第28話 神城家の属するパーティー『天狼』

 時間は少し遡る。


 探索者協会シーカーきょうかいが出した緊急指令により、会長室にとあるパーティーが呼び出された。


「よく来てくれました。神城家の属するパーティー『天狼てんろう』のみんなさん」


 『天狼』、神城家の中でも最前線でダンジョン攻略をしている最強パーティーの一角。


 計7人で構成されており、その実力は計り知れず、まだ育成途中のメンバーもいることから、まだまだ成長の余地がある化け物パーティー。


 そのパーティーのリーダーを務めるのが神城家の次男、神城蓮かみじょうれん。彼は軽い口調ながらも礼儀を思わせる口ぶりで。


「僕たちに堅苦しい礼儀はいらないよ。それより、こんな忙しい時期に一体、何のようだ?」


 と辛口で言うと、茂会長は高らかに笑う。


「一応、ここは会長室なんだけどな。まぁ、こちら側が頼む立場だし、大目に見よう」


 茂会長はピリピリとした空気感が漂う中で、紅茶を一口飲む。


「さて、本題なんだが、君たちも知っての通り、ダンジョンで起きた事件を知っているね?」


「ああ、ダンジョン5層でレベル・3の探索者シーカーが死亡した事件だろ。知っているよ——」


「その事件の調査依頼を。神城家の属するパーティー『天狼』の皆さんに頼みたい」


「なぜ、僕たちに?話を聞いた限りでは、別に他のパーティーで十分調査できるレベルだと思うけど?」


「そう甘く考えられたら、よかったんだけどね」


 含みのある言動に蓮は両手を重ねる。


「つまり、この事件にはまだ裏があると?」


「そういうことだよ。さすが蓮くん、物分かりがよくて助かるよ」


 不敵な笑みを浮かべる茂会長。


 その表情を見て、神城蓮は、ふと由紀の方に目線を合わせる。


 すると、コクっと頷いた。


「分かった。その調査依頼は引き受けよう。その代わり、一つ聞きたいことがあるんだ」


「聞きたいこと?珍しいね」


「ここ最近、やけに魔物の凶暴性が増している傾向にある。しかも、その凶暴性は進めば進むほど、高くなっている。茂会長は何か知っているかな?」


「ふぅん、そんな話は聞いたことないよ。もし蓮くんが気になるなら、こちら側でも調査しよう」


 神城蓮は茂会長の瞳を気づかれないように覗き込む。


「なら、何かわかったらいち早く、僕たちに情報提供をしてほしい」


「ああ、分かり次第すぐに……」


「よし、じゃあ僕たちは早速、調査を始めよう。それじゃあ、失礼するよ、茂会長」


「ああ、今日までの事件の調査書は、書記から受け取ってくれ」


 一瞬、こちらを見て、ニヤリと笑い会長室から去っていった。


「ふん。やっぱり、神城家が率いるパーティーは本当に警戒心が高いな」


 特に、『天狼』を率いるリーダー、神城蓮と最速レベル・7に到達した神城由紀。


 あの二人、常に俺の動作一つ一つに目を配っていた。


 下手な動きをしたら、一瞬でボロがそうだ。


「はぁ~~、そろそろ会長の席を降りてもいい年なんだがな。だがやっぱり、探索者シーカーの成長を見るのは楽しいな」


 これで、種はまくことはできた。


「あとは、彼次第——」


 茂会長は天井を見上げて、ニヤリと口角を上げる。


 計画は順調、監視もしっかりと機能している。


 彼女もなんやかんやで彼のことを気に入ってくれたみたいだし、これもすべては神の恩恵……。


「気持ち悪い顔だぞ」


 隣から黒いフードを被った謎の人物が姿を見せる。


「なんだ。聞いていたのか?」


「一様な———念のため、あのパーティーの監視をしておこうか?」


「やめておけ。ばれたから、殺されるぞ?」


「そうか、ならやめておこう」


「だから、大人しく見守っていろ。な~に、お前が思っているような最悪な結末は迎えないさ」


「だと……いいんだがな」




 探索者協会シーカーきょうかいの広いテーブルに『天狼』のパーティーメンバー計7人が円を囲って座っている。


 リーダーの神城蓮の隣に座る一人の女性が杖を掲げ。


「【シャウト】」


 と告げると、机を中心に白い壁が覆われた。


「これで、外から私たちの声は届かない」


 隣にいる黒髪ロングヘアーの西条茜さいじょうあかね


 『天狼』パーティーのサポーター兼魔法アタッカー。


 探索者シーカーのレベルは6で、探索者協会シーカーきょうかいの許可のもと、外での魔法を使う許可を得ている数少ないサポーターで、基本的に無口だ。


