第5話 探索者の役割

 朝5時頃、俺は運動用のジャージを着て、玄関の外へ出る。


 いつも見ても、暗い細道。 


 太陽が当たらないこの場所で、俺はいつもの日課をこなす。


 スキル『なし』のレベル1探索者シーカーである俺は、ダンジョンで死なないために毎日、体を鍛えている。


 毎朝、腕立て、腹筋、スクワット、そして剣に見立てた木刀で素振り。


 それをそれぞれ、最低1000回ずつこなしている。


 おかげで体が引き締まり、無駄な脂肪はそぎ落とせた。


 まぁ、レベルアップしたほうが、強くなるから、ここまで鍛えている探索者シーカーはなかなかいないと思う。


 それこそ、体を鍛えることが趣味な人ぐらいしか、やる人はいないと思う。


「ふぅ~~」


 日課が終わったころには、もう朝7時頃だった。


 汗をタオルで拭きながら、リビングに向かうと、愛華が目を見開いて、テレビを見ていた。


「何見てるんだ?」


「見て見て、お兄ちゃん!ニュース!!」


「うん?」


 愛華が慌てる様子でテレビに指さした。


 テレビには探索者協会の速報ニュースが映っていた。



『みなさん。ついにあの神城家が率いるパーティーがダンジョン87層を突破しました。ダンジョン攻略の日は近いかもしれません。さらに、若手の新星【冷徹】神城由紀のレベルアップの報告です。なんと、87層のダンジョン攻略でレベル7に到達。人類最速のレベル7探索者シーカーの登場です!!これはきっと、歴史の一ページに刻まれることでしょう!!これからの神城家の活躍に期待できそうです』



 そのニュースは瞬く間に全世界に広まった。


 ダンジョン87層の攻略という一大ニュースに追撃で、【冷徹】神城由紀の人類最速のレベル7の到達。


 いろんな記者がこのニュースを歴史の一ページに刻まれると語った。


 歴史的瞬間を俺たちは立ち会えたんだ。


 でも、なぜか、心の底から喜ぶことはできなかった。


 うれしいはずなのに、俺の心は噓をついている。


 (なんでなんだろう)


 こんなに深く考える必要なんてないのに、なぜか、感情的になりそうになる。


 レベル7は探索者シーカーにとって一つのいただきだ。 


 現在の探索者シーカー最高レベルは9。


 レベル10に到達したのは、まだ探索者シーカーという名もなかったころに活躍した、伝説上の存在である6人だけ。


 彼女はそのいただきのあと3歩手前なのだ。


 しかも、レベル7は世界でたったの数百人しかおらず、レベル7に到達することがどれだけすごいか、探索者シーカーであれば、誰でもわかる。


 (遠いな)


 あまりにも遠すぎる。


 この気持ちは悲しみでも妬みでもない、これは自分自身の滑稽さに、弱さに、非力さに、絶望しているんだ。


 (そうか)


 俺は、ある一つの答えを導き出した。


 あの出会いから、抱いていたこの気持ちの正体。


 それはあまりにも純粋で宝石のように輝く少年の気持ち。


 俺は、あの時、あの姿を見て。



 『あの【冷徹】神城由紀に憧れたんだ』




 高校の通学路、俺は、青黒い制服を着て、学校へ向かう。


 基本的な習慣は、月曜日から金曜日までは高校で授業を受け、午後からは探索者シーカーとしてダンジョンに向かう。土日は基本はダンジョンに潜りっぱなし。


 それが基本的な俺の行動パターンだ。


 正直、かなりハードなスケジュール。


「はぁ~」


 朝から強烈なニュースにため息が漏れる。


 疲れているわけではない、ただ月曜日という憂鬱な日に加え、複雑な気持ちが重なった結果だ。


 何もない大通り、朝は探索者シーカーよりも、サラリーマンなど、一般人がよく歩いている。


 しばらく、まっすぐ歩くと、ひときわ大きい建物が見えてくる。


 いくつも連なる細長い建物は数えるだけで4っあり、その敷地はとても広いのが外から見てもわかる。


「いつ見ても、本当に広いな」


 俺が通っている高校は、探索者シーカー育成高等学校。


 探索者シーカーの育成を主軸とした高校で、主に優秀な探索者シーカーの育成に力を入れている。


 いたって普通の高校だ。


 今の時代、ほとんどの人が、探索者認定シーカーライセンスを持っており、また、探索者シーカーとして名を広げたいと夢見るものが多く、探索者シーカーとして生きていきたい者も多い。


 そのため、少しでも探索者シーカーとして社会にでても生きていけるように育成する高校が増え、結果、さらに探索者シーカーを増やす結果になった。


 今の時代、探索者シーカーの育成に力を入れる高校や、力を入れていなくても、育成する機関がある高校も多い。



 校門前。


 大きな扉をくぐった先は、いくつもの校舎が連なっていた。


 探索者シーカーの役割は簡単に三つに分かれる


 主に前に出て魔物を倒すアタッカー。


 魔物の攻撃を受け、誘導するタンク。


 後ろに回り、魔法などで補助するサポーター。


 これが主な探索者シーカーの役割。


 そのように三つの分野を分けるように校舎が分かれている仕組みだ。


 のこりの一つは、普通学科でいわゆる探索者シーカーにならない人が学ぶ校舎。


 そして俺はもちろん。


「なにしてるんだろう」



 (普通学科だ)

 


 流れる授業、現代文、数学、日本史、世界史、つまらない授業は一瞬で過ぎていった。


 なぜ、探索者シーカーとしてお金を稼がなきゃいけない俺が、普通学科なのか、それには深い理由がある。


 それは、俺がスキル『なし』だからだ。


 探索者シーカーの育成に力を入れている高校のほとんどがスキルを持っていることを前提にカリキュラムが組まれている。


 つまり、スキルのない者を含んでいないのだ。


 さらに入試の要項にも、スキルが所持している者に限るという条件がしっかりと記載されている。


 そもそも、俺には、受験する資格がなかったってことだ。


 それでも、俺がこの高校を選んだのには理由がある。 


 それは、少しでも探索者シーカーの姿を見るため。 


 いわゆる見て学ぶというやつだ。


 見て学ぶことは結構重要で、例えば、接近戦の際の、魔物との距離の取り方とか、武器の基本的な使い方とか、見て分かることが沢山ある。


 知識とかは学べなくても、実践において学生の動きで学べるものは沢山あった。


 実際に、魔物との距離感や、剣のさばき方などは、実際に学んでいる学生の動きをベースにしている。


 だから、この高校を選んで後悔はない。


 ただ、一つこの高校を選んで後悔したことがある。


 それは。

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