第12話

合宿に来た。「くじを引いて決まったメンバーで、バンドを組みます。この三日間で練習して発表してください。」残念ながら、アオさんと同じバンドにはなれなかった。やる曲もくじで決まった。私たちはgogo7188の「こいのうた」をやることになった。メンバーの四人で丸くなって座る。ドラムの人は床にスティックを叩いて練習している。ギター、ベースの人はしゃんしゃん楽器を弾いていた。特に楽器の人は三日という短い時間の中で練習しなければいけないので真剣にやっている。私はボーカルなので、練習することは特にない。とりあえず歌詞を覚えることにした。楽譜の紙を開いて小さな声で歌ってみる。しかし、すぐにやることがなくなってしまった。

暇だなあ。回っている扇風機を眺める。窓の外をみると、山があった。


発表の日が来た。次は、「Cグループ」私はマイクの前に立った。先輩がマイクに近づいてきて何やら調整している。先輩や同級生とみんなで目を合わせて、(せーの)と合図をした。「いーきてゆーくーちから―がー、そのーてにあーるーうーちはー・・・」体育座りをしているみんなの目が私たちに向いている。その中にアオさんの顔があった。まっすぐこちらを見ている綺麗な二つの瞳。アオさんを見ていると緊張しそうだったので慌てて目線をそらした。視線の先にはユウ先輩。ユウ先輩は安心感がある。


合宿所でそのまま打ち上げをした。

打ち上げの席でバンドのみんなで集まって反省会をした。

「みんなごめんね。」合宿中あれだけ歌詞を確認したのに、間違えてしまった。二番をまるまる飛ばして、いきなりCメロを歌ってしまった。他の三人は一番のあとにいきなりCメロが出てきて焦ったに違いない。それでもなんとか最後まで合わせてくれた。「ま、しょうがないよ、オトちゃんはバンドするの初めてだし。」二年の先輩の小原さんがいう。小原さんは今まで飲み会でたまに話していた男の先輩だ。優しそうな人だな、とは思っていたが、この合宿で改めて優しさを感した。小原さんは「みんなも緊張したよね、」と二人に話をふった。小原さん以外の二人の反応は薄かったが、とりあえずほっとした。「終わったんだし、気を取りなおして、飲も!」と小原さん。


この飲み会ではアオさんと話せるかな。


「歌詞飛ばしてたな(笑)」「えー、そんなことないよー。歌ってあげよっか?いーきてーいーくーちからーがー」酔っぱらった私は大声で歌ってみせた。「お前、おもしれーな!」と先輩。「全然飲んでないじゃん!(仲良くなったためタメ口)」と私。「えー、もう良いよ~」酔っていると楽しくなって。楽しそうなみんなを見ていると嬉しくなって。ついふざけてしまう。もっと。いつものように私はコップを手に取って焼酎のロックを喉に流し込んだ。「オトちゃん、大丈夫?」と一年生のチハルちゃんに心配される。

(もっと飲みたい)

(もっと楽しくなればいい)

(もっと何も感じなくなればいい)

ふとアオさんたちのほうを見ると、楽しそうに喋っていた。「写真撮りましょ!」と一年生の女子が言った。「良いよ~」とアオさん。ハイ、チーズ。四人で肩を組んで写真を撮っている。良いなあ。

横から、「俺も~」と一年男子が混ざった。今度は七人くらいになった。この流れに混ざれば、私もアオさんと写真が撮れるかも、と思った。近くに行ったがどうしようもできずに、ただ立っていた。そのとき、アオさんが「みんな写ろう。」と言って私に手招きしてきたのだ。私はアオさんに肩を組まれて、写真を撮ることができた。

アオさん・・・好き。

この流れでアオさんとも仲良くなれるかも、そう思った。「アオさ~ん」とふざけて言ってみた。「俺、ちょっとトイレ行くわ。」アオさんはどこかへ行ってしまった。

どうしてだろう。

アオさんの周りにはいつもひんやりとした空気が漂っている。

「あいつは変わってるからさ。あ、オレンジジュース飲む?」と小原さん。隣にいたチハルちゃんがジュースを注いでくれた。

みんな優しいな。

どうして私は優しくないアオさんのことが気になっちゃうんだろう。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る