92話 爆誕!家なき子シスターズ!
―― ルルーファ・ルーファ ――
「 採 用 。 」
灯の発言は、彼女以外の者にとって鶴の一声だった。宝物を見つけた少年のような灯の瞳を見て確信したよ。もうこの採用決定は、たとえ神でさえも覆すことは出来ないだろうと。
「あの……採用とは?」「ちょいと社長?」「何を勝手に話を進めておる」
「貴女たち3人、ウチで2期生やって。いや違うな。やってくださいお願いします」
「3人て、ウチも!?」
「せやで! おまたせ矢島ちゃん、今から貴女をキープじゃなくて正式採用とします!」
しかし活き活きとしているな灯のヤツ。リンやソーリャも、受け身だった彼女の変貌ぶりにタジタジだ。いいな、この灯は。好意に値するぞ。
「嫌やで、この3人となんて! 一番あかんパターンやないかい! そんなん言うんやったら別の事務所に行かせてもらいましょか」
「おとといの不法侵入を訴えるわよ。そこの小室さんにでも手錠をかけてもらいますか」
「嫌やわ社長、そんな
強引すぎる契約だな。これはこれで逆に訴えられそうな気がするが。
狂気じみた視線がヤヤ嬢からリンとソーリャへと向けられる。あまりの圧力に怯む二人。
(お姉様。灯社長って、こんな怖い人でしたっけ)
(長い間あいつを悩ませてきた2期生という問題が解決して嬉しいのだろうな。付き合ってやってくれ)
「ルルちゃん。リンちゃんの手錠なんだけど。当然、
「まあな。外れないなら紹介しないよ」
彼女は全世界から存在を拒否されてきた、天結というイレギュラーすぎる存在の一員である。犯罪者として扱うにはリスクとコストが大きすぎるから、このまま拘束されることはないだろう。
「じゃあ雇っても問題なしね。リンちゃん。今の住まいはどこかしら」
「……無いです」
「オッケー、ウチで面倒を見るわ」
「拒否権は」
「意見があれば聞くだけ聞く。でも貴女の大好きなルルお姉様がいる職場は
「………………分かりました。貴女に従います」
苦々しい表情のリンであった。僅かに俺という存在のほうが勝ったらしい。
ぐりん、と音が聞こえてきそうな勢いで、灯はソーリャに視線を向けた。
「ひっ!」
「ソルちゃん。貴女、ご住まいは?」
「の、のり子の家を借りるつもりだ。あやつは2棟、家を持っているからな」
「ごめんソルちゃん。私の配信部屋は旧家屋。貴女が眠っていた家屋なんだ。配信中にソルちゃんの声が乗るっていう事故はやりたくないし、地元の人達にバレた時の影響が大きすぎると思うから、できれば避けたいって思ってる」
「……話の内容はよく分からんが、のり子が困っている事は伝わったぞ。ううむ……恩人からそう言われると、吾も強くは言えん……」
「はい、と言うことで。ソルちゃんもウチで預かります」
「あのー……」
「すみません小室さん。少し立て込んでいますので、後にしてもらってもいいでしょうか」
「あ、はい。ごめんなさいッス」
千代が物申したそうにしているが、灯の勢いに押されて一蹴されてしまった。彼女としてはエルフという未知の種族に対して、今すぐにでも検査や事情聴取をしたいのだろうが……すまない千代。これでも社運をかけた一大事なのだ。責任はしっかり取るよ。
「三人とも快く引き受けてくれてありがとう! これで2期生の問題は解決ね!」
これぞゴリ押しの極みよ。頼もしくもあるが。
疲れた表情の舞人が前に出た。
「問題が山のように増えてしまったと思うのですが……一旦捨て置きましょう。とりあえず彼女たちの住まいは社員寮の空き部屋を使う方針ですよね?」
「それはダメ」
「はい?」
「2期生の三人は同じ屋根の下、同じ住まいに住まわせるから」
「何やて!?」「正気ですか!?」「嘘じゃろ!?」
「嘘じゃありません。舞人くん。事務所の近場にある短期賃貸マンションを探しておいて。ほら今すぐ駆け足で探す!」
「しょ――承知しました!」
三人が声を荒げるのも無理はない。ひとつの住まいで過ごしてもらうなど、いがみ合っている状況では、いくら何でも正気の沙汰ではない。が、灯はしっかりと正気のようだ。
「どっちにしろ、2期生が誰になろうと、私はこの方針を取ろうと決めていたのよ。メンバーが全員住まい無しみたいだからちょうどいいじゃない?」
「せやかて社長――」
「あーあー聞こえなーい。同居は譲れませーん。社長命令でーす」
灯は両耳に手を当てて文句をシャットアウトした。子どもか。
とはいえ、前々から方針を考えていた以上、この暴挙は考え無しじゃないとみた。であるならば前向きに協力するとしよう。そのためにはひとつ、どうしても解決しなければいけない問題があるな。
俺は手を上げた。
「はいルルちゃん」
「ソーリャの件なんだが。彼女はまだこの世界に来たばかりだ。しっかりとした日本語は喋れないし、令和の文化についての知識が乏しい。だからソーリャを俺の近くの部屋に住まわせ、生活のフォローを俺がやろうと考えていた。同居が
リンが激しく頷くが、社長は大きく首を横に振った。
「そこは控えていただきたいわね。ルルちゃんにも2期生の状況をあまり知らせたくないの。デビュー後を見据えての戦略ってヤツね」
「ふむ。君が戦略という言葉を持ち出すなら強くは言うまい。しかしソーリャの問題は解決せねばならんぞ」
「と言っても、情報封鎖と同居は私としても譲れないラインなのよね。ソルちゃんのサポートも考えつつ同居という形を取る。そんな都合の良い展開いけるかな?」
「……それ、解決できると思います。社長」
控えめな仕草で手を上げたのは、今までのやりとりを静観していたキィであった。
「
・・・・・
・・・
・
俺たち一行はスタッフの車やタクシーを使い、とある人物の住まいへと移動していた。俺達がインターホンを鳴らして彼を呼び出すと、彼はポカンとした表情で俺達を見つめていた。10人近い関係者が玄関前に集合していれば何事かと感じるのも無理はない。
「紹介しよう、進。彼女たちは2期生候補の面々となる」
すまん。またお前に頼っちまうな。
「こちらは矢島ヤエ。家から勘当された、ほぼ一文無しの家なき子だ」
「よろしゅうです。ヤヤちゃん呼んでください」
「こちらはリン。前職を引退して俺の妹となった、一文無しの家なき子だ」
「ルーファの姓を名乗ることも許されました。リン・ルーファと申します」
「こちらはソルフェリーア。異世界から転移したてのエルフで、一文無しの家なき子だ」
「長ければソルと呼べ。世話役としてはむさ苦しいが、贅沢は言うまい。よろしく頼むぞ」
「すまんが、この三人娘をお前の家に住まわせてやってくれ」
「兄貴の家、無駄に部屋が空いてるっしょ。こっちで経費は全額負担するから、よろしくね」
進は反応することなく、目を見開いてポカンとした表情を崩さぬまま三人娘を見つめ返すだけだった。
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