69話 聖女


―― 生井命 ――

 

「団長。貴方の――ルルーナ・フォーチュンのデビュー配信から、この世界におけるリーサスの全てが始まります」


 私と進さんは息を呑んで驚いていた。ルルーファさんの初配信が関与していたことに驚いたけど、それ以上に、後江慧悟が――リーサスがアイドルVtuberの配信を見ていたという事実をにわかには迎え入れられない。


「僕が団長の配信を視聴していた経緯ですが……当時の部内で、新たに宣伝用のVtuberを起用しようという動きがありましてね。僕はその調査目的で、団長の配信を拝見しておりました」

「素直に好きだって言えばいいじゃねえか。てめえが月煌旅団団員ファンだからって物珍しい界隈でもねえぞ」

「僕は構いませんよ。兎に角、団長のデビュー配信を視聴する理由が僕にはあった。そう受け取っていただけるなら、口実は何でも構いません」


 生配信……ということは!


「俺の『ありがとう』を聞いたのだな」

「はい。その言葉を聞いて、僕は自分が何者だったのかを思い出したのです」


 やっぱり! 何でもアリだな、あのひとこと!


「団長、あの現象は――」

癒術クラーティオ。ワズリエの――言葉の聖女と同じ力だ。図らずながら発動してしまった」

「やはり。リーサスが癒術を受けて感応した……記憶を取り戻す理由付けをするなら、こんなところでしょうか。しかし、なぜ団長があの聖女の力を持っているのです?」

「そいつは俺にもさっぱりでな」

「だが普段の配信には影響が無いことを俺とキィちゃんが身をもって確認済みだ。仮に悪用したとしても記録は残る。癒術の効果が残らない動画がな」

「見た目脳筋、中身小心者の隊長が言うなら少しは安心できますね。否定材料も無いですし、参考にさせていただきます」

「てめえはいちいち嫌味を言わんと俺を褒められねえのか」


 原作で見たかったなー、チェイスさんとリーサスさんのやりとり。原作だとチェイスさんの代わりっぽい人はいるけど、無視と同レベルの無関心なんだよなー。チェイスさんの存在を気取られないようにするための措置なんだろうけど。

 

「自分の知らない記憶が雪崩式でフラッシュバックする様は、満足に立って居られないほど衝撃的な体験でしたよ。警察業――特に組織犯罪対策部をやっていなかったら、精神科へ受診してもおかしくなかった」

「無意識とはいえ、お前を苦しめてしまったか。すまない。でも元気な顔が見られて俺は嬉しいぞ。よく頑張ったな、慧悟」

「長期休暇を作れる良い口実にはなりましたね。幸い、後江慧悟はリーサスと瓜二つな性格と言動をしておりました。受け入れは概ね順調でしたよ」

「元々、人の弱みを握ってマウント取って裏で組織を牛耳るタイプだったってコトか」


 進の嫌味に、後江さんは煙草の煙を吐いて答えた。否定も肯定もしない。うん、原作通りですね!

 

「自分の記憶の受け入れを行って心の整理をつけ、次に記憶の整理をつけ……その二つを整理した僕が次に取った行動は、団長の配信による影響の程度と――そして、僕と同じ現象を引き起こした者が存在するかの調査です」

「俺が調べた範囲では特別目立った動きは見当たらなかったが。結局、謎のまま現在も放置状態だ」

「団長が調べたのは、おそらく表向きの範囲でしょう。僕が――いえ、この表現は正確でありませんね。が捜査した範囲はもっと広いですよ」

「警察が動いていたんですか!?」


 思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。所属しているタレントが警察に監視されているとなれば穏やかじゃいられないでしょ。ネットのマスコミに嗅ぎつけられたら、たまったもんじゃないぞ。

 

「現に僕というも出している。動かざるを得ないでしょう。僕は直接捜査に関わっておらず、結果だけを頂いただけでしたが……担当された方々は相当に参ったでしょうね。害が出ないはずのアイドルが放った、たったひとことの影響を全世界単位で必死に捜していたのですから」

