第8話 激昂

「ハーッハッハッハッハッハ!!!」


 俺の攻撃を容易く防いだ目の前の男は、自らの圧倒的な力を見せつけるようにしながら豪快に笑う。


「見たか!彼が俺様の”管理者”の力だ!」


 両腕を広げ、俺を馬鹿にするような笑みを浮かべながら男は再び豪快に笑った。


「”管理者”としての力は同じなんだがな。」


 そして俺は再び一瞬だけ”管理者”を展開し、自らの持つ刀を、初期装備の刀からこの世界の最上位に君臨する刀である、『妖魔刀:宵桜』という、全体的に黒を基調とした刀で、鞘には所々に桜の模様がある。刀身は更に黒く、漆黒で、光を当てると黒みがかった紫の綺麗な光で反射する刀を創り出してアイテムボックスに初期装備の刀を収納し、『妖魔刀:宵桜』を手に取る。因みにこの刀は”管理者”のデータを漁っていたら偶然全部の職業の最上位の装備のデータを発見したので、そのデータを元に創り出したのだ。


「まあ、そんなしょーもないことに使ってんだから、俺と同格な訳ねーか。」


 煽るように言うと、男はどうやらここまで言っても都合の良いように捉えたようで、分かっているなと言いたげな表情で笑った。


「そうだ。俺様と貴様ではそもそもの格が違うのだ!ようやく理解したか!」


「は?ここまで言ってんのに分かんねーのか?どれだけおめでたい頭してんだ、お前。」


 至って真面目な表情でそう言ってやると、男はやっと言葉の意味を理解したのか、今度は激昂したように顔を真っ赤に染めて俺を睨んできた。


「貴様…殺してやる!!」


 目の前の男はそう叫びながら俺に向かって”管理者”を使って光魔法の弾幕を張ってきた。

 野生動物か?こいつは。勝手にいい気分になって勝手に激昂しやがる。それに、なんだ?このショボい弾幕は。


「なあ、お前、舐めてんのか?」


 俺が言うと、男は意味がわからないと言いたげな表情で「あ゛あ゛ん゛!?」とほぼ人語を介さないような返事をしてきた。


「お前が言ったんだろ?『同じ”管理者”の職業を持ってる奴を殺すのは容易じゃ無いって分かってるよな?』ってよぉ。」


 そう呆れながら言い、俺はショボい光魔法の弾幕を刹那のうちに全てを切り裂いた。


「俺様は貴様なんぞより強い!たとえ貴様が”管理者”を持っていようとなぁ!」


 こいつ…本当に馬鹿すぎないか?わざわざ“管理者”を使ってまで初心者が使うようなショボい光魔法の弾幕を張るとか。本当に俺を舐めすぎだろ。怒りを通り越して呆れるわ。


「そうかよ。だったら好きなだけ俺に攻撃してみろよ。俺が全部切り裂いた後、ゆっくりお前を始末してやっからよぉ」


 不適な笑みを浮かべて言うと、男は一瞬怯んだ様な表情を浮かべた後、直ぐに再び激昂した表情へと戻り、魔物を仕向けようとしてきたが、タイミングよくワールド保全システムが起動し、魔物が全て消えた。


「なんだ!俺様の下僕共が消えやがった…!」


 男は困惑と怒りが混ざった表情で怒鳴りつけてくる。俺は頃合かと思い、タネ明かしをしてやる。


「ワールド保全システムだよ。」


 男は意味がわからないと言いたげな表情で俺の方を見てきた。


「知らねぇのか?"管理者"が聞いて呆れる。」


 そう呆れたように言ったあと、はぁ、と溜息を吐く。


「あのな、ワールド保全システムってのはな、_っぶねぇなぁ。人の話は最後まで聞けって習わなかったか?」


 俺がわざわざ説明してやろうと思って説明をし始めた瞬間、不意打ちでもしたかったのか、男は俺の頭上に"管理者"を使って光魔法の中でも中級魔法程度の魔法、《光ノ槍》を放ってきた。俺はゆるりとそれを躱し、呑気にそんな言葉を返す。


「ちっ、しぶといヤツめ…さっさと死ね!」


 自分がこの世界において知らないことが何一つないとでも思っていたのだろうか?男は俺に説明を受けるのが癪なのか、露骨に話を変えようとしている。


「あのなぁ…」


 そう呆れたように言いながら俺は刀を『瞬刀:霞一閃』を放つ構えになり、鋭い眼光を放ちながら男の方向へ地を蹴る。俺が一度蹴った地面には、舗装されていた石畳が、小さいクレーターの様になり、抉れた地面と粉々の瓦礫が辺りに散乱していた。


