第22話 神城由紀 VS 千住正志

「くぅ……化物が」


「何なの?あなた?」


 制服がズタボロな姿、深い傷を負った左手を右手で抑え、向かい合う彼女をにらみつける千住正志。


 傷一つなく、息の乱れもなく、そこにいるのは自然そのものを思わせるほどの余裕な表情を見せる神城由紀。


 レベル・3の千住正志とレベル・7の神城由紀との異質な組み合わせ、状況を見る限り、戦っていたことが分かる。


 でも、どうしてこんな状況に……。


「そうやって、上から見下ろせるのも今のうちだぞ。必ず俺がお前を超えて、最強の探索者シーカーになるんだからな!!」


「……興味ないよ。それに私を超えても私より強い探索者シーカーはいっぱい…いるよ?」


「うるせぇ!!!」


 まだ戦う気なのか、両拳で身構える。


 漂う闘気、研ぎ澄まされた殺気は真っ直ぐに神城由紀に、向けられている。


「懲りない人……だから、嫌いなんだよ。はぁ~終わらせる」


 冷徹で凍えるような瞳で千住を見つめ、冷たく重い声は学校全体に透き通るように響き渡った。


「どうなるんだ……」


 二人から目が離せない。


 何が起こるのか、由紀さん、千住君はどんな戦い方をするのか、スキルの能力が何なのか、そんな好奇心が溢れ出てくる。


 鞘におさまるレイピアを握り、今にも「攻撃するよ」と思わせる姿勢、千住正志は無意識に両拳を震わせた。


「震えてるけど?」


「ただの武者震いだ。気にするな」


 緊迫感のある時間、余裕の表情を見せる由紀さんに比べ、千住正志は汗を垂らしながら、息を荒くしている。


 その場の緊迫感は、きっと計り知れないのだろう。


 そして、実感する今の俺では、あの場に立つ資格すらないことに。


「くぅ……悔しいな」


 なぜ、こんな気持ちにいまなっているのかは自分でも分からないけど、そう思った。


 釘付けにされ、目が離せない二人の戦い、その切迫感は長くは続かない。


 全てにおいて始まりがあれば、必ず終わりが来る。


 それは、瞬く間に来るものだ。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!」


 喉をつぶしたような轟音を鳴らし、自身を加速させる。


 眩い粒子を右拳に集中させ、加速させたスピードを拳に乗せる。


 あの光はスキルだろうか、そう思いながら、俺はこの光景に目を奪われていた。


「結果は変わらないよ……」


 全く動きを見せない由紀さん、よける気がないのか、レイピアをただ握っている。


「舐めるなよッ!!」


 加速した千住正志は一瞬で由紀さんと至近距離まで接近する。


 次の瞬間。


「ぐはぁ!?」


 切り刻まれた千住正志の無残な姿が神城由紀の目の前で倒れ伏せていた。


 そんな光景を見た俺は、ふと唇を震わせながら。


「は……早いすぎる」


 と声が漏れた。


 見えなかった、レイピアを抜く瞬間が見えなかった。


 レイピアを抜いてから、攻撃する瞬間すら。


 実力が違うってレベルじゃない、次元が違う。


「最初の一撃で、身を引いていれば、よかったのに……」


 千住君の切り傷を見る限り、最低でも10回切り付けられている。


 これが、俺が憧れた由紀さんの実力の一端なのか。


 その時、俺の口角が自然と上がった。


 あまりの実力差に絶望するわけでもなく、目標の高さに探索者シーカーとしての目標を見失ったわけでもない。


 あったのは、「すごい」というただ一言だけだった。


 これが俺が目指している目標、その高さに自然と笑みをこぼした。


「……あっけない」


 そう言って、後ろに振り返り、立ち去ろうとすると、「ドスンッ」と背後から起き上がるような足音が響く。


「んッ!?」


 ボロボロな姿をさらしながら、立ち上がる千住正志。


 覇気がなく、意識がないことがわかるが、その予想外の光景に神城由紀は動揺する表情を見せた。


「お、俺は、まだ……負けてねぇぇぇぇ!!うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 意識はないはずなのに、校舎全体を揺らすほどの轟音が鳴り響かせ、周辺の生徒たちは耳をふさいだ。


