65話 確率は収束するもの
―― ルルーナ・フォーチュン ――
Luruna Ch.ルルーナ・フォーチュン
【Anima Score】 アニスコをすこれ 【ルルーナ・フォーチュン/YaーTaプロ】
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#旅団長の文化勉強
:待機
:タイトルとはいえ、まさか団長の配信で「すこる」のワードが飛び出すとは
:もうそろそろデビューからひと月経つけど、言葉遣いが達者すぎて未だに記憶喪失って事実が定着しない
:設定だろ
:↑設定にしては一般常識が抜けてることたまにあるんだよな
:「ローションがよく分からんが、そいつを使えば女子でも土俵入りして相撲ができるんだろ?」は戦慄した
:きちゃ!
¥1000:これは未来への投資! そのためには永久に待ちわびるぞ!
:↑破産宣告するんじゃねえぞ、兄さん
「やあ、待たせたかな。YaーTaプロダクション1期生のルルーナ・フォーチュンだ。
皆の心に歓びと安寧を。俺の未知に潤いを。さあ、月の煌きと共に、今夜も旅を始めようか。
今夜のタイトルはスマホ向けRPGの金字塔、アニスコだ。本日実装の新キャラのガチャと、イベントの進行をメインに配信していこう」
:とうとう団長のスマホゲー(ガチャ付き)
:どんな逆グロ画像が連打されたとしても、俺ァ一歩も退かねェぞ
:マウスとキーボードは外した。もはや撤退の二文字はない
:↑なんで文字が打てるんだよw
¥667:予言しておこう。団長はこの配信で必ず「またお前か……」と言う!
:またお前か……ハッ!?
:お前じゃねえし、はえぇよwwww
『
配信者という仕事をする以上、大多数のスマホユーザーが利用しているゲームアプリは看過できない。『流行に乗っておけば話題を共有できるから、とりあえずやっときなさい』とBーPAX HEROESと同時期に社長から勧められてから、そのまま今日までプレイを継続している。
ゲームの評価に関して、俺の中では『悪くない』といったところだ。戦略性のあるバトルシステムや可愛いキャラクター、カオスなイベントは好みではあるが、多くのユーザーに支持されているメインストーリーがイマイチ俺には刺さっていない。創作とはいえ人の生死が頻繁に描写されるため、メインストーリーは少し敬遠気味のプレイとなっている。自他共に本物の『戦死』を経験している俺としては、誰もが救われるハッピーな展開を求めてしまうのだ。戦争が日常でない国だからこそ――死が身近でないからこそ、非日常として受け入れられているのだろうが。
「今日は新しいキャラのガチャでピックアップのローズマリー嬢を狙いつつ、イベントを進めていく予定だ。たまにはまったり進行でゲームをしようじゃないか」
:とうとう実装ローズマリー姉貴!
:既に大変お世話になっております 色んな意味で
:まーた人権キャラだよ
:木属性では貴重な純アタッカー助かる 木はサポーターばかりだったから
:およ? 団長、メインストーリーあんまり進めてないじゃん?
:ほんまや。2章からストーリーが面白さバチバチに加速するでぇ
「メインストーリーか。このゲームはリリースしてそこそこの年数が経っているからか、進めなくとも十分楽しめるのでな。ついついおざなりにしてしまっている。メインは裏でこっそり進めておくよ」
:配信ではやらないのか 残念
:団長の泣き顔に期待していたんだが
「まずは戦力を整えていこう。ガチャはスマホゲーの鉄板よな。部隊を見ていただければ分かると思うのだが、ちょうど木属性の強キャラが足りなかったところなんだ。せっかくだから100連ぶんほど貯めに貯めた貯蓄を切り崩して、ローズマリー嬢の完凸――最大限界突破を目指していこう」
:ん? 団長、たった100連で完凸目指してる?
