第10話

夜9時。人通りの少ない、商店街の角を曲がったところ。自動販売機の明かりのすぐ横に私はいた。ここからはアオさんの働いているカフェが見える。さっき通り過ぎた時に確認したらアオさんがいた。もう閉店時間なのでしばらくしたら出てくるはずだ。アオさんの家の方向から考えて、きっとこの道を通るだろうと予想したのだ。(アオさんが飲み会のあとに行く方向を見て、家の場所を予想した)もしかして、これってストーカー?いやいや、単なるファンの出待ちである。どっちにしろ怪しいけど・・・。

アオさんが通ったら、偶然を装って。「お疲れ様です。」って挨拶して。そしたらアオさんはちょっとびっくりした顔をして「お疲れ」っていうんだ。そしたら「帰りですか?」ってきいて。「私も帰り道こっちなんです。」っていって。一緒に並んで歩いて。もしかしたら・・・アオさんのおうちまで行けちゃうかも!キャーー!!


なんてことを呑気に考えていた。


だけど、アオさんには会えなかった。おかしい。いつまで経っても通りかからない。絶対にこの道を通るはずなのに。待ちきれずにお店をのぞいたら真っ暗になっていてもう誰もいなかった。

(もしかして待ってたのバレてたのかな。いや、そんなハズない。だって喫茶店の外からのぞいた時こっち見てなかったし。でも頭のよさそうなアオさんのことだから、分からないな・・・)

アオさんって何を考えているのかわからないな、と気づいた。


「ウタちゃん?」

そのとき、ふいに後ろから声をかけられた。

振り返ると、そこには見たことのある男の人が立っていた。

「あ、えっと・・・ユウさん?」

飲み会で一度だけ、送ってもらったことがある。コンビニでお菓子を買ってくれた優しい先輩だ。

「そうそう!何してんの?こんな夜に。今日飲み会とかないよね?」「あ、はい。」さすがにアオさんの出待ちをしていたなんて言えず。曖昧に笑ってごまかした。

この通りは大学の近くなのですぐに知り合いに会ってしまう。

運が良いのか悪いのか、アオさんではなくユウさんと出会ってしまった。

ユウさんは「気を付けて帰りなよ!」というと笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る