第8話 再び出会う

 ダンジョンの1層と2層はレベルで言えば、そこまで変わらないと聞く。


 けど、違うところを言えば、生息する魔物の数と、危険なトラップ、毒を持つ植物など危険度が跳ね上がる。


 スキル持ちなら、そこまで気にする必要はないだろう。


 ただ、俺は例外だ。


 スキル『なし』の俺は、ほかの人たちより危険度がさらに上がり、より念入りな準備が必要だ。


 と怯えてはいるものの、今の俺ならいける気がしていたりする。


 過去最高記録、半日でコボルト討伐数15匹、ほかの探索者シーカーなら、たいしたことないかもしれないが、俺にとっては泣くほど喜ばしい記録。


 2層で魔物が落とす魔石の値段も1層より高い値段で取引される。


「行ってみるか……」


 一瞬、降りるだけだ。


 魔物と対峙しなければ大丈夫。


 俺は、ゆっくりと慎重に螺旋状らせんじょうに続く階段を下りる。


 灰色の壁、下へ行くにつれて、暗かったダンジョン内が明るくなっていく。


 見にくかった視界がひらけ、足に地面がつく。



 2層到達。



 目の前に広がっているのは、1層とは違い、壁全体が灰色で覆われ、暗さは1層程ではない。  

    

 ただ一つ思ったのが、気味が悪い雰囲気が漂っている。


 この奥の先で、一体何が待ち受けているのか。


「ははっ……」


 ふと笑いが込み上げてきた。


 なんで、わらっているんだろう。


 その笑いは衝撃を受けたとか、恐ろしいとかそんな気持ちでこみあげてきたものではない。


 俺は、この未知に興奮しているんだ。


 新しい世界、冒険、1層にはいなかった新しい魔物、そこには俺の求めるものがある。


「ふぅ~~落ち着け俺、今、挑戦しても無鉄砲むでっぽうだ。挑むならちゃんと準備してからでないと」


 正直、俺らしくないほどに血に飢えている。


 戦いたい、戦ってもっと強くなりたい。


 その思いの根幹には彼女を追い求める目標が光り輝いている。


「今日は帰ろう……」


 けど、俺には妹がいる。 


 俺が死んだら、困るのは妹の愛華で、そんなこと俺はできない。


「………」


 でも今日の収穫はかなり大きいものだ。


 探索者シーカーにとって重要な自信、俺はそれを手に入れた。


 今の俺ならコボルト程度簡単に殺せる自信がある。


 俺は今、どんな表情をしているのだろう。


 1層、俺は来た道を戻る。


「やっぱり、2層に比べて暗いな」


 そんなことを呟いていると、暗い奥道から嫌な雰囲気を感じ取る。


 暗くて前は見えないが確かに、感じる。


 その瞬間、俺の足が意図もせず止まった。


「な、なんだ……」


 片手剣を構え、ゆっくりと前へ足を進める。


 体が震えあがるほどの悪寒、自然と汗が垂れる。



『ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!』



 重い足音が地面をつたって伝わってくる。


「ま、まさか……な…」


 この足音の重さ、聞き覚えがある。


 出来れば、そうであってほしくはない。 


 でも、どうしても思い浮かべてしまう。


 さらに先へと進むと、うっすらと大きな足が見えた。


 (最悪だ)


 まさか、帰り道にこんな奇跡が起こるなんて、ついてない。


 全長4メートル以上、右手には大きな棍棒こんぼうを持ち、常に獲物を狙う獣のような瞳。


「ぎゃごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」


 に俺は再び出くわした。

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