第2章

第41話 愛華が初めてわがままを

 探索者シーカーっていうのは、いい人ばかりではない。時には、悪を働きお金を得ようとする者もいる。


「こ、これで、今月分のく、薬は!?」


 一人の探索者シーカーが、大量のお金を両手に握りながら、不敵な笑いをする男に薬を求めた。


「ああ、これで今月分は用意してやるよ」


 そう言って、不敵な笑う男は、ショーケースを探索者シーカーに渡す。


「あ、ありがとう!!これで、これで!?」


 歓喜に喜ぶあわれな探索者シーカーの姿。それを見て、高らかに笑いながら。


「ははっ!!滑稽だぜ!!おい、来月分は、1000万だ……いいな?」


「あ、ああっ!!」


 まるで聞く耳持たず。そのまま、路地裏を通って走り去っていった。


「あの『巌窟がんくつ』パーティーが薬一つでここまで落ちるとは、情けねぇな」


 そう言い残して、その場を後にした。



 あれから1週間が経過し、俺は今、菜々花さんとこれから探索者シーカーとしてどう活動していくかについて、相談していた。


「まずは、10層到達おめでとう、日向くん!!」


「あ、ありがとうございます」


 この1週間で、ダンジョン10層まで一気に突破。レベル・2にレベルアップしたからなのか、楽々とっ言いたいところだが、そう簡単でもなかった。


 6層から8層まで楽だったと言えば誤解を生むが、まぁあくまで個人的には楽だった。9層から魔物の脅威の高さやトラップ、そして環境が敵となり、かなり苦戦を強いられた。


 結果的には、突破できたが、お金の出費も激しく、悩んでいた。


「まず、日向くんはパーティーを組むべきだと思う」


「パーティーか……」


「パーティーがいれば、効率的に魔物を狩ることだってできるし、お金の出費だって抑えられる!そもそもソロで10層まで行くこと自体が自殺行為。日向くんは運良く10層まで到達できたけど、もし、これからもっと先へ進みたいなら、遅かれ早かれ、パーティーは組むべき!!」


「そ、そうですよね~~~あはははっ……」


 パーティー、たしかに組むべきだと理解はしている。ただ、誰も俺と組んでくれないのだ。


 ニュースでの一件で俺は少しだけ認知されるようになった。でも、それは好意的な認知ではなく。


「どうせ、小細工でもしたんだろう」

「きっと魔法で、レベルを上げんたんだわ!!」

「これだから、ずる賢い奴は」


 など、批判の嵐で、むしろ前より冷たい目で見られるようになった。


 我ながら笑えない話である。しかし、今さら、起きたことを引きずっていてもしょうがない。


「がんばって、パーティーの勧誘をやってみます!!」


「そうだよ!その意気だよ!日向くん!!応援、してるからね!!」


「あ、はい!!」


 菜々花さんの笑顔はいつも以上に輝いていた。


 結局、探索者協会シーカーきょうかいで勧誘を頑張るも、まったく成果がでず、気づけば、夕方を迎えていた。


「ゼロだと……」


 幾人もの探索者シーカーに声をかけたというのに、みんな「あ、いいです」「げっ!?」「話しかけるな」など聞く耳持たず、挙句には俺を見て遠ざかっていった。


 俺ってもしかして、変な人って思われてないか?いやいや、そんなわけ、俺はあくまで、パーティーメンバーの勧誘のために、探索者協会シーカーきょうかいで待ち伏せして、片っ端から探索者シーカーに声をかけて…………。


「変人じゃないか……」


 たしかに、俺が見てきた中で、探索者協会シーカーきょうかいで勧誘しているところなんて、あまり見たことがない。


 それもそのはずで、大体の探索者シーカーがパーティーを組む場合、身内が多く、外部の探索者シーカーをパーティーメンバーに入れたがらない。


「それじゃあ、一体どうしたらいいんだよ」


 そんなパーティーメンバー勧誘に頭を悩ませていた時、突然、探索者協会シーカーきょうかい内で叫び声が響き渡る。


「おぉぉぉぉぉぉぉい!?どういうつもりだ!!」


「ご、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」


「くそ!!こいつのせいで、今日も稼げなかったぜ」


 激怒している手慣れた装備を着た探索者は、一人の女性探索者の腹を足で蹴り飛ばしていた。


 倒れこむ女性探索者に周りパーティーメンバーと思われる探索者が囲い。


「やれ。徹底的に、失敗することがどういうことが、痛みで思いしらせてやれ」


「「「「はい!!リーダー!!」」」」


 返事と同時に女性探索者に何度も、殴ったり、足で蹴り飛ばしてを続けた。


「おいおい、あれはさすがに止めたほうがいいよ……」


 でも、だれも止めようとしない。それもそのはず、あのパーティーをよく見ると、ドクロマークが装備品につけられている。


 間違いない。ここ最近、ダンジョン攻略に貢献しているパーティー『巌窟がんくつ』だ。


 最近は、メンバーを増やして戦力の増強をしており、周りの探索者シーカーは警戒をしている。


「くぅ……」


 助けに行きたいけど、ここで敵に回せば、標的がこちらに向くかもしれない。


 いや、なんで俺はそんなにビビっているんだ。考えるんだ。由紀さんならきっとこの場面に出くわしたら、助けるはずだ。


 俺は、痛めつけて楽しいでいる『巌窟』のもとへ向かおうとしたとき。


「何をしているの?」


「あん?ってなぁ!?」


 その一人の探索者をみて、リーダーと思われる探索者シーカーが驚きの表情を見せる。


 銀髪をなびかせながら、軽装備で現れる神城由紀。その姿を見て、誰もが釘付けにされる。


「もう一度言うけど、何をしているの?」


「あ、いや~~~くぅ、おまえら!!ずらかるぞ!!」


 神城由紀が現れた瞬間、焦りを見せ、そのまま逃げるように去っていった。


 そして、傷だらけになった女性探索者に神城由紀は優しく手を差し伸べ、声をかける。


「大丈夫……ですか?」


「あ、はい」


 そのきれいな瞳に、女性探索者は見惚れてしまう。


「よかった。……念のため、病身に行ったほうがいいよ、それじゃあ」


 そう言って、由紀さんはダンジョンの入口へと向かっていった。


 颯爽さっそうと現れて、女性探索者を助けるなんて、かっこい!!さすが由紀さん!!


 それに比べて、俺は、助けることをためらってしまった。まだまだ、由紀さんの背中は遠いな。


 でも、まだまだここからだ。努力を惜しまず、精一杯、がんるぞ!!


 そう心に誓い、今日は家に帰ることにした。


 玄関の扉を開けると。


「お兄ちゃ~~~~~~~~~~ん!!」


 突然、愛華が俺の胸に飛び込んできた。


「ど、どうした?」


「お兄ちゃん……お引越ししたいな?」


 上目遣いな愛華に可愛いと思ってしまった、情けないお兄ちゃんであった。


ーーーーーーーーーー


2章の始まりです!!

よろしくお願いいたします。!!

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