第15話 由紀さんとの二人っきりの時間
「うぅ……」
目が覚めると、垂れ下がる銀色の艶やかな髪がちらつき、すぐに自分の状態を理解した。
寝そべった状態、心地いい柔らかな感触が枕のようにふんわりと、そして、由紀さんの顔がすぐ近く、少し近づけば、キスできてしまうほどに近くて……。
「大丈夫?」
心配そうな由紀さんの顔をみて。
「……ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
俺は、飛び跳ねながら、由紀さんと俊敏に距離を取る。
(なんで、由紀さんの膝の上に……ね、寝て)
「あっ……」
「怖がられてるな……由紀」
「私、怖がられているの?」
「あくまで私個人としてはそう見えるだけだ。……よぉ、小僧!目が覚めたか!!」
「は、はぁ……」
(ここどこだ?)
壁の
「あ、あの~ここは、一体……」
「ここか?ここは俺たちの第3基地だ」
「第3基地?」
聞き覚えのない単語が飛び込んでくる。
「と言ってもわかんねぇよな……まぁ元々は由紀のわがままで連れてきちまったわけだし、後は二人でごゆっくりな……」
「え、ちょっと、ど、どういう……」
「じゃあなっ!!」
そのまま赤髮の女性は去っていった。
「え……」
「目が覚めてよかった……」
「あ、その……この前はありがとうございます!!!」
とりあえず、俺は、助けてくれたことに感謝した。
てか、それ以外の言葉が思いつかなかった。
由紀さんと二人っきりな状況、俺の脳が正常に動くはずもなく、俺は頭を下げる。
それに、由紀さんが眩しいほどに可愛い、直接見るだけで、目が焼けそうだ。
「よかったぁ~」
柔らかな透き通った声が聞こえた。
「え……?」
「あ、あの時、そのまま走って逃げちゃったでしょ?私つい、何かしちゃったのかなって……ほら、その場で逃げられる経験ないから………」
「あ、いえいえ、そんな由紀さんは何にも悪くないです!ただ、あの時は気が動転してて……」
「そうなんだ、ならよかった。そういえば、左腕のお怪我は大丈夫なんですか?見る限りかなりの重症のようだけど」
「あ~~だ、大丈夫です!お医者さんにも完治するといわれているので!!」
「そうですか、なら良かったです」
俺は、今、ちゃんと由紀さんと話せているだろうか。
正直、頭の中は真っ白、できることなら、今すぐにでも逃げ出したい。
でも、あの時のお礼を言えたのはよかった、だって心残りだったし。
「…………」
「…………」
沈黙の時間が流れた。
(なんで、ずっと由紀さんは喋らずに、こちらを見ているんだ?)
あれこれ、30分ずっと、見つめられ続けている。
これは、あれか俺が話を振らなきゃいけないやつなのか。
(いや、でも由紀さんになんの話をすれば……)
相手は由紀さん、レベル・7の最高峰の
(ダメだ、全然思いつかない、てか、こんなレベル・1の
そう思いながらも、何とか質問をひねり出そうと脳を頭を限界までねじり、そして。
(そういえば、なんで俺、こんなところにいるんだろう……)
「あ、あの~」
「なに?」
(まぶっ!?なんてまぶしい微笑みなんだ!)
声をかけると眩しい笑顔をこちらに向けた。
「な、なんで、俺、こんなところにいるんですかね?」
「こうして二人で話してみたかったから」
返答は即答だった。
「二人で話して?」
(答えになっていないような……)
「うん。そうだ、え~と、名前って……」
「日向です!柊日向って言います!!」
「じゃあ、日向くん。日向くんはなんで
「それは、そのうちが貧乏なので、お金が……」
「そうなんだ。すごいね」
「いやいや、全然すごくなんてないですよ。由紀さんに比べれば全然……レベル・1でスキルも持っていませんから……」
内心、自ら語りたくはなかった。
自分の弱さを語ると、どうしても弱気になってしまうから。
でも、心のどこかでこの弱さを吐き出したいと思っている
「でも、今、生きてるでしょ?」
「え?」
「普通の
俺のことを肯定してくれた。
とても心に染みたし、救われた気がした。
でも、何か、何か、違う。
肯定してくれたのに、すごく否定された気持ちで心が覆われた。
(なんで、こんな気持ちに?なんで?なんで?なんで?)