「さっき言っただろ?俺を舐めすぎだって。」


 俺は既に何かを斬った後の様に刀を持っている右手を真横に伸ばしていた。男は何が起こったか分からないと言いたげな困惑した様子で俺の方を少し汗をかきながら見ていた。


「…は、ははっ、あははははははは!!!!」


 男は自らの体になんの影響も切り傷を見当たらないことを体をぺたぺたと触りながら確認し、何も無かった事を確信した瞬間にそう高笑いをした。


「結局、貴様は俺様に何も出来なかったみたいだなぁ!」


 まだ少しビビったような声色が混ざっているが、ほぼ余裕そうな声色になって俺に向かってそう言ってきた。


「ほんとに馬鹿だな。」


 俺が小声で言うと、男は聞こえなかったのか、高圧的な態度で「あぁん!?なんだってぇ!?」と言った。


「ほんとに馬鹿だなって言ったんだよ単細胞が。」


 立ち上がり、刀を下ろして男の方へ振り返ると、今度は男にもはっきり聞こえる声で再び同じことを言った。


「実際貴様は俺様に何も出来てねぇじゃねぇかよ!」


 俺の言葉に激昂しながらそんな事を言ってくる。

 こいつ…まだ気づいてないのか?どれだけ鈍いんだよ。これは…流石に…


「ぷっ………あはははははははは!!!!!」


 吹き出しちまうだろ!いや、幾ら俺が早かったからって……なんで自分で張った壁の存在忘れてんの…?面白すぎるだろ…こんなん。因みに俺が斬ったのはあの単細胞が厨二心に塗れた考えで張った全体防御(笑)の壁と、"あの単細胞の"管理者"としての権限"だ。まあ、正確には"この世界のプログラムに干渉する権限"だが。つまり、今回の様に大量に魔物を出して支配下に置き、攻めるという事や、世界の根本のシステムに干渉して世界崩壊だったり、世界に多大な影響を及ぼす様な事ができなくしたという事だ。この程度なら"管理者"を剥奪するまでもない。ただの単細胞の小物だ。次、もし俺の邪魔をして来るようなら、その時は俺の知識、技術、力を以てあの単細胞を完全に殺す。いや、"管理者"を剥奪して下僕にするのも良いかもな。


「んだよ!何がおかしい!」


 男が声を荒らげて言ってくる。


「まだ気づいてねぇの?……お前が…張った…壁…なのに……ぶふっ…」


 ダメだ。やっぱり笑っちまう。

 俺は笑いを必死に堪えるようにしながら、途切れ途切れだがそう言葉を紡ぐ。唇や頬がぴくぴく震えるのを感じた。


「壁…?………そういや、なくなってやがる…」


 俺に指摘され、怒りに任せて叫ぶかと思いきや、唖然として壁が無いことに驚いていた。

 流石にそこまで知能を捨てていた訳では無いか。まあ、知能が低いことに変わりは無いが。


「てめぇ!何しやがった!」


 は?こいつ…まだ気づいてないのか…?流石の俺でも引くぞ…?


「…は?」


「『…は?』じゃねぇよ!何しやがったって聞いてんだよ!」


「いや、待て。お前はどうしてさっき斬られたって気づいてないんだ?」


 思わず唖然としながら言う。流石に面白さを通り越して困惑してしまった。


「あ?あの壁は俺様が作った絶対防御の壁だぞ!?貴様なんぞの攻撃で俺様の壁が斬れるもんかよ!」


 あぁ…いい歳した大人が…間違いを認めずにこんな恥ずかしい事を叫べるとは……これが反面教師というものなのか。いや、大人なんだから厨二心を捨てろなんて事を言うつもりは無いし、なんなら俺は大人になってもアニメとかゲームとか、厨二心がくすぐられるものを好きでいる自信がある。だが、こんな厄介勘違いオタクみたいな奴は流石に引いてしまう。あの単細胞はどうやら小学生以下のIQしか無いようだ。無駄に知識だけ積み重ねてそれを活かす事が出来ない無能。教師みたいな…いや、止めておこう。これ以上続けると一生語ってしまう気がする。


「斬れるんだよ。お前が"管理者"でガバガバの絶対防御(笑)の壁を作った様に、俺は完璧なプログラムを組んでお前の壁を斬った。」


 流石に"管理者"の権限を斬った事まで伝えるとまた面倒なことになりそうなので言わないでおく。


「んな事があるわけが…」


「あるから今こうなってんだろうが。」


 男の言葉を遮るように俺は言う。


「クソが!巫山戯やがって!」


 男はそう言うと、半ばやけくそで俺の目を潰そうとしたのか、フラッシュバングレネードのような視界が白く染まるような強い光を光魔法で放った。俺は流石に目を瞑り、目を守るように手を顔に重ねる。


「次は絶対殺してやるからな!!」


 そんな男の負け惜しみの声が聞こえると、強い光が消え、目の前に立っていたはずの男は居なくなっていた。おそらく全プレイヤー共通固有スキルの『転移』だろう。このスキルは中々便利なもので、一度行ったことのある場所にならいつでもどこでも転移できるという優れものなのだ。"管理者"からワールドプログラムに申請し、ログを確認すればあの単細胞が何処に転移したのか分かるが、面倒だしまたあいつに会うのはストレスが溜まりそうなので止めておく。なにより奈乃に隠れさせてるしな。


「奈乃、もう大丈夫だぞ。出てきてくれ。」


 宿の部屋に戻り、何処かに隠れているであろう奈乃に声をかけると、不安そうな顔をしながら奈乃が人一人くらいなら余裕で寛(くつろ)げるくらい大きいクローゼットから出てきた。


「凄い戦闘音してたけど…大丈夫?」


「ん?ああ。大丈夫だ。あいつは取るに足らない雑魚だったよ。『転移』で逃げられたけど追いかけても余計ストレス溜まるだけだから止めた。」


 俺はへらへらとしながら奈乃にそう伝える。


「良かった…」


 という奈乃の安堵の声を聞き、俺はベッドに潜り込むと、ベッドの温もりを感じながら意識が薄れていくのを感じた。

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