第19話 強敵ケルベロスの打倒

 どうやら、好奇心に逆らえないらしく、俺はそのまま突き進んだ。


 結果として4層に到達し、現在苦戦を強いられている。


 ケルベロス、4層に生息する凶暴な魔物。


 二つの頭を持ち、ベアウルフの数倍のスピードを持ち合わせ、厄介なのが、高い知性を持っていることだ。


 相手の動きを見て、学び次につなげる。


 戦いが長く続けばつづくほど苦戦する強敵。


「くっ……はぁぁぁぁぁ!!」


 ケルベロスに観察する隙を与えずに、一気に畳みかける。


 知性があることはたしかに厄介だが、逆に言えば人に近しい考えを持っているということだ。


 なら、今のケルベロスは間違いなく狙うのは負傷している左腕のはずだ。


 わざと、左腕をがら空きにして、ケルベロスの視線を左腕に集中させる。


 僅かな視線の移動、今、どこに焦点を当てているのかを見極めるんだ。


 ケルベロスと至近距離に近づいたとき。


「なぁ!?」


 後ろ足を使って、後方に飛び跳ねるケルベロス。


 (逃がさない!!)


 スピードを落とさずに、離される距離を再び縮めるが。


 着地すると、壁を使って、空中を飛び回り始める。


 壁から壁へ、俺の視界が揺さぶられる。


「これは……やばいかも」


 動き回っているから、攻撃する瞬間が見えない。


 こいつ、俺が捉えられないことを知って、視界を揺さぶりにきているんだ。


 ケルベロスが攻撃する一瞬の動作が見えない以上、いつ攻撃が来るかわからない。


 その恐怖が、切迫感せっぱくかんが搔き立てられる。


 (落ち着け、落ち着け、心を乱すな、冷静さをかくな)


 たしかにケルベロスは早いし賢い、今までの魔物の中で一番の強敵だ。


 でも、絶対にあるはずだ。隙が、攻撃する瞬間、動きを一瞬止まる瞬間が。


「ふぅ~~~」


 飛び回りながら、攻撃の隙をうかがうケルベロスの視線。


 目で追っても、注意が散漫さんまんするだけ、警戒すべきはケルベロスがどこに狙いを定めているのかだ。


 俺は、ゆっくりとまぶたを閉じる。


 人が持つ視覚という機能は素晴らしい情報収集能力が沢山備えられている。


 ただ、それに頼りすぎる人はいずれ、目で見たものしか信じられなくなる。


 音と視線、そして殺気、どこに向けられて、どこに集中しているのか。


 人というのは不思議な生き物で、視線などは見なくてもなんとなく感じ取れてしまう。


 だから、俺は自分の目に惑わされず、聴覚と視線、それをなんとなくで感じ取るんだ。


 壁を伝って、ケルベロスが飛び回っているのが分かる。


 目を開けているときよりも音が敏感によく聞こえる。


 ケルベロスの殺気が少しずつ、近づいて、次は右にフェイント、そこから、少し前に出て、すぐに後ろに下がる。


 (今だッ!!)


「ぐがぁ!ぐぎぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 肉を切り裂く感触、手ごたえはあった。


「なんか、今日の俺、覚醒してるかも……」


 まぶたを上げると、血を流して倒れているケルベロスの姿、よく見ると喉元に切り裂いた跡が確認できた。


「うん?」


 一瞬、視界に輝く青白い光。


「なんだろう?この光……」


 俺の周りに散乱する青白い光は、徐々に薄れ、消えていった。


「———まぁ、いいか。それより、まずは魔石の回収をしてと」


 俺はケルベロスから魔石を回収し、ダンジョンの外を目指す。


「今日だけで、魔石30個以上、これは大収穫だな。帰りにスーパーでちょっといい食材でも買って、愛華を驚かせようかな」


 初のダンジョン4層到達に加え、ケルベルスの討伐に成功。


 これだけの実績を見れば、嫌でも気づく、自分の成長を。


 魔石も前回の2倍、もう笑みしかこぼれない俺の表情筋。


 ダンジョンの入り口をくぐり、探索者協会シーカーきょうかいの外へ出ると、すでに空は真っ暗に包まれていた。


「今何時だ?」


 スマホで時間を確認すると、20時半。


「思ったより、経ってないな……なら、ついでに換金してこようかな」


 俺はそのまま『シリア商店』に向かった。

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