俺の、
もう二度とこんな二人で話せる機会なんてないはずなのに。
彼女の一言が俺の心を
「日向くん?どうしたの?」
「あ、いえ、その……」
苦しい?いや悲しい?いやどれも違う。
俺はふと、由紀さんの表情を見る。
気づいた、いやでも気づいた。
「何でもないです。そういえば、今って何時なんですか?」
「分からない……」
「……分からない?」
「…………」
急に黙り込んだ。
(どういうことだ?)
場の空気が凍り付くと。
「おい、そろそろ話は終わったか……ってなんだ、この空気!?」
赤髪の
「なんかよくわかんらんけど、話はここまでな。由紀、仕事だ……」
鋭い目つきで由紀に言うと、雰囲気がガラッと変わった。
「分かった。すぐに行く」
冷たい視線、彼女の瞳には、一切の邪念を感じられず、真っ直ぐに向いていた。
まるで、別人みたいに、俺は、そう思った。
「じゃあ、小僧、出入り口まで送っていくから、私の背中から絶対に離れるなよ……」
「あ、はい。……え?出入り口?」
俺は、その人の言葉を聞くと意味が分からないと思いながら、首をかしげる。
「あ?もしかして……おい!由紀!!まさか、ここがどこなのか、詳しく話してねぇのか?」
「うん。聞かれなかったから……」
「おい!」
頭に鋭いチョップをかますと由紀さんは痛そうに頭をさする。
「いた……いよ」
「何のために、二人っきりにしたと思ってんだ、全く……まぁいい、後は私が詳しく話しておくから、由紀はさっさとリーダーのもとへ行って来い」
「わかった……じゃあね、日向くん、また……」
「あ、はい……」
にっこりと優しい笑顔で、手を振って去っていった。
「お前も厄介なもんに気に入られたな……」
「へえ?」
「じゃあ、私にしっかりとついて来いよ。はぐれたら二度と帰ってこれないからな」
不穏な言葉を告げられながらも、ついていくしかない俺はなくなくついていくことに。
暗闇、左右どこを見ても真っ暗、一体ここがどこなのか、見当もつかない。
「あの~……」
「ここは、ダンジョン68層だ」
「……はいぃ!?」
「今、俺たちのパーティーはとある鉱石の確保の依頼を受けててな。なのに、由紀の野郎がお前と話したいってわがままを言ってよ。渋々、お前をここまで連れて来ったわけだ。これで答えになったか?」
「…へぇ?うん?はぁ~~ええ!?」
「どうした?もしかして、聞きたかったことと違ったか?」
「あっいえ、その……ありがとう」
俺の頭の中は今、ダンジョン68層というワードでいっぱいだった。
だって68層って
道理で、見たこともない場所のわけだ。
しばらく、俺は、彼女の後ろについていく。
暗闇で覆われる視界、光は名前の知らない彼女が持つ乏しいランプの光だけ。
「そうだ。お前の名前、教えてくれよ」
「へぇ?あ、……柊日向です」
「へぇ~腑抜けた名前だな」
「なぁ!?」
「おっと、別に侮辱したわけじゃないぞ。ただ、思ったよりも普通だなって思っただけだ」
「それって結局……」
俺はそこで口を止めた。
あんまり下手を言うと殺される気がしたからっと言うよりも、普通にこの人が怖い。
「私は、
(天城紅?どっかで聞いたことがある名前だけど……)
どこで聞いたっけな……。
「よし、ついたぞ」
天城さんの目先には、大きな扉があった。
「これは、転移門だ。いわゆるダンジョンの入り口をつなぐ門。この扉の先へいけば、出口だ」
「そんなものが……」
「まぁ、転移門があるのは、50層からだからな。知らなくても当然だ」
「なるほど……」
まだまだ知らないことがたくさんあるんだな。
「じゃあ、そのありがとうございます」
「いいって、もともとは勝手に連れてきた俺たちが悪いんだからな」
俺は扉を開ける。
つけ抜ける風が吹き、その先は真っ白な光が広がっていた。
なんだか、
「柊日向、活躍を期待しているぜ!!」
「期待?」
「ははっ……」
光が俺の体を飲み込んでいく。
ふわふわとした不思議な感覚、ダンジョン内の情景も光となって消えていく。
最後に見たのは、天城さんの獣を狙う笑顔だった。
眩い光で遮られた視界が徐々に色を取り戻していく。
気がつけば、見慣れた出入り口が目の前にあった。
「も、戻ってきた……」
俺は、今までのことを整理しながら家に帰った。
ーーーーーーーーーー
強くなりたい!追いつきたい!!この想いが続く限り、俺は戦う!!
ってキャッチコピー、どうよ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます