第37話 【脅威種】ジャイアントコボルト 再戦③

 赤いオーラを纏う柊日向の姿を見て、蓮は笑う。


「おいおい、蓮!あれって『スキルリミット』じゃねぇのか!!」


「たしかに、あの赤いオーラは『スキルリミット』の可能性があるな」


 紅と達也は同じ意見のようだが——。


「いや、あれは違うよ。もし『スキルリミット』なら、少なからず理性を失っているはずだ。でも、彼の瞳を見てごらん。彼はまっすぐに敵に向いている。あれは恐らくスキルの効果だろう」


 (とはいえ、あれはいったいどんなスキルなんだろうか?)


 僕が知っているスキルの中で、あのように赤いオーラを纏うスキルは一つしか知らない。


 いや、今はそんなことどうでもいい。それより問題なのが、柊日向の武器だ。


 彼は今、武器を失っている状態だ。いくら、強くなったとしても、武器がなければ、牙を持たない獣と同じだ。


「——達也。あの武器を持っているかな?」


「武器?武器って何のことだ?」


「ほら、少し前にダンジョン96層で見つけた。あの武器だよ」


「はぁ!?おいおい、まさか、あの小僧に渡す気か!!」


「そうだよ。だから、持っているかと聞いているんだ」


「それりゃあ、持っているけどよ。俺は反対だぞ。あんな小僧にあの剣を使いこなせるわけがねぇ。あの剣は下手をすれば、俺たちの目的のために必要になるかもしれねぇ、代物なんだぞ!」


「達也。よく見るんだ。彼の姿を、彼は今、新しい一歩を踏み出そうとしている。そしてそのためには、武器が必要だ。たしかに、僕たちにとって、あの剣は必要になるかもしれないけど、今、あの武器を一番に必要にしているのが、誰のか、考えるべきなんじゃないのかな?」


「だ、だが!そもそもあいつはレベル・1なんだろう!!そもそも、握れるかすら——」


 その時、蓮は達也の瞳を覗き込み、一瞬、蓮の雰囲気が変わったことに達也は気づく。


「達也、最初っから、無理だと決めつけてはいけないよ。僕たちだって、何回も困難を乗り越えてきた。でも、その困難には、いつも支え合う仲間がいた。今度は僕たちが支えてあげる番じゃないかな?」


「くぅ……蓮……わ、わかったよ!!」


 そう言って、達也は後ろに抱えている一つの剣を取り出す。


 真っ黒な刀身がきらびやかに輝く、


「本当に、あの小僧に渡すんだな」


「ああ、彼ならきっと使いこなす。そう、僕の勘がそう言ってる」


 僕は漆黒の剣を持って。


「期待しているよ。柊日向——」


 そう告げて、僕は彼にめがけて、剣を投げた。



 体の底から力が溢れてくる。頭の中身をもスッキリしているし、何より、この高鳴る心臓。


 不意に俺は笑う。


 俺は今、ジャイアントコボルトと相対していながら、この窮地きゅうちを楽しんでいる。いや、最初っから、俺は楽しんでいたんだ。


 【脅威種】ジャイアントコボルトはずっとこちらを睨み付け、殺気を放っている。


 なのに、怖くない。何も感じない。


「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 広間全体に轟く雄叫び、並みの探索者シーカーなら、怖気つくだろう。


「ふぅ~~うん?」


 その時は、一振りの剣が俺の近くで突き刺さる。


 真っ黒な刀身を持つ剣、それを見たとき、自然と手が伸びた。まるで、その剣を握れと言わんばかりに。


 そして、俺はその剣を握った。


 (なんだろう。手に馴染む、まるで最初っから、体の一部化のように)


 地面に突き刺さった漆黒の剣を引き抜き、ジャイアントコボルトに刃を向ける。


 (おかしいな。自然と体が軽い。張りつめていた心もほぐれてる)


 漆黒の剣に体に纏う真紅のオーラが流れ込む。


「こいよ!!」


「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 俺の言葉に呼応するように、ジャイアントコボルトは雄叫びを上げながら、俺に向かって突進する。


 その動きを見て、俺は漆黒の剣を構えて。


「いける」


 よける動作をせず、右足を蹴り上げながら、加速して、真っ向から迎え撃つ。


 そして、俺と【脅威種】ジャイアントコボルトが交差する瞬間、俺は剣を振り上げ、二振りの剣を衝突する。


 拮抗しあう二振りの剣、衝突する力はその場の地面をえぐり取った。


 力の差は歴然、ジャイアントコボルトのほうが強く、俺の腕もすでに限界だ。でも、なぜ力が湧いてくる。


 筋肉の軋む音、その音が鳴るたびに、激痛が走り、いつ筋肉が引きちぎれてもおかしくない。


 なのに、なんでこんなにもしみなく力を引き出せるのだろうか。


 いや、そんなことはどうでもいいんだ。今はただ、目の前にいる敵に全力をぶつけるまでだ。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」


 拮抗しあう二人の剣についに綻びが生じる。


 俺が持つ漆黒の剣がジャイアントコボルトが持つ大剣を真っ二つに切り裂いた。


 初めて、力勝負で勝った瞬間、ジャイアントコボルトは一歩二歩下がり、その隙を見て、俺はさらに猛攻を仕掛ける。


 体を前へと押込み、漆黒の剣を振り上げ、斬撃を繰り出す。


 ジャイアントコボルトの攻撃する時間を与えない。一振りするたび、相手を見て、次の行動を予測し、行動を移される前に先回りする。


 そして、そのまま漆黒の剣を振り下ろす。


 何度も、何度も、何度も、決してジャイアントコボルトに攻撃をする隙を与えない。


「うがぁぁぁぁぁぁ!!!」


「なぁ!?」


 ジャイアントコボルトの大剣に白いオーラが奔流し、即座に振り下ろされた。


 咄嗟に漆黒の剣を盾にして受け身の姿勢に切り替える。


 そのまま、攻撃は直撃した。


「ぐはぁ!?」


 後方へ吹き飛ぶも、漆黒の剣を地面に突き刺し、ブレーキをかけて、衝撃をやわらげる。


「ふぅ~~危なっ」


 確実に武器を破壊したのに、それでもお構いなしに破損はそんした武器にエンチャントして振り下ろしてくるなんて、油断した。


 それに、さっきのエンチャント、ほぼためる時間もなく、瞬時に発動していた。


「一筋縄じゃ、いかないか」


 さっきの猛攻でジャイアントコボルトもかなりダメージを受けたはずだ。なら、このまま畳みかければ、勝機は必然と見えてくるはず。


「ふぅ~~~~」


 呼吸を整えて、心を落ち着かせながら、漆黒の剣を構える。


 すると、ジャイアントコボルトは大剣を投げ捨て、両手を地面につけた。


 もう大剣は使い物にならないと判断したのだろう。


「そろそろ、終わりにしようぜ」


「———ふぅん」


 ジャイアントコボルトは俺の言葉に呼応するように、笑った。


 

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