:完凸まで5人同じキャラ引かなきゃダメだったっけ
「最低でも50連すれば引けるじゃろ?」
:ちょっと団長が何を言っているのか分からない
:そもそも200連してようやく一人目が引けるか引けないかってトコなんだが
:約0.4%の熱き壁を5回も突破しなくちゃなんだぞ
「200連で一人目? このゲームのガチャは10連で引いたら必ず最高レアが一人ついてくるのではないのか?」
:あっ
:言葉を慎め団長 いま貴女は多くのアニスコラーを傷つけた
:普段から運が良い者にしか許されない強者発言
:無自覚ゆえ逆にダメージがでかいぜ……
「む……なんとなく皆の惨状が理解できたよ。今の発言は軽率だったようだな。素直にお詫び申し上げよう。基本プレイ無料などと、羽振りがいいのにどうやって稼いでいるのか疑問ではあったが、なるほど、本来はそういう
:団長の編成よく見たら、最高レアの★3、直近のピックアップ全部入手してますわ……
:3~4か月ユーザーの強さじゃねえぞ!
:団長の場合、逆に★1キャラ未入手のやつが居たりしてwww
:★1とか、最初の三日間くらいでコンプできるだろ
:↑いや、団長なら逆にありえるな
¥667:団長、★1キャラ見せてもらっていいですか
「★1か。いいぞ。あまり育っていなくて戦力に組み込んでいないのだが……フィルター機能を使えば見やすいかな」
:ああ、やっぱりww
:★3の充実ぶりに比べてこのスカスカぶりよwww
:おい、ナナたんいねえぞwwウソだろwwww
:キャラ人気一位 性能はぶっちぎりよわよわな逆人権キャラがいねえだとwww
「む? お? ナナ、プレイアブルなのか。マジか。おいおい、いつ実装されたんだ? 俺、あの子は孫を持ったみたいな気分になるから大好きなんだ」
:ロンチだよww★1で最初期からいるよwww
:孫wみwたwいw
:排出率40%、キャラ数30人ちょいの中から何で引けないんだよww
:もう団長の配信でしか聞けないワード連打で大草原ww
:今まで何百連と回してきてナナたん0って何だよww前代未聞だよwww
:団長、今日のガチャはナナちゃんお迎え目指そうぜwww
「うむ、ナナお出迎えか。そうだな、そうしよう! むはは、ホーム画面の主は変えなければなるまいな。配信のタイトルも後で変えておこう」
:団長声ウッキウキwwww
:せやかて、あの団長やで? 100連でお出迎えできるかな
:本来なら既に完凸していてもまったくおかしくないキャラなんだが
:ローズマリーネキ完凸して終わりやろハイハイ団長団長思っていたが、ナナたんだったら話は変わってくるな
:団長のコンビニダッシュが見れるかもしれない
:イメージだけど、団長がコンビニダッシュするときはパルクール決めながら最短距離いきそう
:初見なんですけど、リスナーの皆の考え方がわかりません。100連で★3キャラ完凸のほうが圧倒的にありえないですよね?
