第10話 ジャイアントコボルト 後半戦
視界には折れた剣先が映る。
「しまっ……」
ジャイアントコボルトの皮膚は想像以上に固く、剣がその強度に耐えられず、折れてしまった。
今すぐに、こいつから離れないと。
でも、それは無理だ。
ジャイアントコボルトとの距離は10メートルもない至近距離。
今すぐに離れるのは不可能に近い。
次の瞬間、再び
加速しながら、向かってくる
「ぐはッ!?」
その力の向きのまま、左腕ごと持っていかれて、そのまま強く壁に体を打ち付けた。
「ぐっ……うぅぅぅぅぅ」
「ぐはぁ……ぐはぁ……ぐはぁ……」
ジャイアントコボルトの息が荒い、だいぶ
加えて俺は、重症だ。
左腕が完全に使い物にならなくなったののが感覚が一切ないことからわかる。
まだ痛みは感じないけど、それは時間の問題だ。
唯一、運がいいのが、足が無事なこと。
足が無事なら、まだ逃げるチャンスがある。
俺はゆっくりと、右足を上げて、立ち上がる。
「ぐがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
唐突の雄叫びを上げた。
地面が揺れ、そしてダンジョンが悲鳴を上げるように揺れた。
「おっ、おっと、まだ、元気そうだな」
「ぐるるるるるるるるぅぅ」
ジャイアントコボルトはまだ、戦う気満々だ。
それは、その威圧から、瞳から見てわかる。
「ぐっ……」
痛みが少しずつ広がっているのを感じた。
(逃げるか?いや、逃げ出したら、その後ろを狙われるだけだ)
せめて、ジャイアントコボルトの視界を奪うことができれば、逃げる隙ができるのに。
ジャイアントコボルトは一歩も動かない。
どうやら、警戒をしているようだ。
でもそれはそうだろう。
だって、もし俺の剣がジャイアントコボルトの皮膚を貫けていれば、確実に殺せただろうからな。
何とかして、視界を奪わないといけない。
痛みを完全に感じる前に、体がまだ動くうちに。
俺は折れた剣を持って、目の前にいる魔物に向ける。
「やってやる」
(視界だ。それさえ、奪えれば……)
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ジャイアントコボルトの先手、片足を踏み込んで、突撃してくる。
(早い!?)
1秒もたたずに、魔物との距離が縮まる。
そのまま、
単調な動き、間違いなく疲れていることが
(動きが遅いならまだ!)
俺は軽々とよけて、ジャイアントコボルトの内側に付け込んだ。
そして。
「これでもくらえ!」
俺は、剣を手放し、ポケットに手を突っ込んだ。
ポケットに入っていた唐辛子爆弾、俺はジャイアントコボルトの目にめがけて、今出せる全力で思いっきり投げ込む。
これで、視界を…。
だが、ジャイアントコボルトは危険を察知したのか、首を曲げて回避した。
(曲がるの!?)
驚き隠せない俺だが、もう考える時間もない。
せっかくのチャンス、まだそれは残っている。
大きな
つまり、もう一度だけチャンスがある。
アイテムがダメなら、直接狙えばいい。
俺は、距離をとるのではなく、むしろを魔物に接近する。
狙うは目だ。
上手く魔物の体を足場として使い、目にめがけて、飛び跳ねる。
手から胴体へと飛び跳ねた先は、ジャイアントコボルト全体がよく見えた。
俺は、こんな大きな魔物との戦っているのか。
体が熱い、
今思えば、俺は、こんなに身体能力が高かっただろうか。
俺の心は思ったよりも冷静だった。
滞空時間はわずか、すこしづつ、ジャイアントコボルトにめがけて、落ちていく。
そのわずかな数秒の間、ポケットに隠し持っていた小型ナイフを取り出す。
おかしい、やれる。
そんな自信が俺の心を満たしていた。
根拠はない、ただその自信は時間が経っていくにつれて、心を覆うように大きくなっていく。
青い光、それは俺の体全体に帯びていた。
(なんだこれ?)
俺はやっと、体に帯びる光に気づく。
(さっきまで、こんな光、纏ってたっけ?)
その青い光は徐々に強く輝きだす。
いや、今はそんなことよりも。
「ぐがぁぁぁぁ!!」
遅い、遅すぎる。
全てがゆっくりと流れているように感じる。
(ジャイアントコボルトってこんなに遅かったっけ?)
さっき見たよりも遅い、その違和感に俺は、気づいた。
やっぱり、遅いな。そして好都合だ。
今は、目の前にいる魔物だけに集中するんだ。
「あああああああああああああああああっ!!!!」
俺は、雄叫びを上げて、ナイフを右目にめがけて深く切り付ける。
全力の一撃、一ミリ単位のずれも許されない。
俺のナイフの一撃は、正確に右目を切り裂いた。
「ぐはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「通った!!」
刃が通った。
視界を奪われ、暴れ回るジャイアントコボルト。
何度も壁に体を打ち付け、血を流す。
俺はその隙に、ダンジョンの入口へと駆け出した。
暗い洞窟の道を全力で息を荒くしながら、疾走する。
「はぁはぁはぁはぁ、うっ」
少しずつ左腕が痛みだす。
その痛みは、今までに経験したことがないような痛み。
一瞬でも、気を抜けば、意識を失うほどの痛み。
「あと、少し……」
一筋の光が見える。
入口だ。
そこまで、意識を失ってはダメだ。
俺は気合と根性で、その光の先へと、走りかける。
そして、足を踏み入れた。
光の先へと体が触れた、そこで俺の意識はプツっと途切れた。
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次回から平和な話が続きます。
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