第24話 水瀬京香さんの正体 疑問

 風情がある店内、自然が楽しめる植物の置物があちこちに置かれている。


 各テーブルに2っ以上ある植物は土の香りと植物独特な何とも言えない香りが常に漂っている。


 よく見るとテーブルも椅子も木で作られているし、一目見ただけ、この喫茶店を経営している店長が自然が好きなんだなとわかる。


「……で、なんで俺は、この変に癖の喫茶店で、水瀬さんと二人で紅茶をたしなんでいるんだ?」


「水瀬さんではなく、京香ちゃんで結構なのです」


 お互いに、向かい合いながら、紅茶を飲む。


「それじゃあ、京香さん。もう一度、言うけど、なぜ俺達は紅茶をたしなんでいるんだ?」


「きょ、京香さんですか……もう少し砕けた感じでお願いしたのですが、まぁいいです。そうですね。なぜたしなんでいるのかというと、日向さんと話したかったからです」


 満遍な無垢な笑顔でにっこりと言い放った京香さんに俺は顔を引きずりながら、頭を抱える。


 それってつまり、ただ俺は、京香さんのわがままに付き合わされたってことになる。


 ここは、騙してでも、授業に戻るべきだったかもしれない。


 いや、でも結局それは、問題の先送りにしかならないわけで、どちらにせよ、めんどいだけだな、うん。


「というわけで、日向さんに聞きたいことがあるのですよ!!」


 羞恥心がないのか、すれすれまで顔を近づけてくると。


「顔が近い!!」


「ふぎゃぁ!?」


 俺は、右手で京香さんの顔を押し返した。


「ひどいのです……」


「それより、聞きたいことがあるんだったな」


「はい!です!!」


「なら、一つ条件がある!」


「条件です?」


「そうだ。京香さん……あなた、由紀さんと知り合いですよね?」


「ギクッ!!」


 想像以上に驚きの表情を見せる京香さんを見て、俺は確信する。


 間違いない、こいつ、絶対に普通のアタッカー学科の生徒じゃない。


 確実に何か隠している。


 由紀さんとの面識、お互いの反応を見るにかなり交流があると見ていい、それに学生とは思えないほどの京香さんの力、目の前で見たからわかる。


 あの超人的なスピードと身体に見合わないパワーは学生のレベルを超えていた。


 なら、そこから導き出せる結論は、絶対に京香さんはなにか隠している。


「もし、京香さんが隠していることを俺に話してくれるなら、聞きたいことをなんでも包み隠さず答えよう」


「うぅぅ……姑息です」


「なんだよ、文句でもあるのか?」


「やっぱり、舞台の上に立つのは少々早かったようです……わ、分かりましたです」


 観念して、うつむく姿を見て、俺はこっそりと机の下でガッツポーズを取った。


「それじゃあ、京香さんからでいいよ」


「なんで、そんな強気な態度がとれるのですか?」


探索者シーカーは態度で舐められることが多いからな、こうやって態度をでかくする癖があるんだよ」


「それは……不便な生活を送っていたのですね」


「うっ……うるさいな。それで、京香さんが聞きたいことってなんですか?」


 すると、京香さんは口を開く。


「ではですね。日向さんはどうやって4層まで到達したのですか!レベル・1のスキル『なし』ではまず4層まで到達不可能に近いです。まだ3層までならわかるのですが……そこら辺を詳しく!!お願いしますです!!」


