第31話 【脅威種】ジャイアントコボルト 再戦①
ジャイアントコボルトも俺も戦う気は十分だ。
ここは、地上とは違う、弱肉強食の世界。食われるか食うかの二択しかない。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
獣のように喉を震わせながら、俺はジャイアントコボルトに向かって疾走する。
右手に片手剣を持ち、いつでも攻撃できるように構えた。
その威勢に張り合うように、大剣を片手で持ち上げ、迫りくる俺を捉えて軽々と振るう。
俺はすかさずに身軽によけて、そのまま懐へと入り込むと。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
ジャイアントコボルトからノイズのような声を叫びだし、俺は反射的に耳をふさいだ。
「うぅ、うるさってしまっ……」
その瞬間にジャイアントコボルトは拳を振るった。
その拳は狙ったかのように直撃し、後方へと吹き飛ばされる。
「ぐぅ……危なかった」
(咄嗟に片手剣で防いだけど……)
ジャイアントコボルトの拳の一撃、片手剣でやわらげたとはいえ、傷は浅くない。
直接、攻撃を仕掛けるのはやめるべきか?けど、それでは、ただ体力が削られているだけ。
相手は魔物、しかも『脅威種』、また体力勝負にもっていくのは、愚策……。
なら、今の俺に何ができる。
いや、考えすぎかもしれない。
俺はゆっくりと立ち上がり、ジャイアントコボルトの目を覗いた。
「ははは……余裕そうな顔だな」
ジャイアントコボルトが何を考えているかは分からないが、あれは明らかにかかってこいという目だ。
なら、ここは策ではなく。
「本能のままに、全力で!いくまでだッ!!!」
考えることをやめた。
俺は、自分の感覚にすべてを任せた。
大剣で器用に使いこなすジャイアントコボルトは俺の片手剣と交わる。
小さい体を利用し、何度も片手剣で相対しながらも、その力の差は歴然。
強いだけじゃない、力でも負けてる。
せめぎ合う二人は、何度も剣が打ち付けるが力の差でどうしても俺が後方へと下がってしまう。
「ぐぅ!?」
馬鹿正直に、大剣と向かい合っちゃだめだ。
この円柱状の広間は広く大剣を振り回しても、全くもって問題ない、まさしくジャイアントコボルトのために用意された闘技場のような場所だ。
しかも、足場には
この場所はあまりにも戦いにくい。
(どうする、どうすれば、戦いを有利に持っていける?)
しかし、そんな考えをさせる間もなく、ジャイアントコボルトの猛攻が続く。
大剣を隙なく俊敏に振り回し、その勢いは徐々に早く、正確に俺をとらえるようになる。
(こいつ、俺との戦いで成長している!!)
大剣を振るうスピードも正確なさばき方も洗練されていっている。
何とか、片手剣でいなしてはいるものの、このままじゃやられるのは俺のほうだ。
「うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ———」
突然、ジャイアントコボルトの動きが止まる。
「はぁはぁはぁはぁはぁはぁ———」
(どうしたんだ?)
急に動きを止めたジャイアントコボルトに注意を払うと。
「——がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
大剣を大きく構えると、大剣の先から薄っすらと白いオーラが奔流する。
嫌な予感がした。
その瞬間。
「【◇◇◇】!!」
ぼそぼそっと聞こえると、大剣を振り下ろしながら、こちらへと迫ってくる。
そのスピードはさっきまでとは比較にならず、一瞬で至近距離まで詰められる。
あれは間違いなく魔法だ。しかもエンチャント式の……あの一撃だけは絶対に受けちゃだめだ。
魔法込みの剣撃は俺のように軽装備じゃあ、まず防げない。しかも、しかもエンチャント式は一撃を強くする魔法が多い。
受け止めるのではなく、いなして力を外へ逃がすしかない。
ジャイアントコボルトの一撃が目の前まで迫る中、俺は、すかさずに片手剣を構える。
その間、約数秒も経っていない。
自身のリソースをすべて防御に全振りする。
この一撃を防げば、まだ勝利の希望がある。だから、こんな所で死ぬわけにはいかない。
エンチャントを纏った大剣と片手剣が触れる瞬間、誘発するように強すぎる力で、片手剣に亀裂が入る。
(このままじゃ、先に片手剣が折れる!!)