「ずいぶんとリソースを割いたような言い草だな」

「今も割かれていますよ。団長のみならず、YaーTaプロダクションの全配信は警察の監視下におかれています」

「お嬢と姫の配信も対象か!」

「YaーTaプロ公式も含めてです。監視のため、そちらの社長さんには前々からご協力いただいています」

「いつの間にか灯が警察の厄介事に巻き込まれてやがったのか……」

「彼女の報告書の読み解きが、ここ最近の仕事の中で一番苦労させられています」


 ウチの社長がごめんなさい。舞人さんがいくら指導しても直らないんです、社長の仕事ぶり。なんだったら私に肩代わりさせてほしいと思う瞬間すらあります。

 

「もっとも、団長以外は脅威なしとして、そろそろ監視対象から外れると思います。報告の量も減らしてもらいましょう」

「思ったより大事になっているな……俺はこのまま配信を続けられるのか?」

「もちろん。我々の監視下という水面下の制約はありますが。業務停止命令が出ていないのは、貴方がたの配信に違反事項が無いからです。それでいて初配信以後は再発の兆候が一切見受けられない。懲罰を与えるにしても理由をひねり出して冤罪を押し付けるしか方法はないんです。そしてリスクを賭して一介の私企業へ抑圧をかけるまでの価値を警察は見出していません。そもそもご法度ですし」

、と言ったところか。だが秘密裏に動く理由にはならん。事情聴取もやむ無しの状況なんじゃないのか。なぜ俺に直接アクションを起こさない? 何か理由があるんだろ」

「理由を話すためには、授与式のきっかけとなったコンビニ強盗についてお話しなければなりません。こちらを御覧ください。彼らの金銭事情が分かる書類になります」

 

 後江さんは鞄から書類を取り出した。その書類を見た瞬間、私と進さんは思い切り顔をしかめてしまった。だって預金通帳の写しなんだもの。他人に見せちゃいけない情報の代表格じゃないですか……。


「お前よぉ、人間としてどうなのよ? 信頼失うぜ?」

「僕は信頼なんて不確かな存在に頼る気はありません。人間なんてものは、信頼があっても裏切るときは平気で裏切ります。無いなら無いで特に構いませんよ。僕は『』を一番に信じます」

「私、リーサスがモテるのに結婚しない理由をなんとなく悟りました」


 でもそういうドライなところがしゅき。


「……続けます。この通帳が示すように、犯行を起こした彼らはたしかに貧困層ですが、強盗に駆られるほど切羽詰まった状況ではありませんでした。収入は途絶えておらず貯蓄も十分。金銭を動機とするにしてはあまりにも脆い」

「たしかに。YaーTaプロの給料日前とはいえ、今の俺よりは貯蓄があるな」

「普段の彼らは、どちらかといえば温厚柔和と言って差し支えない、犯罪を起こすとは到底思えない方々でしたよ。

 ところが彼らは行動を起こした。第三者の介入があることは確実です。それでも彼らは、第三者の介入に関しての記憶が無いと供述しています。そして、自分の意志で行動を起こしたとは思えないとも」

「記憶や意識の改ざんか。それも記憶の掘り起こしを許さぬ、恐ろしく高度な」

「そして同様に、加害者の記憶が改ざんされたと思われる事件が、ここ直近の1ヶ月間で起こり始めました。その数、全国で4件。場所は兵庫県を皮切りに、山口県、埼玉県、そして東京都で発生しました。いずれも加害者はバラバラであり、それぞれが動機不明を訴えています。窃盗や傷害など、いずれも損害は軽微なことが救いですが」


 しん……と店内が静まり返った。1ヶ月前から類似の事件が多発している――つまり。


「俺の配信がきっかけで、その事件が起こっていると」

「直接の関係性はありません。しかし関連があるのではないか。これが警察内での見解となります」


 ほぼ断定してるよね、これ。ルルーファさんのふしぎな現象をきっかけに、ふしぎな事件が立て続けに起こっているんですもん。


「関連があれば、ルルーファ・ルーファへの迂闊な手出しは解決への糸口を消す可能性がある。僕が職場へ復帰した頃には、団長への接触は厳禁と判断されていました。加えて警察内でも上層部しか知らない極秘事項です。今回、貴方がたと接触できたのは、上層部に説得という説得を重ねて実現した紙一重とでもお伝えしましょう」