 瞳をキラキラと輝かせながら、こちらに詰めよってくる京香さん。


 そんなに広まっているのか、俺が4層に到達したことが。


 しかし、それならなぜ……こんなにも騒ぎが静かなんだろうか。


 レベル・1のスキル『なし』の探索者が4層に到達した前例はない。


 まぁ、スキル『なし』の存在自体が前例のないものなのだが。


 となると、一体、どこからその情報源が湧いて出てきたのだろうか。


「う~~~ん。分かった。俺が4層まで、辿り着いた経緯を説明してやる」


「はいです!!」 


 なぜ、俺が4層に到達した情報を、京香さんが持っているのかはわからないが、これ以上深追いすると、話が長くなりそうなのでやめておこう。


 俺はスキルを獲得したことを伏せながら、俺が歩んできた探索者シーカーの冒険譚を話した。


「レベル・1のスキル『なし』の探索者シーカーがジャイアントコボルトを相手に生還するなんて、すごいです!!」


「最初の冒頭部分には勘が触るが、まぁその通りだ!!」


 なんか、こうして褒められると嬉しいな。


「しかし、ジャイアントコボルト相手に生還したということは、それなりに激戦だったはず……つまり、その激戦をしたジャイアントコボルトは今、どうしているんでしょうね?」


「…………うん?」


「え、知りませんか?たまにいるんですよ、成長する厄介な魔物が」


「へぇ~~そんな魔物もいるんだ」


「はいです!そういう魔物を『脅威種』と呼ばれるです。まぁ、そう現れる魔物種でもないので、大丈夫だと思いますですが……」


「『脅威種』か、覚えておこうってなんか、このデジャブ……どっかで経験したような」


「しかし、これでなぜ日向さんが4層に到達したのか納得しましたです。困難を乗り越えれば乗り越えるほど、探索者は強くなる。その過程にレベル、スキルなんて関係ない。まさしく、理想の探索者シーカーの体現!素晴らしいです!!」


「そ、そうか~~あ、ありがとうな」


 頬を赤く染め、デレデレと鼻を伸ばすだらしない姿を見せてしまう。


 それからも、京香さんは賞賛しょうさんと褒め言葉を並べながら、ひたすら、しゃべり続けた。


「いや~~本当に尊敬の眼差しを向けるほかないです!!」


「そうか~~いやいや、そんな……褒めるなよ~~」


 褒められすぎて、自然と息が荒くなる俺は、落ち着くために紅茶を飲むとふと我に返った。


「あ……」


 しまった、完全に乗せられてしまった。


 俺は、ポケットからスマホを取り出し、時間を確認すると、もう16時を過ぎていた。


 しかも、まだ京香さんに関しての質問を全くしていない。


 もしかして、俺は、京香さんの掌の上で踊らされているのか?とそう疑問に思う。


 卓越たくえつしたトーク力を使い、俺の目的を忘れさせつつ、京香さんは聞きたいことを聞く、そういう作戦か。


 やられた、ただでさえ、ほめられることに慣れてない俺がついつい調子に乗ってしまい本来の目的を忘れてしまうなんて……。


「ごほんっ、そろそろ俺の質問にも答えてもらおうか、京香さん」


「うっ!?……」


「もちろん、答えてくれるよ……な?」


「…………このまま流されてくれればいいものを」


「なんか言ったかな?」


「いえいえ、それで、何から聞きたいんですか?答えられる範囲で答えるですよ!!」


 切り替えたのか、答える気満々な様子を見せる。


 俺は病気なのだろうか、この京香さんの言動すら何か裏があるんじゃないかと疑ってしまっている。


 こんなに疑うような人柄だったけ?いや、こんなに疑い深くなかった気がするが……探索者シーカーとして成長して勘でも冴えたのだろうか。


「それじゃあ、単刀直入に言うけど、京香さんっていったい何者?」


 京香さんは絶対に普通じゃない、それだけは確信して言える。


 なら問う質問は一つ、京香さんの正体だ。


「……う~~ん、そうですね。正直、言いたくないですけど、日向さんはちゃんと答えてくれましたし、いいでしょう。ただし、ほかの人には他言無用でお願いしますです!いいですね!!」


「分かった。京香さんの正体は誰にも言わないことを約束する」


 京香さんは両手の腕を組み、いつにもまして真剣な顔つきでこちらを見つめる。


 その雰囲気はまるで歴戦の猛者を思わせるほどの風格を纏っていた。


 なんとも言葉にできない緊張感が走り、その場の雰囲気もガラッと変わったように感じた。


 そして。


 透き通った重みのある声色で彼女は告げた。


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