 千住正志はゆっくりと神城由紀の方へと足を歩みだし始める。


 うっすらと身体を纏う荒々しい赤いオーラ、それを見て、神城由紀を含めた俺以外の全員が驚きの表情だった。


「なんだ?あの不思議な荒々しい赤い光は……」


 見たことがない光、周りの反応を見る限り、みな知っているような反応だ。


「…………嫌な感じだ」


 あの赤いオーラ、まるで殺意の塊、いや欲の塊ようなそんな不吉なオーラ。見ているだけで、自然と拒絶していることがわかる。


「なるほど、あなたのスキルはよく理解できました。だからこそ、愚か、自身の欲求のために、暴走だなんて……あきれる」


 収めていたレイピアを引き抜き、剣先を千住正志へと向け。


「終わらせてあげる……」


 冷たくあるものの、隠していた牙を剝き出したような殺気を放つ。


 彼女の周囲に風が吹き荒れ、剣先へと集約し、剣全体に風が纏う。


 一息の間、吹き荒れる風が落ち着くと、風を引き裂くほどのスピードで加速し、攻撃を仕掛ける。


「【シュメル】ッ!!」


 その一言を発すると静まり返っていた風が彼女を中心に吹き荒れ、艶やかな綺麗な銀髪をなびかせた。


 風を空気を切り裂きスピードをさらに加速させながら、剣先を千住正志へと向け、その殺気に反応するようにゆっくりとした動きとは裏腹に瞬時に拳を振り上げた。


 そして。


 二人の攻撃が触れた瞬間、重なり合い、衝突する。


「うがぁぁぁぁぁぁ!!」


「………………力任せ」


 衝突した二人の攻撃、衝撃波を発生させ、お互いの力が拮抗しあう中、その力を自然と外へと逃がし、千住正志の内に入り込む由紀は左拳に強く握る。


「今のあなたに剣を使うことすら、惜しい」


 吹き荒れていた風が静まり返り、がら空きな腹に左拳を握りしめ、次の瞬間、思いっきり腹めがけてえぐり殴った。


「ぐはぁ!?」


 腹に打ち込まれた強烈な一撃は、そのまま千住正志を後方へ吹き飛ばした。


「つ、強い……」


 千住君の様子がおかしかったことは気にかかるけど、それよりもあの千住君の拳の一撃、前よりも強い殺気を纏っていた。


 だが、そんな攻撃すら軽々と受け流し、ふところに入ったところで、左拳でがら空きな腹に一撃を与えた由紀の人離れした動きに俺は啞然あぜんとした。


「ううぅぅぅぅぅぅ」


 強烈な一撃を食らったはずなのに、それでも千住正志は立ち上がった。


「やっぱり、この程度じゃ、倒れないよね。厄介……これがスキルリミットなんだね」


「スキルリミット?」


 聞いたこともない単語が飛び込んできた。


 (そんな言葉聞いたことないけど、もしかして、千住君の様子の変化の原因のことかな?)


 そう頭を悩ませていると。


「『スキルリミット』というのはですね。簡単に言うと、スキルの暴走状態のことです。たまにあるのですが、スキルの使い過ぎや、意識を失ったときに発動しやすく、スキルの防衛機能とも言われ、とても危険なんです!」


「え?」


「どうです?役に立ちましたですか?日向さん?」


 (なぜ、俺の隣、水瀬さんがいるんだ?)


「あ……役に立ったけど、いつから、ここに?」


「ずっといましたですけど?ってそれより、あの千住正志の状態、かなり危険ですね。早くこの場から逃げたほうがいいですよ?と警告するです」


「なぜ?」


「知っていますか?スキルリミットに陥ると、徐々に狂暴化し、無意識に大暴おおあばれするんです!!」


「大暴れ?それじゃあ、今の千住君の状態って……」


 嫌な予感がした。


 すると、ふと立ち上がった千住君となぜか、目が合う。


 その目線の先が気になったのか、由紀さんも千住正志が向いている方向に目線を移動させる。


「え?日向くん?それに……」


 俺がいることに驚き、驚愕するも、さらに何か気づいたような表情を見せる。


 と、その瞬間。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 千住君が雄叫びを上げながら、こちらに素早く接近する。


「え?ちょっ!?」


「見づげだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 (早い、よけれるか?いや、無理だろ)


 踏み始めから、気づくまでの間、千住君の方が足が早い今、俺が次の行動をうつしている時にはもう、手遅れだ。


 (もしかしなくても、かなりやばい状態なのでは?)


 どうする、どうすればいい。


 俺を捉え、拳を振り上げる千住君、殺気まで真っ直ぐに俺に向けられている。


「日向くん!!」


 由紀さんの声が聞こえてた気がした。


「うおぉぉぉ死ねぇぇぇがぁがぁえぁぁ!!」


 よけられないと直感的に感じ取る俺は、どう動けば最小限のダメージで抑えられるか考えるが、そんな時間すらない。


 なるべく、姿勢を低く構えて、受け身の形を取ると、俺の前に赤いバッチを付けた女子生徒が目の前で。


「もういいです」


 隣から鋭く怒りの感情が宿った声は聞こえた。


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この★……ほし~~~い♪なんちゃって……。


はい。以上です。

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