「これでも急いだって言ってたのは、上司オカミの説得に手間取ったってことか。もしかして警察が団長を表彰式へ招致したのは、団長との接触が一番の目的だったのか!?」

「やはり身辺の調査だけでは限界があります。だから冤罪の代わりに褒賞で直接の接触を図りました。くわえて上層部としては、あわよくば事情聴取ができたら御の字といった思惑は確かにありましたね。

 ちなみに隊長。僕があのとき襲撃しなかったら、どうなっていたか知ってますか? 団長の初配信について、あの署長直々にこっそり取り調べるつもりだったんですよ。上層部には内緒で、です。煮ても食えないオヤジですよ、あの署長は」

「だがてめえは署の失態を作り出し、事情聴取の論点をすり替えさせ、団長への直接聴取する隙を与えないようにした。そのため襲撃か。やんちゃ坊主め」

「すっかり助けられてしまったな。ありがとう、慧悟」

「………………」

 

 あ。後江さん、すごい手の速さで耳を塞いだ。

 

「おい。団長のありがたい感謝の言葉くらい受け取れよ」

「お断りします。その感謝の言葉で、僕も含めて大勢が大変な目に遭っていますので」

「むはは。そういう素直じゃない、可愛いところは変わってねえな」


 そういえばリーサスって、ルーファス団長にはデレッデレだったっけ。確かに可愛い。だけど今のルーファスはルルーファさんという女の人だから、彼女にデレられると割とモヤモヤする。

 

「捜査の成果はどこまで出ている?」

「残念ながら真実には到底至っておりません。犯行に移るのはいずれも犯罪歴がなく、犯罪予備軍でない者ばかり。兆候すらありません。警察は常に後手に回らざるを得ない。そして介入する頃には全ての痕跡が消えた後……そもそも痕跡を残さないタイプの犯行かもしれません。おまけに犯人の動機は推測すらおぼつかない。八方塞がりですね。

 僕ら警察内部では、船頭を誘惑して破滅へ導く人魚伝説にあやかり、首謀者を『ローレライ』と仮称しています」

「警視正サン。それだけ警察の目を掻い潜ってるってことは、関係者のセンはねえのか?」

「可能性の一つとしてはアリです。決定打では無いですけどね。

 ただ僕だけ……元あちら側の人間として、ローレライの正体を推測できています。精神・記憶・人格への高度な介入。団長がよく知る方とそっくりですよね」

「ワズリエ……言葉の聖女」

「貴方の配信を聞いてローレライは聖女としての記憶と力を取り戻した。リーサスと同じように。僕はそう考えています」


 あくまで推測ですけどね、と付け加えてから、後江さんは2本目の煙草に火をつけた。再び静寂が店内を支配する。

 店内の温度は空調が程よく効いていた。高すぎもせず、低すぎもせず。ただ、進さんと私は、多くの冷や汗をかいていた。

 だって、ルルーファさんの「ありがとう」と同じ力が、悪意をもって使われるかもしれないんだよ? 目的は分からない――少なくとも犯罪を量産している時点で悪意が無いとは言えない。ルルーファさんの力を知る私達が恐れた、最悪の展開だ。今は力の効果の調査をして様子見しているのだろうか。不気味だ。

 唯一の救いは、ローレライというヤツが配信や放送という手段を取っていないことだ。きっと試したけど効果が薄いと、早々に諦めたんじゃないかな。ルルーファさんのひとことは、ルルーファさんのカリスマで視聴者が集まって被害が広がったからこそ、警察に目をつけられたのだ。ローレライには配信で視聴者を集めるほどの力量が無いのでは。


「慧悟」

「はい」

「今回の接触は、俺がローレライ捜索に協力することが目的だな?」

「もし聖女の生まれ変わりだとしたら、対抗できるのは聖女しかいません。それに、先日のコンビニ強盗と、デビュー日に起こしたダンプカーの一件で、団長の実力は僕の方でも把握しています。協力を要請するのは必然でしょう」

