第15話

前夜祭も終わり、とうとう学祭当日になった。私はバンドを組んでないので出ることはない。見るだけだったが、見るだけでも十分楽しみだった。私たちは講堂に集まり、バンド演奏が始まった。

(次はヤバいハンバーガー屋さんだ。)

アオさんたちのコピーバンドだ。

後ろできいていたが、ステージの前、左側に行った。ベースがよく見えるからだ。丁度アオさんがでてきた。「パリピ、パリピ、俺も、混ぜてくれ♪」いつもと違ってノリノリで楽しそうなアオさん。たまに手拍子をして客席を盛り上げている。アオさんは一見クールに見えるが、こんな明るい一面もあるのだ。


最後のバンド演奏になった。もう夜だ。最後だからか、会場の盛り上がりはピークになっていた。ボーカルの男の人が「サンボマスターのコピーしてます。ロックマスターです!よろしくお願いしまぁす!」と言った。客席からはうぉー!という歓声があがった。1曲目の「青春協奏曲」が始まった。私たちは気が付いたらみんな肩を組んでいた。飛び跳ねて歌う人たち。その勢いのまま、2曲目、3曲目が終わった。会場は異様な熱気に包まれたまま最後の曲になった。ボーカルの人が「きいてください。世界を変えさせておくれよ!」とマイクで叫んだ。私たち観客は丸くなってボーカルを囲んでいた。「世界をかえさせておくれよ、そしたら君とキスがしたいんだ。世界をかえさせておくれよ、そしたら君と夢が見たい。」バンドの音に合わせて私たちはみんな一つになって歌っていた。この瞬間、この場にいる人たちと打ち解けあえた感覚になった。初めて感じる感覚。いまだけでも、本物の家族になったようだ。肩を組んだ隣の隣にアオさんがいた。何かを話しているわけでもなく、隣にいるわけでもないけど、「繋がっている」そう感じた。

そっか。

アオさんとはうまく話せない。

もし話すことができてもあまり盛り上がらないかもしれない。

今までだって全然喋れなかったし。

きっと性格も好きなものも違う。

だけど、いま、繋がっている。

そう思える。

バンドの音で、繋がっている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る