:ようこそいらっしゃい初見さん。つまり団長はそういう方なのだ
:ワンゲームでヨット3連を2回キメるお方よ
「おいおいおい、団員たちよ。ナナはレアリティの低い★1キャラなんだろう? いくらなんでも100連する間にはお出迎えできるだろうて。所詮は確率の話よ。ローズマリー嬢のついでにはなるが、手厚くもてなしてあげようではないか。むはははは」
―― ルルーファ・ルーファ ――
あまり迂闊にフラグを立てるものではないな。日が沈んでもなお明るい夜の道を疾駆しながらそう反省した。
残念ながら団員たちの懸念通り、愛しのナナを出迎えることは叶わなかった。この世界に目覚めたばかりの俺が
住まいは大通りから外れた路地の奥に位置しているものの、ここは都会の中枢地区である。少し足を伸ばせばコンビニどころかプリペイドカードを取り扱っているスーパーやドラッグストアもある。よりどりみどりだ。今回のチョイスは無難に最寄りのコンビニにした。
やはり令和の世界はいいな。野獣や野盗を気にする必要なく、気軽に夜の街を出歩くことができる。そのうえ街灯が充実しているので暗闇を恐れる事態もない。街中ですらも手持ちの灯りが必要だった俺の世界とは大違いだ。夜目が利く俺にとっては少し眩しい光景なので、夜間用サングラスが必要になるのがちと難点かな。
さて着いた。変装用のウィッグとサングラス、キャスケット帽が脱げないように走ったから少々時間がかかってしまったかな。ついでにチョコレート菓子でも買っていこうか。
「む?」
入店早々、奇妙な光景に出くわした。目出し帽をかぶった男女が二人、武装して店員や客へ武器を向けている。女のほうは包丁の先端を店員へ突きつけており、男はオートマチック拳銃の照準をレジの近くで座り込んでいる小学校高学年ほどの少年に合わせている。『ベレッタ』とかいうカッコいい形の拳銃に似ているな。進の家で見かけて触らせてもらったぞ。
しかし強盗……だよな? それにしては殺意が感じられんが……? 防犯訓練か?
「そこの女! ガキのアタマ弾かれたくなかったら、手を頭に乗せてこっちへ来い! ガキの隣に並べ!」
おっと強盗だった。うーん不運な。
「聞こえねえのか! 早く動け!」
「てめーも早くレジを開けんだよ!」
「ひぃい!!」
おーおー、熱心よのう。プリペイドカードは――よし、陳列確認。もう100連ほどはチャレンジしたいな。アニスコのレートだと20000円と少々か。金額指定型は店員の手を煩わせてしまうから、金額固定型のカードを数枚買っておこう。
「どこ見てやがる女! さっさと来いって言ってんだよ!」
さて。こいつらが叫んでいる間にもリスナーたちは待ちぼうけておる。あまり時間はかけられないな。
「君たち」
「あぁ?」
「ほら、金」
「ぁ?」
「え?」
ポケットに忍ばせていたサイフを宙に放り投げる。一瞬、強盗二人の視線が俺から外れた。その一瞬だけで十分。
まずは手前で包丁を突きつけていた女へ接近。包丁を振り回さないよう腕を押さえつけながら、レジカウンターへ頭を叩きつけて気絶させた。包丁は安全を考慮してレジカウンターへ置いておく。放り投げたサイフは狙い通り、俺の手元へと戻った。即座に元のポケットへ戻す。
「な、なああ!?」
銃の照準が少年から俺に向けられる。が、やはり遅い。慣れない銃器に体が着いてこれないのだろう。
もたつく男の眼前まで距離を詰め、男に銃を握らせたままマガジンを抜き、
「は? ……はああ!?――ぐぇ!?」
映画の見様見真似で相手を地面へ叩きつけるように投げる。男はその一撃で昏倒した。簡単に再利用できないよう、拳銃もパーツをねじ切るよう力任せに銃身を分解し、マガジンも含めてこちらもレジカウンターへ並べておく。もちろん殺していないぞ。男女ともども、ちょっと脳しんとうを起こしただけだ。無血無血。
ほい、制圧完了。荒事を求めちゃいないとはいえ、やはり張り合いが足らんな。これではネタにもできん。配信中でなければもう少し遊び心を持って、怪我もさせずに無力化できたのだが。アイドルらしく、歌――は駄目か。それでも、トークもしくは色仕掛けなんかも試してみたかったぞ。運が無かったな、強盗の諸君。
