第24花 願

 穴の大きさが広がり、深くなっていく中、正愛まさちかは思い出していた。


(そうだ、警察には話した。ここで俺が殺され、いつか遺体が見つかれば、こいつらは終わりだ。俺の死が、さきを守る事になるなら、それでいい)


 そして、頃合いを見計らったように、パトカーのサイレン近づいてきて、家の前で止まった。


(もう来てくれたのか!)


 だが、正愛まさちかの希望は、刹那に砕かれる。


 崩れていた塀を乗り越えやってきた警官は、鬼気迫る表情でもなく、手錠も持っていなく。


「おぉ、やってますなー」


 スマートフォンで録画しながら、楽しそうにそう言ったのだ。


 死を間近にしているせいか、正愛まさちかの頭は冴えていて、残酷にもまた一瞬で悟ってしまった。


(警察もグルか! いや、きっとがグルなんだ!)


 と。


 この家の家主の老女は有権者だった。財力もあり権力で町を牛耳ぎゅうじっていた。







 この町は蜘蛛の巣だ。



 牛耳る老女という大蜘蛛が張り巡らす糸。それに町は絡め取られている。

 逃げられない、糸から情報は筒抜け、逆らうものは蝶のように捕食されてしまう。


(この町に、味方なんかいない!)


 恐らく、児童相談所も老女の手の内だ。


 そう、気付いても、遅い。


 とうとう、穴は完成してしまった。


「————————————!」


 言葉を発せられない中、正愛まさちかは叫んだ。だが、それも虚しく、先ほどの六人に担がれ、穴に落とされた。


 そして、土をかけられていく。


 ニタニタとおぞましく気色悪い笑みを浮かべながら、土をかけている男共が見えなくなる中、光を失って、死を感じていく中、正愛まさちか叫喚きょうかんした。









            

















(死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない!)





 それは、怨念のようで。


 



(まだ死ねないまだ死ねないまだ死ねないまだ死ねないまだ死ねないまだ死ねないまだ死ねないまだ死ねないまだ死ねないまだ死ねないまだ死ねないまだ死ねないまだ死ねないまだ死ねないまだ死ねないまだ死ねないまだ死ねないまだ死ねないまだ死ねないまだ死ねないまだ死ねないまだ死ねないまだ死ねないまだ死ねない!)

  




 祈りのようで。





(死ぬわけにはいかない死ぬわけにはいかない死ぬわけにはいかない死ぬわけにはいかない死ぬわけにはいかない死ぬわけにはいかない死ぬわけにはいかない死ぬわけにはいかない死ぬわけにはいかない死ぬわけにはいかない死ぬわけにはいかない死ぬわけにはいかない死ぬわけにはいかない死ぬわけにはいかない死ぬわけにはいかない死ぬわけにはいかない死ぬわけにはいかない死ぬわけにはいかない!)





 悲鳴のような。





(俺があの子を守るんだ!)





 願いだった。


 

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