「俺はアイドルに専念したいんだがなあ。力を振るわされるのは懲り懲りなんだよ」

「そうおっしゃると思いまして、譲歩のカードもいくつかご用意していますよ。拒否すれば、そのカードを切ります」

「ふむ。例えばどんなだい」

「熊、勝手に駆除したでしょう。狩猟免許を取っていただくか、もしくは役所に手続きを取っていただかないと。鳥獣保護法違反でアウトです」

「え? そうなのか?」


 そういえばルルーファさんから聞いたな。観光に出かけた先で熊が暴れていて大勢の方々が危険だったから、ちょっと力を披露したって。

 

「非常事態だったんだがな。猟師さん立ち会いでも駄目なのか」

「車の免許を取った人が無免許の人に車を貸して同車してもアウトでしょう? それと同じです。非常事態だったので見逃されていますが、ホワイト寄りのグレーゾーンってところですね」

「まどろっこしいな。被害が出たら後の祭りだぞ」

「まだこの国が平和な証拠です。アイドル続けたいんでしょう? 罪に対しては少々の罰金で済みますけど、法の違反は炎上の火種ですよ」


 愛護団体がうるさいから熊の一件は絶対に配信では喋るなって、社長から口酸っぱく言われていたっけ。そもそも違反だったんだ。ルルーファさんがうっかり口を滑らせていたら危なかったな。でも社長、違反だって知らずに止めてたんだろうな。

 

「捜査に協力していただければ完全なホワイトにしてあげます。ちなみにカードは何枚もありますからね。ダンプカーの件も、やろうと思えばすぐ立件できますよ。器物破損には違いないですから」

「む……ううむ……熊やダンプカーがダメだと、心当りが多すぎるぞ」

「ルルーファさん規格外だから、この世界の法じゃ収まりきらないところありますよね」

「おいおい警視正サン。そもそも脅迫じゃねえのか、この協力要請は」

「僕は既に貴方がたを襲っているんですよ。今さら追加の罪を重ねたところで、もう何も怖くないんですよねぇ。あっはっは」


 うわー、すっごい朗らかな笑顔。推しが楽しそうで何よりです。

 

「いいだろう。元部下が一生懸命用意した切り札だ。その頑張りに免じて、その話を受けよう。俺が発端であるという確証が無い以上、受ける責任は無いし、そもそも相手が聖女という証拠も無い。だが慧悟の推測を否定しきれる材料もなしだ」

「ありがとうございます。具体的な要請はまた後日、必要な時に説明させていただきます。もちろんアイドル業は続けられるように全力で事後処理させていただきますので、お気軽にご協力ください」


 逆を言えば、強力なバックアップ体制が敷かれたのかもしれない。ルルーファさんも、トンデモパワーと抑えきれないカリスマオーラで身バレする心配が少し減るかもしれない。私の心の負担も減るかもしれないぞ。この人、油断すると配信と同じ声、同じ喋り方ではしゃぐから気が抜けないんだよなぁ。


「ああそうそう、ついでに隊長も協力よろしくお願いします。ギリギリ合格なんで、もしもの時は前線に出てくださいね」

「ついでって……おまえ、あの襲撃で俺の腕前を試しやがったな」

「言ったでしょう。追い追い目的を説明するって」


 やっぱり策士だよなー。リーサスは一つのアクションで複数のリターンをひねり出すことが上手いのだ。あの襲撃だけで、署長への意趣返し、ルルーファさんの立場の保護、警察中層への牽制、進さんへの腕試し、自分の存在のアピールと……本当に器用に立ち回っている。

 

「生井さんも、今日話した件は絶対に口外しないでくださいね。この接触自体、警察内でも極秘事項となっていますので」

「分かりました。冗談で済む話じゃなくなっていますし」

「む? 慧悟よ、この会合は内部でも極秘なのか?」

「ええ。ですから長居は無用とさせていただきます。今日はここで解散ですね」

「さよか」

「ま、しょうがないな」


 あれ? ルルーファさん、天井を見上げたまま黙っちゃったぞ。進さんだって、ルルーファさん以来の仲間との再会なんじゃないの? これから三人とも盛り上がって乾杯するシーンじゃないの? 思った以上に反応が淡白なんですけど?

