第33話 【神城蓮視点】神城由紀が向かう先には
数時間前。
神城家に属する『天狼』パーティーは予想外の事態に陥っていた。
ダンジョンにはたまに大きな広間が出現することがある。
それは1層から存在しており、下降りていくたびに、出現確率は上がっていく。
その謎の広間の中で発生する最悪な事態を
モンスターパニックはある特定の場所で魔物が大量に発生する現象。
ダンジョン層が低ければ低いほどの、モンスターパニックに遭遇しまう確率は低く、遭遇しても、1層から5層までは大したことはないので、基本は生き残ることができる。
だが、僕たちがこの時、4層で偶然にも遭遇したモンスターパニックは少し違和感があった。
「これで、最後だな」
モンスターパニックで大量に出現したケルベロス、その数は僕が数えただけでも40匹以上。
僕は、最後の一匹であるケルベロスの頭を槍で突き刺した。
「こっちも終わった」
「俺のほうも終わったぞ、蓮!!」
「私も終わった!!」
「————私も」
他の4人も無事にケルベロスを狩りきったようだ。
4人とも余裕そうな表情、汗一つかくことなく平然としている。
「みんあ、体力は見なくても大丈夫そうだね。それじゃあ、さっさと5層へ行こう」
皆に一言残して、僕たちは再び歩き始める。
それにしても、5層のモンスターパニックにしては、魔物を全滅させるのに5分以上かかっちゃったな。
モンスターパニックにはそのダンジョン層のレベルに合わせた魔物が大量に出現するのが常識だ。
僕たちのように、ダンジョン90層まで到達している
なのに、モンスターパニックに遭遇した時の、ケルベロスの動き、まるで最初っから僕たちの攻撃パターンや作戦を知っているような素振りを見せていた。
(深く考えすぎかな)
「それにしても、こうやって、4層をゆっくりと歩いていると昔のことを思い出すよね」
「急に何を言っとるんだ、蓮」
「———たしかに、蓮に言われると思い出す、かも」
「何々!!蓮と茜と達也の昔話?ちょ~~気になるんだけど!!」
僕の言葉に興味を示す紅、そんな様子を見てめんどくさそうに表情をする茜と達也をみて、僕は笑う。
「紅は僕たちの昔話を聞かせたことあるだろ?」
「そうだっけ?」
「紅は忘れっぽい」
「なぁ!?それはひどくないか、茜!?」
「がははははっ!茜はいつも言葉を選ばんからな!!!」
「こらこら、三人共、話が盛り上がるのはいいけど、しっかりと索敵もしてくれよ。5層とはいえ、油断すれば死ぬんだから」
「大丈夫だって!私たちは最前線でダンジョンを攻略している
「そうかな?それにしては、4層のモンスターパニックでは、少し苦戦しているように見えたけど?」
「あ、あれは、思った以上に強かっただけ、油断さえしなければ、『天狼』最強アタッカーの紅が苦戦することなんてない!!」
自信満々に自分を最強と
「紅、少し黙ろう」
「は、はい」
僕が少し強く言うだけで、反省してくれるところも紅の長所だ。
「…………」
「どうしたんだい、由紀?」
由紀がずっと僕たちが進む道を見つめていた。
「別に、ただ嫌な予感がするだけ」
「嫌な予感?」
「うん。まだうまく説明できないんだけど」
「いいよ。もしまた、変な違和感を感じたら、教えてほしい」
「わかった。蓮リーダー」
由紀はとても賢く命令を確実に実行してくる、優秀な
でも、由紀には、誰もが持っていない、異質な何かを持っている。
それが何なのか、僕ですら分からない。
ただ一つ言えることは、神城由紀は
「そろそろ、5層の入り口に到着する。みんな、準備はいいね?」
「——うん」
「おうよ!」
「準備なんて必要ない!さっさと終わらせよう!!」
「私も早く終わらせて、蓮リーダーと戦いたい」
みんな、調子と共に大丈夫のようだ。
「よし、じゃあ5層に入ったら、手当たり次第に調査を始める。決して、小さな痕跡すら、見逃すなよ。いいな」
こうして、僕たち『天狼』は5層に足を踏み入れた。
「おかしいな」
ダンジョン5層の調査を始めて、3分で違和感に気づく。
「あまりにも少なすぎる……」
魔物の匂いが薄い。殺気の気配も全く感じられない。まさしく、「何もないダンジョン」と言いたくなるほどだ。
「…………これは異常だね」
僕はすぐに『天狼』メンバー4人を収集し、情報を共有すると共に僕と同じ意見だったことを確認した。
これは、今まで経験したことがない事態だ。
5層なのに、全く魔物と遭遇しない。それも、他の4人も同様だ。
なら、原因があるとすれば、5層のどこかで何かが起きている可能性がある。
(なら、僕たちがとるべき行動は……)
「よし、茜、探知魔法を頼みたい。いけるか?」
「———いけるけど、探知魔法は魔力消費が激しいから、10分ほどは使い物にならなくなるけど、大丈夫?」
「問題ない」
「わかった——」
すると、茜は杖を上に掲げながら、唱え始める。
「【
茜の持つ杖が緑色に神々しく輝き、その光は波紋のように広がり、脈打つように何度も、その場を照らした。
「どうだい?何かわかったかい?」
そう茜に問いかける。
探知魔法はサポーターにとって取得必須な魔法の一つ。
探知魔法【ペテルス・サーチ】は探知魔法の中でも高度な魔法で、その分サーチ能力は優秀。魔物の位置から魔力、その魔物の状態まで細かい詳細まで把握できる。
だが、この魔法は魔力消費が激しく魔力量に自信があっても、この魔法を使えば、一時的に魔法が使えなくなることが多い。
「——この道の先、通り道の4っ目、その曲道の先に一つ大きな魔力の塊が見える。あと、小さな魔力がいくつも、恐らく
「なるほど、原因がそれかは分からないけど、行ってみる価値はある。よし、そこに向かおう」
さすがは、茜だ。道から細かい情報まで、これほど優秀なサポーターは中々いないだろう。
「茜、体調は大丈夫か?」
「うん。少しふらつくぐらいだから」
「そうか、念の為、紅!茜の隣で待機だ」
「了解だ!!」
念の為、茜の隣に紅をつけておくようにした。
茜は基本、外では無口で、僕たちに気を遣っているのか、無理をしていても、「大丈夫」と言って、誤魔化してくることがたまにある。
ダンジョン5層だから、大丈夫だとは思うが、念のためだ。
保険は多ければ多いほどいいからな。
こうして、僕たちは、茜の言った道へと進む。
すると、由紀が何かに気付いたのか、驚愕の表情を見せる。
「どうした?由紀——」
「血の匂いがする。それも、沢山の……」
「血の匂い?」
ということはやはり、この先に原因の魔物がいる可能性が高い。
(ならここは、慎重に行くべきだ)
レベル・3の
(いや、待ってよ。ここは……)
「———由紀」
「なに?」
「先陣を切れ。たしか、茜の情報では戦っている
「———い、いいんだね」
由紀は笑った。獣のような、飢えているようなそんな表情で。
「ああ、いけ!!」
俺の一言と共に、由紀は風のように駆け抜けた。
「ちっ、なんで由紀に先陣を任せるんだよ」
不服そうな表情で口をあけた紅に、僕は笑いながら答えた。
「ただの気まぐれだよ。それにいつも同じ役割をこなしていると、テンプレ化して、
「そうか?」
納得いっていない様子を見せるが特に、僕が気に掛けることはない。
「それより、僕たちも早く進もう。由紀が強いとはいえ、彼女を一人にさせるのは少し心配だ」
「なら、先陣を切らせなきゃいいのに」
そんな不満の声を紅はこぼした。
私は、5層に踏み入れた瞬間から、違和感を感じていた。
魔物の気配が薄く、ダンジョン内なのか、疑うほどに。
本当に、ここは私が知るダンジョンなのだろうか。
「この先に——いる」
血の匂い、獣の匂い。この先に確実にいる。
私は確信したとき、さらにギアを上げて、加速した。
近づくことに、匂いが強くなっていく。
そして。
聞き覚えのある声が向かう先から聞こえた。
(この声、どこかで……)
私は、無意識にレイピアを取り、いつでも、引き抜ける構えに切り替える。
向かう先に差し込む光、私はさらに風を切り裂くように加速する。
その光の先へと足を踏み入れると。
そこには、ジャイアントコボルトと、日向くんが向かい合って戦っていた。
その光景を見て、私は———。
レイピアを瞬時に引き抜き、風を纏った。
私は、一瞬で、ジャイアントコボルトを切り裂き、彼の前に姿を見せた。
その時、私は不思議な気持ちで満たされていた。今まで、感じたこともない感情。
「だ、大丈夫?日向くん」
目の前にいるジャイアントコボルトに倒す気で攻撃した。
けど、思ったより、皮膚が頑丈で仕留め切れなかった。
(あの堅物、思ったよりも、硬い……)
と、ふと日向くんを再び見る。
無残なボロボロの姿、あちこちには出血が見られ、重傷ではないものの、激戦を繰り広げていたことは見てわかる。
その姿を見て、胸がざわめいた。
その時、私は自分が抱いている感情に気づいた。
私は、なんで、こんなにも怒りを抱いているのだろう。
ーーーーーーーーーーーーー
『
【攻撃力】と【魔力量】と【装甲】を追加します!!
第16話にもすでに追加してあります。
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