第25話 初めて、食い逃げされた

「私はですね…………実は———」


 京香さんは間をおいて、息を吸い、店内で高らかに。


探索者協会シーカーきょうかい指導部長なのです!!」


「……なにそれ?」


 聞いたことがない言葉が京香さんから告げられた。


 『探索者協会シーカーきょうかい指導部長』、そんな言葉を探索者協会シーカーきょうかいで聞いたことは一度もない。


「それはですね、探索者協会シーカーきょうかいが独自に設けた役割でして、主に高レベル探索者シーカーをより高みへと成長を促し、手助けをすることを目的とした役割です。ここでだけの話、この役割はおおやけには公開されておらず、外部の者が知れば、即!首が飛びます!!」


「なっ!?」


 そんな重要な役割を担っている人だったのかと。驚いた。


 あっさりと、死刑宣告を受けた俺は、なぜ京香さんが言いたくなかったのか何となく理解できた。


 (てか、首が飛ぶって、道理で言いたくないわけだ)


「これで、答えになりましたですか?ついでに補足すると、私のレベル・6です!ふん!!どうです?すごいですか?すごいですよね!!」


 ドヤ顔で顔を近づけ、レベル自慢をしてくる京香さんを見て、ひとまず、頷くだけして、無視した。


 しかし、レベル・6か、なるほどな、ならあの強さも納得できる。


 洗練された動き、隙のない身のこなし、あれこそ卓越した探索者シーカーの動きだった。


 けど一つだけ疑問がある。


 それは、なぜ努力しても到達できないレベル・4の壁を超えて、レベル・6に到達したというのに、どうして、ダンジョンに潜らずに、他の探索者シーカーを育成する仕事をしているのだろうか。


 それだけがどうしても、気になるが、他人のプライベートに土足どそくで踏み入るほど俺は、愚かじゃない。


 聞いていいことと聞いてはいけないことぐらいの区別ができる人間性は持ち合わせているのだよ。


 (喉が乾いたな、お代わりでもするか)


「…………すいません!」


「ちょっと!聞いているのですか?」


「まぁ、ちょっと待て。紅茶のおかわりがしたい」


「……うぅ」


 俺が紅茶のおかわりすると、突然、フワッと風がなびいた。


 するとさっきまでいなかったはずの一人の女性が俺と京香さんの間に入るように突っ立っている。


 それは、本当に突然、何の前触れもなく、気配もなく、まるで最初っから、そこにいたかのような自然にいた。


「見つけましたよ。京香様———」


「げっ!?朱里あかりちゃん!!」


 整った顔つきに、人目に付くメイド服、冷たい青い瞳はその場の雰囲気をガラッと変えてしまうほどに凍っている。


 鋭く冷たい声色は、相手に恐怖心と同時に不思議と心地よさも感じてしまう。


「どこへ、行っていたのですか?すでに学校は下校時間を上回り、それでも帰ってこないということはそれなりの納得のできる理由があるのですよね?」


「あ、いや~~そのですね。そうです!!友達とご飯を食べていたのです!」


「へぇ~~では、なぜ午後の授業を受けておられないのですか?おかしいですよね?京香様……」


 詰め寄られる京香は顔を引きつりながら、徐々に身体が収縮していく。


 それはまるで、小動物のようで、可愛かった。


「な、なんでそれを!?」


「さぁ、そんなことより、京香様、帰りますよ」


「ちょっ、嫌だ!まだ日向さんと話したい!!」


「はぁ~~日向様、今回は京香様のわがままに付き合って下さりありがとうございます」


「あ、いえ、こちらこそ?」


 礼儀正しくて、超美人、しかも、メイド服、現代にもまだメイドの文化が残っているなんて、感激だけど、この状況に対して、俺は一体どうすれば。


 てか、メイドを持つ京香さんって、本当に何者なんだよ。絶対にまだ、なにか隠しているな。


 すると、朱里がこちらを見つめながら、礼儀正しい姿勢でこう言った。


「これからも、京香様とは仲良くしてくださいね」


「はぁ……」


 俺はその時、朱里の言葉の意図を理解できなかった。


「では……暴れてないで、本当に帰りますよ」


「いやだ!いやだ!です!!もっと喋るです!!」


 子供のように、大暴れする京香さんは自然と民衆にも目線が集まる。


「———もういいです」


「はいです…?」


 すると、躊躇なく、朱里は右手を鋭く平らに、器用に京香の後ろ首元へ目掛けて、強烈なチョップをくらわした。


「ぐふぇ!?…………です」


 口から漏れる悲鳴、強烈な一撃がうなじあたりに直撃し、泡吹いて床に倒れこんだ。


「ふぅ~~本当に手間のかかる人ですね。それでは日向様、またお会いしましょう」


「……はい」


 気絶した京香を華麗に担ぎ、瞬く間に走り去っていった。


「……って会計を払うの俺か!?」


 俺はその時、理解した。


 初めて、食い逃げされたんだって。


「——次あったら、払わせよう」


 そう胸に誓う俺の1日であった。

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