第14話 再会は突然に

 一切の光を通さない暗闇の空間、どこを見ても何もない。


「いつ見てもこの空間だけは慣れる気がしないな……」


 俺はゆっくりと目を閉じる。


 そこで、俺の意識はブツッ途切れた。


 しばらくして、閉じた扉がゆっくりと開くと、差し込む光で意識が蘇る。


 その光を浴びると体が吸い込まれるように、光のもとへ歩みだす。


「お疲れ様、日向くん……」


 菜々花さんの声で完全に意識がはっきりとする。


「あ、終わったんですね」


「はい」


 探索者能力値シーカーパラメーターの更新はこの部屋で目を閉じれば、自動的に終わる仕組みだ。


一度入れば、意識を強制的にシャットダウンされて、その間に更新を行う。


 更新時間は人それぞれで、噂では長ければ長いほど成長に見込みがあるらしい。


「俺ってどのくらい、あの部屋にいました?」


「大体、1時間ほどでしたよ。珍しく遅かったですね」


「1時間かぁ、たしかに俺にしては長いな……」


 まぁ、ジャイアントコボルトの一戦もあったし、そこらへんが原因だろう。


 俺は菜々花さんの後ろをついていき、受付窓口まで戻る。


「はい、これが現在の日向くんの探索者能力値シーカーパラメーターです」


「ありがとうございます」


 探索者能力値シーカーパラメーターの情報は基本厳守、本人の許可がない限り、その数値がおおやけに出ることはない。


 このルールにより、更新後の探索者能力値シーカーパラメーターを渡す際にもこうして、封筒を介して渡される。


 まぁ、探索者能力値シーカーパラメーターを公にしている探索者シーカーなんて、有名な探索者シーカーだけだ。


 とりあえず、更新できたし、家に帰ったら、確認しよう。


「あっ、そうだ。菜々花さん、ちょっとお願いがあるんですけど……」


「日向くんが私にお願い事?珍しいね。いいよ、私ができる範囲内なら……」


「その……」


 なんだか、恥ずかしいな。


 別に変なことをいうわけでもないのに、なんだろうこの感じ、頬が熱いし……。


 ただ、神城由紀さんについての資料があるかどうか聞きたいだけなんだけど、やばい!!なんだかこの行為が恥ずかしく思えてきた。


「ひゅ、日向くん?ほっぺたが赤いけど、大丈夫?」


「あ、いえ、だ、大丈夫……」


「そ、そう、ならいいんだけど」


 (ど、どうしよう!!恥ずかしい、恥ずかしいんだけど……)


 俺の頭の中は、恥ずかしいで埋め尽くされる中、急に背後がざわめきだした。


「なんでしょう?」


 菜々花さんも不思議そうに後ろを見ようと背伸びをする。


 俺もふと後ろを振り返ると、雑音だった探索者シーカーのざわめき声がハッキリと聞こえた。


「おいおい、なんでここにいるんだ?」

「知らないわよ」

「まさか、こんな所でお目にかかれるなんて……」

「写真を撮らないと、こんな機会も二度とないぞ!!」

「やっぱり、生で見る銀色に輝く髪が素敵ね」

「あれこそが、トップレベルの探索者シーカーの風格、というものだな」


 探索者シーカーがざわめいている。


 驚く者、歓喜する者など、そして聞こえてくる探索者シーカーの情報から俺は一つの答えにたどり着く。


「なんだろうね、日向く~~~~ん!?」


「あ、あの背中、借りますね」


「ちょっと、どうしたの?」


 俺は咄嗟に菜々花さんの背中に隠れる。


「あ、あの~ちょっといいですか?」


 白に輝く小手と膝当てに腰に携えるレイピア。


 軽装備の下には見たことがある制服。


 少し動くだけで銀色に輝く艶やかな髪をなびかせる。


「か、神城由紀さん!?」


「あ、はい。そうですけど……」


 菜々花さんは叫び声を上げて、両手で机を叩きつける。


「な、何の御用でしょうか?」


「いえ、そ、その少し人を探しをしてまして……」


「人探しですか?」


「はい……その黒髪で、装備も軽装で……犬?みたい……な?」


「あ~~探索者シーカーリストをご覧になりますか?」


「あっはい!お願いします!!」


 周りの探索者シーカー全員が今だにざわめいている。


 それもそうだろう。


 だって今、この場には有名な神城由紀さんがいるのだから。


 (てか、なんで俺、隠れているんだ?咄嗟に隠れちゃったけど)


「このリストからお探しください」


「ありがとうございます」


 (やばい、すぐ近くに由紀さんが……)


 そう思うだけで、顔が熱く、心音が高鳴る。


「ねぇねぇ、いつまでもそこにいる気なの?」


 小さい声で耳元で囁く菜々花さん。


「由紀さんがいなくなるまで」


 俺は即答だった。


「え~~~」


「なんですか……」


「日向くん、もしかして、神城由紀さんと会うのが恥ずかしいの?」


「ふぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 俺の熱は頂点に達し、恥ずかしさのあまりに飛び跳ねた。


「ちょっ、日向くん!?」


 後ろに隠れていた俺、飛び出した姿はよく目立ち、由紀さんにも見られた。


「見つけた……」


 俺はそのまま、床に顔を打ち付ける。


 「トントントントン」と軽い足音が床を伝って聞こえてくる。


 聞いたことがある足音、上を見上げると。


「見つけたよ」


 俺もとへ駆け寄ってくる由紀さん。


 しゃがみなら、俺と目線を合わせる。


「え……」


「君でしょ?ほら、ダンジョン1層でジャイアントコボルトに殺されそうになった……」


「あ、あ、……」


「聞いてる?」


「あ、いや……え~と」


 俺は、どう話せばいいかわからなくなった。


 高鳴る心音は歯止めがきかず、顔もまだ熱い。


「ぶしゃぁぁぁぁぁ……」


「あっ……」


 俺の思考は限界を超えてショートし、そのまま情けない姿で気絶した。


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