受け流そうとするも、力が強すぎて受け流す前に剣が折れるのは触れた瞬間に確信した。
だが、それが分かったところでも遅い。
諦めるしかないのか……。
脳裏によぎる死の直感、ここで死ぬのかとそう思った。
その瞬間、片手剣に青白い光が纏った。
「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
エンチャントを纏った大剣は振り下ろされ、地に亀裂が入る。
「はぁはぁはぁはぁはぁはぁ……い、生きてる」
ギリギリ大剣を受け流していた。
片手剣はひびが割れているものの、砕け散ることはなかった。
すぐさま、ジャイアントコボルトと距離を取り息を整えて、身構える。
(何が起こったんだ。俺は、今何をした?)
確信して言える、あの攻撃は絶対に受け流すことなんてできなかったはずだ。
片手剣の強度、ジャイアントコボルトの魔法折込みの一撃には絶対に耐えられないと触れた瞬間に感じた。
なのに、結果はギリギリで攻撃を横に受け流すことができた。
理由を考えるなら、垣間見えた青い光だ。
そう思考を巡らせていると殺気を強く感じた。
視界を前へと向けるとジャイアントコボルトがこちらを見て、牙を剝き出しにしていた。
「はは……」
言葉が出ない。
攻撃を受け流されたことが予想外なのか、殺気がより際立っていた。
勝てる気がしない。
ジャイアントコボルトは俺よりも力強く、魔法を使って武器強化ができる。スピードも俊敏で、なおかつ対応力もある。
まるで、歴戦の戦士と戦っているみたいだ。
勝てない。勝てないと直感が訴えかけてくる。なのに、抑えられない。
俺は、まだ戦える。まだ負けていない。まだ限界を超えていない。
あの時の俺のほうが強かった。
重い足を持ち上げて、鉛のように重い体を起こす。
「ここからだ……」
そうだ、まだ、負けたわけじゃない。
その時、体の奥底から沸々と湧き上がる何かを感じた。
この感覚、どこかで感じたことがある気がする。
青白い光が体全体を包み、自然と全身から力がみなぎってくる。
「いくぞ———」
俺はためを入れて、ジャイアントコボルトの真正面に飛び出した。
体が軽い。まるで自分の体じゃないみたいだ。
体を俊敏に動かしながら、相手の視線を誘導し、攻撃を遅らせる。
不思議と体が軽いからか、スピードが俊敏、それを利用して、この広間の広さを利用する。
冷静に考えてみれば、たしかにこの広さはジャイアントコボルトにとって地の利だ。
だが、逆に言えば視野が広くその分選択肢が多数だということ。
なら、逆に選択肢を増やし、混乱させればいい。
運がいいことに、ここは円柱状の形をしている。つまり、死体を気にしなければ、簡単に敵の背後に一瞬で回り込むことができる。
なぜだろう、余計な考えが入ってこない。凄く頭が冴えてる気がする。
円柱状の広間を利用して、常にジャイアントコボルトの視界から外れるように動き回る。
「うぅ?うぅ?うぅ?うぅ?うぅ?」
何度も首を回し、俺を追いかけるジャイアントコボルト。
作戦はうまくいっている。
問題はジャイアントコボルトが俺の俊敏な動きに慣れてしまうことだ。
急に電気を消されても、数分経てば慣れるように、人に限らず必ず慣れてくる。
その時、青白い光がさらに一段と輝きが増し、さらにギアがかかる。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
俺は、一気に勝負をかける。
片足を思いっきり蹴り上げ、ジャイアントコボルトとの距離を縮め、右手に持つ片手剣を握りしめると、青白い光が片手剣に奔流を始める。
俊敏な動きに反応するジャイアントコボルトはすぐさま、大剣を構え、こちらへと振り上げてくる。
完璧に俺をとらえた一撃だが。
(———遅い)
すぐさまに、もう片足で軽々よけ、再び蹴り上げ突撃する。
そして。
「——たどり着いたぞ」
ジャイアントコボルトの真正面、少し前に出れば、届く距離にまでたどり着く。
その瞬間、青白い光はさらに輝きだし、青一色に変化した。
「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
この至近距離では大剣は届かないと判断したのか、空いている左拳を振り上げる。
だが、その一撃が届くよりも先に。
「俺のほうが一足早いッ!!」
がら空きの腹をめがけて、全力で。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
剣で引き裂いた。
肉をえぐるような感触が剣先から手先をつたって伝わってくる。
手ごたえはあった。
だが、ここで俺は、一つ間違いを犯していた。
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