「怪我は無い?」
「はいぃ……」
ざっと見た限りでは言葉通りのようだな。レジ待ちよりは手早く済んだと思えば時間はマイナスどころかプラスかね。くそ、いつもの調子で喋るとバレちまうから口調を変えとるが、やりにくいな。さっさと用事を済ませよう。
ガチャぶんのプリペイドカードとチョコを――なんてこった、お気に入りのしっとり系チョコ菓子が置いてないじゃないか。しょうがない。次点のクランチチョコにしておくか。
「会計はできる?」
「え? え、ええ。できます」
「
レジ係の指示に従い、スマホを読み取りの機械にかざして支払いを完了する。さすが電子決済。速さの一点に関しては現金の追随を許さないぞ。事前チャージのプリペイド方式だから、クレジットカードが使えない俺でも気軽に利用できる点が最高だ。しかし、キャッシュレス進行中の世の中でアナログな現金強盗とは。まだ振り込め詐欺のほうが儲かると思うのだがね。
「あの、ありがとうございました!」
「通報を忘れずに」
走って帰る拍子に落とさぬよう、チャック付きのポケットに買った品物をしまってコンビニを出る。無言を徹底してカードを買おうと思ったのだが、俺も不運だったな。配信のタイミングと声でバレるかもしれない。しばらくあのコンビニは使用禁止だ。
ということで、帰りは急ぎ足で帰宅。
「ただいま皆の衆。良い子にして待っていてくれたかな」
:早い! もう来た!
:10分くらいか。まあまあだな
:そんな団長に残念なお知らせでございます
:アニスコ緊急メンテ入っちゃったでゴザル
「おーうフ」
:さすがの団長もメンテには勝てなかったよ
:運営、団長のガチャ見てガチャ調整入れてねーだろうなww
:まさか運勝負では負け無しの団長が……
:お嬢は勝ったやん
:お嬢の件は実質団長のパーフェクトゲームみたいなもん ちょっとパーフェクトすぎたから負けただけ
団員の皆。ちょうどいい機会だ。はっきりさせておく。君たちはひとつ誤解しているぞ。
俺は運が良い人間ではない。
ただ確率の低い事象を極端に引きやすいだけなんだよ。
・・・・・
・・・
・
その後、緊急メンテナンスが明ける気配が無かったため、結局その日は雑談配信となってしまった。ちなみにメンテ後、配信外でガチャを引かせてもらったが、ナナ嬢は未だお出迎えできておらず、3人目のローズマリー嬢が完凸を果たしただけだった。twisterで報告したらお嬢と姫と社長とセッカ嬢に散々キレられた。まったくもって厄日だったよ。
とはいえ、後日談に比べれば、この日の出来事の数々は可愛いものだと言える。
その事実を知ったのは進からの電話連絡だった。
『団長。コンビニ強盗をやっつけた件で、警察から感謝状を送りたいから同伴で来てくれと書簡が送られてきたんですけど、予定あけられます?』
「よく俺まで嗅ぎつけられたもんだ。しかし書簡だと? 電話やメールではなく?」
『詐欺の線を疑ってお相手へ連絡しましたが本物のようです。扱いとしては俺が団長の保護者ですから、俺宛に来た次第ッスね』
「どちらにせよパスだ。配信のネタになるかもだが、バレに繋げたくない」
『あ、いえ。団長には悪いですが、どうしてもご一緒していただきたく』
「む? どうしてもまで食い下がるとは珍しいな。義務でもあるまい」
『確かに義務ではないです。ただ、書簡に内封されていた手紙が、ちょっと見過ごせない内容でして。画像をそちらに送ります』
その画像を見た瞬間、俺は大きく目を見開いた。
送られてきた画像には、手書き文字で書かれた一枚の手紙。
【銀の照星 胸に抱きたくば 輝きのもとに集え】
それは銀星団の団員募集のキャッチフレーズ。この言葉自体はジルフォリア戦記にも使用されているため、特別おかしな言葉ではない。
問題は書かれている
こりゃ確かに見過ごせないな。
『使われているのはジルフォリア神護国の公用言語ッス。
送り主はほぼ間違いなく、俺たちの世界からの転生者ですよ』
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