第12話 ふと昔のことを思い出す 後半

◇◇◇


 遥か昔、地上に大穴が現れ、その穴から門が出現した。それは闇そのもので近くで見ないとわからないほどの暗闇の門。


 大きく閉ざされた門はゆっくりと開き、その中から大量の魔物が溢れ出した。


 人々は、対抗するすべもなく、蹂躙され、気づけば、人間は搾取される側となった。


 魔物に怯える日々、生き残るには、静かに身を潜めて過ごすしかなく、それは見ていられないほど、悲惨なものだった。


 人間が減っていく中、魔物は増え続け、もはや絶滅を待つしかないと、諦めていく人々。


 そんな時、一人の男が立ち上がった。


 装備は小手と胸当て、膝当ての軽装備。


 武器は右手に持つ青く輝く剣のみ。


 艶やかに輝く銀色の髪をなびかせ、その瞳の色は光沢一つない黒色だった。


 魔物に立ち向かう勇敢な姿、人々はその者の後ろ姿を見て、こう思った。



『なんと無謀むぼうなんだ』



 人間が勝てるはずのない魔物。


 自分たちよりも数十倍も大きいというのに、愚かだと。


 誰しもが、冷たい視線を送った。


 誰も、味方するものなどいなかった。


 むしろ、あの者を止めさせろと言う者もいた。


 あんなことをしたら、私たちが殺される。


 でも、戦った。


 たった一人で戦っていた。


 仲間なんていない、信頼できるのは一振りの剣のみ。


 数日がたった。


 人々は奇跡を見た。


 それは、勇敢に剣を掲げるかの者の姿。


 それが意味するのは勝利。


 人類で初めて、魔物に打ち勝った。


 周りの人々は驚きのあまりに何度もあの者の姿を見る。


 あの者の足元には、無残に転がっている魔物の姿。


 人々は勇気と希望を貰った。


 そしてかの者は俺たちに教えてくれた。


 弱く、非力である俺達でも、魔物に勝てると。

 

 そこから、人々は一気に快進撃を起こす。


 噂は噂を呼び、それは、人を伝って伝染する。


 噂はいずれ真実となり、人々に戦う勇気を灯す。


 人々に魔物を倒せると証明したかの者。


 噂は全世界に広まっていき、触発され、人を超える者たちが次々と現れるようになった。


 魔物は数を減らし、気づけば、人間が狩る側へと戻っていった。


 そこから始めるは再び人間の時代。


 その時には、ほとんどの人が、かの者のことを忘れていた。


◇◇◇


「懐かしいな……」


 よくできた話だったけど、今思えば、お父さんは作家に向いていたのかもしれない。


「覚えているもんなんだな」


 天井を見上げながら、昔の思い出に浸っていると、突然。


 「ガラッ!!」と思いっきり扉が開いた。


「お兄ちゃん!!」


「あ、愛華!?」


「よかったぁぁぁ!!!!」


 俺を見ては、涙目になりながら、胸に飛び込む愛華。


「いてっ!!」


 愛華に抱き着かれ、その部分に激痛が走る。


「だっ、大丈夫?」


 今にも泣きだしそうな瞳で見つめてくる。


「だ、大丈夫だよ」


 俺は我慢して、笑顔で微笑む。


「よかった、よかった、よかったよぉぉぉ。お兄ちゃんまで、遠くに行っちゃうんじゃないかって……うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 泣いた、泣かせてしまった。


「大丈夫だから、大丈夫だから」


 俺は無駄に言葉を見繕わなかった。


 ただ、優しく愛華の頭を撫でた。


 愛華には、つらい思いをさせてしまった。


「ほら、愛華、俺は生きてる!だから、もう泣かないでくれ」


 そう言って、俺は元気な姿を愛華に見せる。


「ぐすっ……うん」


「それより、俺がいない間、ちゃんと学校に通ってたか?食事のバランスとか、不摂生な食事をとっていなかったか?」


「だ、大丈夫だよ。私、お兄ちゃんと違って、ちょ~~~真面目だから!!」


 と言って涙をぬぐいながら、満遍な笑顔を見せる。


 愛華の元気な笑顔を見た俺は、ホッとする。


「そうか、ならいいんだが……」


「ねぇねぇ、お兄ちゃんはいつ退院できるの?」


「三日後だって」


「そうなんだ。結構早いんだね」


「まぁ~早くしてもらってるからな」


「えっ!?それって大丈夫なの?」


「どうだろう。本来はあんまよくないんだろうけど、ほら、入院費も高いし、早く休んだ分稼がないと生活が……」


 俺たちの生活はかなり不安定だ。


 一日二日程度、ダンジョンに潜らなくても問題はないんだが、それ以上となると話は別だ。


 5日に3日の計8日の損失。


 なるべく、早く8日分は取り返さなくてはいけない。


「でも、すごく重症だったんでしょ……」


「ま、まぁ……」


「その左腕だって、いつ完治するか。やっぱり、しっかりと入院したほうがいいよ!!」


「あ……」


 眩しい。


 愛華の優しさがすごく眩しい。


 いつも、こんなに心配なんてしてくれないから、アレルギー反応かもしれない。


 キラキラ輝く瞳。


 その瞳には、悲しみと俺を心配する兄妹としての気持ちが込められていた。


「まぁ、あれだ。気にするな!!」


「で、でも……」


 やばい、これ以上話し合いになれば、絶対に押し負ける。


「失礼します」


 看護師さんだ。


「柊愛華さん。佐藤さんがお呼びです」


 (ナイスタイミングだ!名も知らない看護師さん!!)


「ほら、愛華、先生が呼んでるぞ」


「うぅ~~わかりました」


 そう言って、看護師さんと一緒に部屋から出ていった。


「危なかった……」


 あのまま会話が続いていれば、入院日が増やされるところだった。


 一安心する俺は、ふと窓の外を見る。


「そういえば、そろそろ、探索者能力数値シーカーパラメーターの更新をしないとな」

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