第34話 柊日向は再び前へと歩む

 目の前、女神が現れた。


「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」


 ジャイアントコボルトは唸り声を上げながらも、こちらに殺気を向けている。


 なのに、由紀さんはそんなことを気にする様子もなく、俺のことをじっと見つめて、そして、ゆっくりとジャイアントコボルトへと体を向けた。


「そう、あの魔物が日向くんを、こんな目に……」


 その声には怒りがこもっていた。


 由紀さんと目が合うジャイアントコボルトは、また一歩、後ろに下がる。


 すると。


 「トントントントン」足音が複数、聞こえた。ふと目線を由紀さんが通った道を見ると、そこには、他に4人の探索者シーカーが姿を見せた。


「由紀!!」


 由紀さんの名前を呼んだのは、槍を持つ一人の探索者シーカーだった。


「蓮リーダー……」


「この状況は……そうか、なるほど。陣形を整えろ!!あのジャイアントコボルトを討伐する!!」


 槍を持つ探索者シーカーは現状を見ると、直ぐに指示を出した。


「「「了解!」」」


 その指示に合わせて、他3人が声を上げた。


「由紀!!君が先陣を切って、ジャイアントコボルトの動きを封じろ!!」


「——わかった」


 完璧な連携、誰も指示に疑うことなく、確実に実行している。


 すごい、特に槍を持っている探索者シーカー。一切のためらいもなく、適切な指示を出している。


 きっと、この連携なら簡単にジャイアントコボルトを倒せるだろう。


 (俺は助かったんだ)


 助かった?由紀さんに助けられ、大丈夫だと、安心した?なんで、俺は安堵感を抱いているんだ。


 俺のさっきまでの前向きな威勢はどうした?死を覚悟してまで、踏み出したあの一歩は噓だったのか?


 あの人たちだったら、確実にジャイアントコボルトを倒せる。それは確信して言える。


 けど、この終わった先に、果たして、俺は何を得るのだろうか。


 ジャイアントコボルトの激戦の末に、他の探索者シーカに助けられた、哀れな探索者シーカ


 そんなもの、糧にすらならない。そんなものを得るのなら、舌をかみちぎって死んでやる。


 なんで、こんなにもむきになっているんだろう。


 今回は、運が悪かった。敵が強すぎた。ここで負けても、また強くなって、挑めばいい。


 けど、また挑めばいい、だから諦めよう。そんなことで、由紀さんに追いつけるのか。


 ダメだ!ここで、また由紀さんに甘えてはだめだ。強くならないと、由紀さんに助けられなくても、戦える、勝てる存在にならないと。


 こんな所で、立ち止まる分けにはいかない。


 (あれは、!!誰にもやるものか。俺は、あいつを倒して、さらに、前へと進むんだ!!そして、由紀さんすら超える探索者シーカーに俺はなるんだ!!)


 その時、体全体から青白い光が拡散した。


 その様子を見て、神城蓮は。


「あれは……全員!後退!!」


 何か起こると判断して、即座に後退する指示を出した。


 青白い光はいつもより強く輝き、柊日向を包んでいた。


「———ひ、日向くん」


 由紀はその光景を見て、蓮に指示される前から足を止めていた。


 俺は、ゆっくりと体を起こし、剣を強く握った。


 そして、由紀さんの近くまで歩み寄り。


「あれは、俺の獲物です。手を出さないでください」


 その声は、小さいにもかかわらず、その場にいる探索者シーカー全員に聞こえた。


 透き通りながらも、獣のような牙を思わせる鋭い声は背筋が凍えた。


 それを感じた神城蓮はニヤッと笑い、由紀はその言葉を聞いて、そっと後ろに下がった。


「由紀、少し聞いていいかな?」


 すると、神城蓮が話しかける。


「な、なに?」


 予想外な事態が起きたのか、由紀は少し動揺していた。


「彼のことは知っているのかい?」


「うん。知ってるよ」


「レベルやスキルは?」


「それは知らない」


「そうか——」


 この時、すでに僕は柊日向の存在を認知していた。なぜ、認知していたのか、それは由紀との一見があったからだ。


 由紀が他人に興味を持つことは珍しく、ついつい興味本位で調べてしまったわけだが、そこでとある資料が目についた。



『レベル・1のスキル『なし』』



 この資料見た瞬間、僕はとある憶測が浮かんだ。果たして、レベル・1のスキル『なし』に由紀が興味を持つだろうか、いやもしかしたら、それが理由で興味を持ったのかもしれない。


 ただ、これはあくまで僕視点での話だ。だから、このことは心の奥底でしまっておくことにした。


 しかし、今目の前に起きている現象は真実なのだろうか。


 スキル『なし』なはずなのに、彼は今、青白い光をまとっている。あれは間違いなく、スキルだ。だって、僕の本能がそう叫んでいいるから。


 なら、僕が見たあの資料は古いものだったということになる。


 いや、そんなことは今はどうでもいいんだ。だって、こんなものは建前だから。


 由紀に柊日向について確認を取ったのも、全て——。



『彼に本気で興味を持ってしまったからだ』



 あの獣のような表情、真っ直ぐな目線、折れない闘争心。誰にもとられたくないというエゴ。僕は、あれをどういう存在なのかを知っている。


「——面白い」


 勝てないとわかっていながらも、前へと踏み出す勇気、自分の命など考慮に入れず、本能で動く化け物。


「茜、紅、達也、由紀——手を出すな。彼が最後まで戦い抜く姿を見届けろ」


 その指示に、みんなが驚きの表情を見せた。


「なぁ!?それは本気で言っているのか、蓮!!彼を見殺しにする気か!!」


 最初に声を上げたのは、紅だった。


「彼は言ったはずだよ。『手を出さないでください』って、だから、見届けるんだ。それに、いざってときは、助けるさ。だから、僕の指示があるまで手を出すなよ」


「———くぅ、わかった」


 気持ちを押し込めるように、紅は納得した。


 すると、由紀が険しい表情で、彼を見つめていた。


「心配かい?彼のことが?」


「——心配じゃないと言ったら、噓になる。けど、さっきの日向くんの表情を見たら、なんだか、私の知っている日向くんじゃないというか……」


「心配はいらないさ。由紀が彼に対して何を思っているのか知らないけど、彼は今、この戦いに意味を持とうとしている。だから、最後まで見守ってあげるんだ」


「戦いの意味……よくわからないけど、わかった」


「それにきっと、この戦いの先に彼の本当の姿が見れるだろうしね」


 僕は、あれをどういう存在なのかを知っている。


 あのように、前へ向かった歩む存在、それを。





 って言うんだ。


 かつて、探索者シーカーという呼び名は、昔『冒険者』という呼び方だった。しかし、技術の進歩とともに、時代の流れは進行し、ダンジョンはお金を稼ぐ目的で挑むものが多くなった。


 その時代の流れとともに、『探索者シーカー』と呼ばれるようになった。


 今から、始まるは、冒険者としての戦いだ。


 彼は前を向いて、ジャイアントコボルトと目線を合わせ。


「———いくぞ!!」


 その一言ともに、再び彼は駆け出した。



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