読む快楽

@that-52912

第1話

夏目漱石「門」を今度は読んでみる。主人公・宗助と細君の日々を綴った物語だ。ひっそりとした雰囲気が心地よい。派手なストーリーのない小説だが、魅力的な作品だ。小説の冒頭、宗助が縁側で寝そべるシーンが描かれている。明治時代の、日曜日の朝だ。静かな街に下駄の音が響く。僕はこのシーンを読むとき、自分の体が、じんわりと暖かくなる。体に伝わってくるのだ。文章が体にしみてゆく。これこそ、文学を読む快楽だ。


漱石の作品には、読む快楽を味わうことが出来る文章が多い。「草枕」にも、豊富にある。主人公の画工が、山路を歩き疲れ、茶屋で休憩をとるシーン。茶屋の玄関で、画工が声をかけると隅っこにいた鶏たちが騒ぎだす。茶屋のお婆さんが追い払おうとすると、鶏たちは、糞をして逃げて行く。お婆さんからお菓子をもらった画工は、お菓子に糞がついていないか、確かめる。鶏たちが可愛らしく暴れるユーモアのあるシーンだ。くすっ、と笑える。漱石の作品には、こうしたユーモアを感じさせる文章が多い。漱石本人は、悩みの多い人だったようだが。ユーモアを文章によって作り出し、自分のこころを癒していたのだろう。読者である僕たちも、漱石に楽しませてもらっているのだ。


読む快楽、続きはまた。


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