 

「もう解散しちゃうんですか? せっかくの再会ですし、積もる話もあるんじゃないですか?」

「僕もそうしたいのは山々ですが、さすがに仕事が優先でして。この後も本庁へ戻らなければいけません」

「今生の別れでもあるまい。急がなくても、次の機会でのんびりするさ」

「今回みたいに面倒な呼びつけ方はやるなよ」

「善処します」


 うーん? 異世界を跨いだ再会ってこんなドライなもんなのかな? 誰も体験したことないだろうから気持ちが分かんないぞ。



・・・・・

・・・



 私たちの解散は酷くあっさりとしたものだった。

 連絡先を交換した後は社交辞令みたいなありふれた別れの挨拶を交わしてから、私たちは店をあとにした。後江さんは店の戸締まりがあるからと店に残った。

 ここまでは特におかしな流れじゃない。でも私は非常に納得できない状況だった。三人で最寄りの駅まで歩いているけど、その寒空の下で、私はひとり憤慨していた。


「いくら(銀星団とは)関係ない部外者だからって、私だけ連絡先を交換してくれないのは不公平だと思います!」

「まあまあキィちゃん。しょうがないって。一般人のキィちゃんをこれ以上は深入りさせたくないっていう、あいつなりの優しさなんだよ」


 私は後江さんの連絡先を教えてもらえなかった。理由は進が言った通りなんだけど、はいそうですかって納得できるもんか! こちとらリーサスのファンですよ! 最推し創作キャラのダイレクトラインなんて世界中の誰もが一生かけても手に入らないお宝なんだよ! 私にとっては国宝よりも貴重だぞ!

 

「進さんもルルーファさんも、職業が違うだけで私と同じ一般人の括りじゃないですか! ルルーファさんに至っては私より怪しい立場ですし!」

「キィちゃん、リーサスに会ってからだいぶ印象変わったねぇ」

「進。キィは納得できていないようだから、この際、あいつの真意を白状しちまったほうがいいかもな」

「でも知らないほうが絶対に幸せッスよ。そもそもキィちゃんに知られたくなかったから、聞きたいこと聞いて退散したってのに」

「え」


 私は騒ぐことを止めた。二人の表情があまりにも真剣だったから。

 

「俺たちが居座らなかった理由と、キィちゃんに連絡先を教えなかった理由。聞いたらマジで後悔すると思うけど、キィちゃん、それでもいい?」


 ううう……そういう脅しをされると及び腰になってしまう。でも知らないままモヤっとした気持ちじゃ眠れそうにない。

 

「教えてください。どうせ関わってしまったんですから、知っている方が絶対に後悔しません」

「むはは、勇敢だね。それじゃあ予言するよ、キィ。君は話を聞き終わったら必ずこう言う。『聞かなきゃよかった』って」


 上等だ。いくらルルーファさんの頭がいいからって、何でもかんでも思い通りになると思うなよ!





 ――そんな意気込みが続いたのは話が終わるまでだった。


「聞かなきゃよかったぁああ!」

「むはははは! ほら見ろ、言った通りだっただろう」

「これが即落ち2コマってヤツっすかねぇ……」


 ルルーファさんの朗らかな笑い声と一緒に、私の叫び声が都会の夜に響き渡った。

 いやこれ、笑い事じゃないんですけど!


「後江慧悟は『組織犯罪対策部暴力団対策課』だ。そこに犯罪のテイストが加わる。

 だったらヤクザが絡んでくることは、避けて通れないよな」

「上の階に俺たちの様子を伺ってる奴らが潜んでいたんだよ。3人くらいかな。ひとりは絶対に極道の輩だよ。断言する」


 ヤクザって、何でもありの犯罪者集団じゃないか! アイドルVtuberの業界でいちばん絡んじゃいけない業種じゃないかあああ!


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