第8話
今日は部会だ。
「これから、パートに分かれて練習するから。とりあえずどのパートがやりたいか、手上げて。」
「やってて途中で変わるとかもアリ。」と副部長。
「じゃ、ききまーす。ギターの人―、ベースの人―、ドラムの人―、ボーカルの人―。」部長がきいていく。私はボーカルに手をあげた。手を挙げた一年は三人。私と、もう一人女の子と男の子だ。
アオさんがこっちを振り向いた、気がした。
パートごとに別れて先輩のところに集まった。アオさんはベースなのでパートは違う。私はボーカル担当のヒロさんのところに集まった。ヒロさんは「まあ、ボーカルは楽器を練習するとかないし。楽だから気楽にやってて良いよー(笑)楽しむのが一番だしね。」と言った。先輩からのアドバイスにしては頼りない。が、私たち一年生は、そういうものか、と納得した。そのあとは好きな曲の話で盛り上がった。目が合ってもう一人のボーカル志望の子が笑いかけてきた。「ウタっていうの、よろしくね。」ウタちゃんはセリーヌディオンが好きだった。
部会が終わった。みんなそれぞれ帰ったり、お喋りしたりしている。
(アオさんと喋りたい。)
アオさんはベースで集まっている一年生と話している。
「あの。」
アオさんが顔をあげた。「おととい、ありがとうございました。・・・その、カフェで。」必死に考えて思いついた話題だった。アオさんは「あ、うん。」と答えた。みんながこっちを見ている。私は会釈をすると、その場を離れた。後ろから「カフェって?」「バイト先に来てくれて・・・」とかそういう話声がきこえてくる。
部室から出ようとしたら、ウタちゃんに声をかけられた。「オトちゃん、一緒に帰らない?」「あ、うん、良いよ。」私の頭の中はアオさんのことでいっぱいだった。いまだにアオさんと上手く喋られない。まだ心臓がバクバクいっている。なんでだろう。私はただ、アオさんと楽しくお話がしたかっただけなのに。それがとても難しい。私の発した言葉はアオさんを通り抜けてするりとどこかへ行ってしまったようだ。アオさんは遠い。いつも。
「オトちゃんってすごいよな。」「え、何が?」「んー、勇気?」そういうとウタちゃんはニヤッと笑った。さっきの見られてたんだ、そう思った。恥ずかしくなり「見ないでよ。」といった。すると、「だって普通にしてたら目に入ってきたんだもん。しょうがないじゃん。」とウタちゃん。
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