第11話

ライブハウス「studioGO」に来ていた。外まで、音が聞こえてきている。入口の扉をあけると、カウンターにカオリさんがいた。「今日一年トイックじゃなかったっけ?」「終わったので、来ました。」「良い子じゃーん。取り置きしてる?」取り置きというシステムはあまりよく分からない。目当てのバンドがいたら、チケットを取っておいてもらうらしい。「してないです・・・。」「おっけー。500円ね。」ライブハウスの重い扉を開けると、音が一層大きくなった。薄暗い中に30人くらいの人が立っている。改めて、異様な空間だな、と思う。上を見ると、照明のところにも何人か人がいるのが見えた。「次はガールズバンド『キャラメルマキアート。』だ!」おー!客席が盛り上がる。5人がステージに現れた。「レイナちゃんかわいいよ!」などの太い声が聞こえてくる。先輩たちが盛り上げているのだろう。ライブが始まった。みんな手拍子をしたり体を揺らして乗ったりしている。私もとりあえず、合わせて体を揺らしてみる。驚いたのは私と同じ1年生がいることだ。私は入部してから、ただ飲み会に出て楽しく過ごしていた。その期間にバンドを組んでライブまで出ている一年生がいるなんて。すごい。

「音楽って良いなあ。」

ただ楽器を演奏している、ただ歌っている、そういえばそうだろう。だけど、音に合わせて、演奏している人の熱意が伝わってくるような気がする。この頃、私はどこにもぶつけられない、熱を持っていた。もしかしたらこれが「若さ」というものなのかもしれない。ここにいる、みんながそれを持っていた。持て余していた。私たちにとってバンドがちょうど、熱い気持ちを発散できる場所だったのだろう。何人かで発した音が一つになって独特の世界を作っている。そんなとこもロマンチックじゃない?音に包まれているような感覚になる。私はゆらゆらと気持ちよく揺れていた。私はまだバンドを組んでいない。だけど、別に良いじゃん。ここにいるだけで、もう満足してしまう。


全てのバンドの演奏が終わった。外に出ると、暗くなっていた。中に戻ると、みんなスタジオを掃除していた。私は余っていたちりとりを持って、フロアに出た。


あ。


先輩たちが箒で床を掃いていた。その中にアオさんもいる。アオさん、黒いシャツをきている。いつもはパーカーのイメージだけど。黒いシャツもかっちりした感じで良いなー。似合ってるなー。と思っていると先輩たちに「ちりとりこっち来てー」と言われた。「あ、はーい」と返事をして先輩たちのところに向かう。

アオさんが箒で掃きながら近づいてくる。私の持っているちりとりにゴミを入れている。


あれ、なんだろ。

普通だな。


最近、アオさんに好かれてないんじゃないか、そう思っていた。悩んでいた。それが嘘のように普通に掃除をしている。といっても一言も喋ってはないけど・・・。少なくとも、避けられている感じはしない。


もしかして、アオさんって恥ずかしがりやなのかな。

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