜は注文しては食べ、注文しては食べを繰り返している。


 あの細い体に一体どこに、あの量が入っているのか、不思議に思う。


 今思えば、こうして外食でお金を使うなんて、昔の俺なら絶対にしなかった。


 別に今、金銭的に余裕があるわけではないが、昔に比べられば、はるかに余裕がある。


 こうして、当たり前になっていくのかな。


 俺は、ふと上を見上げてた。


 気づけば、21時30分すぎ、俺たちは会計を済ませて、店内を出る。


「今日はごちそうさまでした」


 店内を出ると、明日菜が頭を下げてお礼を口にした。


「お礼なんていらないよ。食った分、しっかりとダンジョンに集中してもらうから」


「あ、あはははは」


 顔が全然笑ってない。


「じゃあ、俺は帰るよ」


「私も帰ります」


「明日の待ち合わせも同じところでお願いしますね」


「はい!!」


 こうして、俺と明日菜はその場で解散した。


 明日菜のやる気は十分に感じられる。けど、あまりにも探索者として足りない部分が多い。


 ここはやはり、しっかりと役割をはっきりさせないといけないな。


 そのためにもやはりもっと、ダンジョンに潜って観察しないと。


 気がつけば、玄関前に到着していた俺は、玄関先の扉を開ける。


「ただいま……」


 すると、玄関前で立ち尽くす愛華の姿あった。


 しかし、変だ。


 愛華が目の前で突っ立ったまま動かない。


「あ、あの……愛華?」


「お兄ちゃん……この時間まで何をしていたの?」


「え?あぁ~~ちょっとと、友達?とご飯を……」


 愛華さんがなんか怒っている。


 (大丈夫だろうか……)


「お兄ちゃん……」


「はい!!」


 鋭い目つきで俺を睨み、背筋がぞわっとする。


「夜ご飯を食べてくるなら、しっかりと連絡しなさいッ!!!」


「ぐふぇ!?」


 人生二度目の腹パンを食らいました。









 

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