「ありがとう…、茜がいてくれていつも助かるよ」


「……うん」


「さてと、調査依頼を受けた以上、『天狼』パーティーの名に恥じないよう、徹底的に調査は行うつもりだ。それで———どうしようか?」


 短髪でそこらへんに男性とそう変わらない見た目をしていながらも、『天狼』パーティーのリーダーを務める神城蓮。


 神城家の次男、年齢は明かしておらず、パーティーの指揮官兼アタッカーだ。


「どうしよって、何にも考えてないのかよ!蓮!!」


「だって、急な話だったし、茂会長が直々に依頼することなんて珍しいしさ。それに、茂会長のことだ。きっとこの調査依頼には裏がある。なら、受けないという選択肢はないよね?」


「———はぁ~この考えなしが、興味本位で依頼受けるなよ」


 いらいらしながら、燃え盛る赤髪をわしゃわしゃとみだす女性は天城紅てんじょうくれな


 『天狼』パーティーのアタッカーで、先陣を切る勇猛な探索者シーカー


「まぁまぁ、そう怒るなよ」


「誰のせいだと思って———」


 振り上げそうな拳を震わせていると、由紀が声をかける。


「落ち着いて、紅」


 震わせる拳を由紀は両手で優しく握りしめ、悲しい表情を紅に向ける。


「くぅ……今すぐにでも蓮の顔を殴りたいのに」


「はは……怖いな」


 紅を押しとどめる由紀はふと、思い出したかのように、蓮の方へと体を向け、口を開いた。


「そういえば、蓮リーダー……」


 何か言いたげな表情をする由紀を見て、蓮は思い出す。


「あ、忘れてた。最近、忘れってぽいんだよなって反省してる場合じゃないか、そうそう由紀から見て茂会長はどうだった?」


 茂会長と顔を合わせる機会はそうそうない。


 特に、探索者シーカーは茂会長の名前は知っていても顔を知る者は少なく、なぜ少ないのかというと、素性のほとんどを茂会長は公開していないのだ。


 そんな中、会う機会をもらったなら、由紀に茂会長本人を見てもらうと思ったわけだ。


 由紀は人を見る目が優れている。


 もしかしたら、茂会長を見て何か気づくかもしれないと、そう思ったわけだ。


「とても不気味だった。底知れない何か……腹黒さって言えばいいのかな?とにかく、かなり危険な匂いがした」


「そうか、やっぱり由紀はいい目を持ってる。これかも、『天狼』のために、頑張ってくれ」


 すると、由紀が不満そうな表情をする。


「蓮リーダー、それはあまりにもひどい。見返りを求める」 


「見返りって……まぁたしかに、無理に突き合わせてしまったしね。わかった。じゃあ、依頼が終わったら、僕が直々に練習相手になってあげるよ」


「なら、よし」


 満足そうな表情を浮かべて、俺は安心した。


「お主は由紀に甘すぎるぞ!それでも、『天狼』のリーダーかぁ!!」


 もう隣で酒臭さけしゅうが鼻に漂う。


「もう、お酒飲んでるし、調査前なんだけど」


「うるさいぞ!俺は酒を入れたほうが調子がいいんじゃい!!」


 大きなたるに酒、45リットルが入っており、図太い腕で軽々と樽を持ち上げ、酒を飲んでいるのは、新谷達也しんがいたつや


 『天狼』パーティーのタンクを務める俺たちの守護神だ。


「相当酔ってるな」


 残りの二人は現在休暇を取っており不在。


 よって、現在『天狼』パーティーは計5人。


 普通のパーティーなら、二人も不在となると、依頼を受けないのだが、俺たちは違う。


 神城家に属するパーティーメンバーは一人一人が並外なみはずれた探索者シーカーばかり。


 一人や二人、いなくてもパーティーとして回ってしまうのだ。


「まぁ、酔ってるバカはほっておいて、何か用意すべきこととかあるかな?ないなら、もう早速、ダンジョン5層に行き、調査を始めようと思うんだけど」


 正直言って、ダンジョン5層に入念な準備なんて必要ない。


 だが、ここで油断するのは探索者シーカーとして二流だ。


「何なら、早速、ダンジョン5層に向かうとしよう。茜、魔法解除を」


「———分かった」


 長細い杖を掲げると、杖の頭上が輝きを白い壁が徐々に薄くなり、そして散った。


「よし、じゃあ念の為、回復薬を一人三つ持って、行こうか」


 こうして、『天狼』パーティーはダンジョン5層の調査に向かった。


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