第7話 ダンジョン2層への入り口

 ダンジョン1層の暗い空間。


 俺は、胸当てと小手を装備し、右手には片手剣を持ち、前へと進む。


 抑えられないこの気持ちは俺に勇気を与え前へと押し出してくれる。


 今日の俺は、どこかおかしい。


「ぎゃぁ!」


「こいっ!!」


 前方にコボルト1匹、片手には小型ナイフを装備している。


 コボルトは基本的に集団行動はしない。


 あっても、3匹から5匹程度での集団行動しかせず、警戒するほどの魔物ではない。


「はぁぁぁぁっ!!」


 魔物に先手を取られないように、一直線に走りかける。


 狙うは首元。


 大型の魔物に比べ、小型の魔物は、器用で素早い特徴がある。


 だが、弱点で皮膚が薄く、ある程度力がなくても刃が通りやすい。


 そして、人体の構造は人型であれば、人とそう変わらない。


 なら、狙うは頸動脈けいどうみゃくだ。


 そこを狙えば、確実に簡単に殺すことができる。俺は、注意を払いながら、その部位に狙い定める。


「ぎゃぁぁぁぁ!!」


 俺の動きに呼応するかのように、小型ナイフを構え、身構える。


 迎え撃つ気満々なコボルトはぎゃあぎゃあっと叫んでいる。


 魔物との距離、残り20メートル。


 俺は、ポケットに手を突っ込み、とあるアイテムを握る。


 ポケットは探索者シーカーにとって必需品だ。


 その中には、探索者シーカーには欠かせないアイテムが入っている。


 これはその一つ。  


「これでもくらえっ!!」 


 ポケットから取り出したアイテムをコボルトの顔面、目掛けて、思いっきり投げつける。


 目つぶしアイテム。



唐辛子爆弾とうがらしばくだん



 安価で作れるコスパ最強アイテム。


 名前で分かる通り、視界を一時的に奪うために俺が作ったものだ。


 コボルトは唐辛子爆弾に直撃、両手で目を抑え、膝をついた。


「ぎゃぁぁぁぎゃぁぁぁぁぎゃぎゃぁ!!!!!」


 悶えるコボルトの叫び声は洞窟内全体に響き渡る。


 視界を奪われたコボルトは、その隙を見て最短距離でコボルトの背後を取った。


 魔物との距離、0メートル。


「………」


 首元に片手剣の剣先を当てる。


 そして。


「ふんっ!!」


 素早く、正確にコボルトの頸動脈を切り裂いた。


 飛び散る血しぶき。


 魔物の血の色は紫、血生臭さが服にこびりつく。


「案外、いけるもんなんだな」


 こう見えても、自分の手で魔物を倒したのは、これで、2回目だったりする。


 魔物対策のほとんどが自分の手で魔物を倒すことではなく、トラップなどでハメて倒すことがほとんどで、自分の手で魔物を倒すことへのリスク、それが俺にはとても大きく、そのため、罠でハメて倒すことが一番安全だった。


 けど、今は安全よりもどうやれば、どう動けば、どのような動きをすれば、彼女に近づけるか、そう考えてしまう。


 彼女に少しでも近づくために、魔物との対人戦の経験は欠かせない。


「魔石ゲットっと……」


 殺した魔物から落ちた魔石を手にして、次の魔物を探す。


 (俺ってこんなに好戦的だったけ?)


 今まで、安全にどうやって魔物を殺し、お金を稼ぐかで頭がいっぱいだった。


 なのに、今は魔物をたくさん求めている。


 強くなりたい、もっと強くなりたい、彼女に追いつきたい。 


 お金よりも魔物、そんな考え俺の中で生まれていた。


「ふぅ~~落ち着け俺、まだ愛華の学費がある。まずは学費を稼がないと」


 目標を持つのはいいが、まずは学費から。


 と思ってはいるものの。


「ふぅ~これで3匹目……」


 気づけば、3匹もコボルトを狩っていた。


 (おかしい)


 まだ、2時間しか経っていないのに、もうコボルト3匹目。


 いつもの調子なら、5、6時間かけて3、4匹が限界だったのに。


 (もしかして、罠とか張るよりも、自分の手で倒したほうが効率がいいのか?)


 俺は、自分でも驚くほどに簡単に狩れているこの状況に少し戸惑いを感じている。


 集団で動いているコボルトを避けながら、孤立しているコボルトを殺してきたが、それでも早い。


 探すのに10分から30分程、それでも2時間。


「もしかして、俺って対人戦の才能ある?なんてな!そんなわけあるか!」


 とはいえ、これで一つ分かったこと、罠を張って殺していくよりも、自分で攻めて、殺したほうが効率がいい。


 もしかしたら、今の探索者シーカーもスキルあるないにかかわらず、罠を張るより、戦ったほうが早いことをわかっていたのかもしれない。


「よし!どんどん狩ってくぞ!!」


 自信がついた俺は、がむしゃらにコボルトを狩っていった。


 3匹以降も孤立しているコボルトを狩り続け、途中で、集団行動しているコボルトにも手を出し始め、気づけば。


「これで、12匹目、だいぶ慣れてきたな」


 ここまで、約4時間。


 2時間で4倍の数のコボルトを狩った。


「やべぇ~絶好調なんだけど」


 4匹目以降も順調にコボルトの数をこなし、気づけば瞬時に殺すことができるようになっていた。


 さらに集団行動するコボルトにも手を出し、意外にもあっさりと殺すことができてしまった。


「俺って、本当に才能あるかも」


 スキルがないとはいえ、ここまでできる人はそういないのでは?そう思った。


 天狗の花のように、のびのびと調子に乗り始める俺は、さらに拍車はくしゃをかけた。


「このまま、一気に行くかぁ!!」

 

 あと1時間ほど時間がある。


 この調子でいけば、すぐに学費代は集まる。


 そのまま調子よく次々とコボルトを殺していった。


 途中で見かける探索者シーカーも俺を見て、変人を見るような表情を向けてくる。


 見世物みせものではないというのに失礼な奴だ。


 奥へと突き進み、気づけば、周りが静まり返っていた。


「もう、いないのか?」


 コボルト15匹目。


 かなりの魔物の数を狩った。


 しばらく、ダンジョンの奥へと進むと、下に続く階段を見つける。


「ここって……」


 下へと続く階段、それが物語ることはだだ一つ。


「2層への階段……」


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