第27話 ダンジョン内で何か起こったようです

 俺はいつも通り探索者協会シーカーきょうかいへと向かう。


 あれからさらに1週間が経ったが、特に生活の変化はなかった。


 あるとすれば、お金がたくさん稼げるようになり、家計の負担が減ったことぐらいだろうか。


 あとはそうだな、京香さんの件だ。


 あれは本当に大変だった。


 休みたくもなかった授業を欠席したせいで、先生にその理由を問い詰められ、そのせいで説教5時間問という苦痛な時間を経験した。


 けど、よかったこともある。それは、千住君がここ1週間、教室に訪ねてこなくなったことだ。


 おかげで、お昼ご飯をゆっくりと食べられるようになり、ストレスが減った。


 高校生活も充実し、ダンジョン探索も5層以上にはまだいけていないものの、かなり成長した実感を得ている。


 特に、最近使っている短剣が使い勝手がいいことに気づき、愛用している。


 探索者協会シーカーきょうかいに訪れるとやけに事務員が忙しそうにバタバタとしている。


「なんだろう。やけに騒がしいな」


 よく見ると、今日は高レベル探索者シーカーが多いことにも気づく。


「菜々花さん!!」


 俺は菜々花さんの名前を呼ぶと、窓口からチラッと姿を見せた。


「あれ?日向くん?どうしたの?」


「あ、いえ、なんかやけに騒がしいなと思いまして」


「そうなのよ。実はね、ダンジョン5層でレベル・3の探索者シーカーの死体が発見されたの」


「え、5層でレベル・3の探索者シーカーが!?」


 ダンジョンの5層はレベル・1でもスキルとある程度、実戦を積んでいればで突破できる層だ。


 ましてはレベル・3の探索者シーカーが5層で死ぬだなんてありえない。


「それでね。会長が緊急指令を出して、今、高レベル探索者シーカーが調査に向かわせているのよ。それで、私たち事務員はその処理に追われてるってわけ」


「それは、大変ですね」


 それにしても、これだけざわざわしているのは初めて見る。


 それほどに緊急事態なんだろう。


「いい日向くん!!ダンジョンに潜っちゃダメとは言わないけど、5層に立ち寄っちゃだめよ!いいね!!」


「あ、はい」


 菜々花さんの強い一言には逆らえない。


 とはいえ、今日は元から5層に行くつもりなどないんだがな。


 ほら、ここ最近、ずっと同じ武器を使ってて、新調した短剣もあくまでサブ装備、基本的には片手剣で戦うのが俺の戦い方。


 けど、ここずっと使っているからか、最近、刃がボロボロであるとことに気づいた。


 さすがに、切れ味が悪くなると、必然的に魔物を倒すのにも苦戦するため、今日は3層程でやめておこうと考えていた。


「あっ、そういえば、その高レベル探索者シーカーっていったい誰なんですか?」


 聞いてた理由は特にないが、純粋に気になった。


 5層でレベル・3の探索者シーカーが死ぬことはまず前例がない以上より慎重に調査を行うはずだ。


 なら、高レベル探索者シーカーもかなりの強者の可能性が高い。


「神城家が率いるパーティーよ。しかも、あの神城由紀さんが所属するパーティーの」


「え?マジですか」


「マジよ」


「それは、少し変ですね」


「やっぱり?日向くんもそう思う?」


「ええ、あまりにも過剰戦力です」


 たしかに5層でレベル・3の探索者シーカーが死亡したのは前例がないから大騒ぎになるのはわかるんだが、それにしたって、探索者シーカーの中でも最強の一角である神城家のパーティーを向かわせるのは少し違和感を感じる。


「まぁ、日向くんが気にすることじゃないよ」


「そうですよね」


「そうだよ」


 たしかに、俺が気にすることじゃない。


 だって、俺は所詮はレベル・1の探索者シーカーなんだから。


「それじゃあ、俺はダンジョンに潜りますね」


「うん。今日も頑張ってね!!」


 忙しい中でも、こちらを向いて笑った。


 (最近、思うんだが、菜々花さんってマジ天使じゃないか?)


 たまに見かける探索者シーカーが事務員に口説いている光景だが、口説く理由がわかった気がする。


「はい!頑張ります!!」


 菜々花さんの笑顔を力に変えて今日もダンジョンへと潜る。

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