62話 Legendary Fire Mother 承


―― 紅焔アグニス ――


「――はいっ。以上、GS1期生の歴史でしたー!」


:お疲れー

:資料も意外にしっかりしてて分かりやすかったぞ

:とてもお嬢らしからぬ出来栄えでござった

:他人作成だろ 製作ルルじゃねーの?


「資料が紅焔ちゃん製作じゃねーだと!? おいおいィ!? 全部紅焔ちゃんの手作りなんだが!?」

「だろうな。じゃないと資料の補足話も難しいだろうし」

「へへへ。日本史世界史はちんぷんかんぷんだけど、アイドル史ならそんじょそこらの秀才ちゃんには負けないよ!」

「いや学業は大切にしようぜ……たまにセッカちゃんも心配になるから」


:やめてくれ……その正論パンチは俺に効く

:セッカちゃんも最終学歴が高校中退(検定で高卒認定)だから余計に心配なんだろうな

:学歴は今後の社会人生活へダイレクトに響くから、そりゃ心配だろうね

:さて、1期生ときたら次は当然!


「はい、リスナーさんの予想通り! 続いて2期生の紹介へ移りたいと思います! 2期生のセッカちゃんを呼んでおいて、2期生スルーはできませんよ」

「今日は2期生の紹介と、最後に告知して終わりかな」

「ですね。今日は2期生の紹介までです。いまGSは6期生までいますので、好評だったら残り2回に分けて、別の方を呼んで同じような形式で配信しようと計画しています」

 

:普通にしみじみ聞き入ってるよ

:なんだかんだで同接4万いってるし、少なくとも不人気ではないな

:告知も気になるしね


「おお……よかった。退屈してないのは嬉しいな。こういう企画ものの配信ってやったことなかったから、ちょっと不安だったんだよ」

「セッカちゃんの見るに堪えない初企画配信と比べたら雲泥の差よ」


:同期相手に しりとりしようぜ! はもはや伝説

:心を無にする修行用としては最高級の出来

:あの頃は黎明期だから迷走はしゃーなし でもしりとりはねーわwww しかも本当に普通のしりとりwww


「それじゃー、満を持して2期生いきましょう! GSきっての姉御代表セッカちゃんこと『蒼火セッカ』、アダルトの化身『メルティーナ・リリス』ちゃん、などなど! 1期生のデビューからおよそ半年後、個性豊かな5名が登場しました!」

「改めて紹介されるってなると、ちょっとこそばゆいな。ムズムズする」

「今日は目いっぱい褒めちぎらせてもらいますよー。うへへへへ」


:お嬢の声がどんどん活き活きしてるwww

:果たしてテンションを上げ過ぎずに進行できるのか。限界化は防げるのか。


「とゆーことで、さっそく蒼火セッカちゃんの紹介に移りたいと思います!

 2期生トップバッターとして華々しいデビューを飾った切り込み隊長! GSでも屈指のイジられ役としての地位を確立し、配信に顔を出せばリスナーも、出演者でさえも、誰もかれもを笑顔にする! しかしひとたびアイドル衣裳に着替えたら、普段の芸人のような振る舞いはどこへやら! 皆が口を揃えて超ド級トップアイドルと褒めちぎる! 異色と王道どちらもござれの二刀流アイドル、それが蒼火セッカちゃんです!」

「うーん、的を得すぎてて何も反論が無いな!」

「もう一つ、セッカちゃんを語るうえで欠かせないのが、デビュー前の経歴ですね! 高校在学中にGSのアイドルとしてデビューしたセッカちゃんでありますが……なんとデビュー前、中学から高校にかけて、バリバリのヤンキーとして界隈を賑わせていたとのこと! その物怖じしない風格と本人の面倒見の良さは箱内の風潮にも大きく貢献、そして誰が言ったか有名すぎるキャッチコピー『GSの姉御代表』!」


:しかもデビューと同時に学校を自主退学したというツワモノ

:「両立なんて出来ないと思ってたしアイドルで飯を食っていこうと思ったから辞めた」とはセッカちゃんの弁

:ギャラも雀の涙時代だったのに、よく決断出来たな

:通り名は『番長』じゃないのか

:自分が番長の器じゃないから姉御で勘弁してくれってさ

 

「最終学歴が高校中退って、今思えば我ながらロックだなー」

「でも高卒の認定試験は合格してらっしゃるから、実質高卒ですよね」

「紅焔嬢は、いくら売れっ子になったからって、セッカちゃんと同じ道を歩いたら駄目だぞ」

「紅焔ちゃん、卒業後の進路はちゃんと決めてますよ。詳細は言えませんが進学はするつもりです」

「マジか。えらいな」


:マジでえらい!

:高校1から2年ってまだまだ未来像なんてフワっとしてる時期だろうから、本当に偉いと思う

:あとは卒業できるかだな!

:卒業が心配 ほんそれ

¥1000:まだ蒼の友になってから浅いので質問なんですけど、どうしてセッカちゃんは不良からアイドルになったんですか?


「お、いい質問ですねアオトモさん! 答えの詳細は、去年二十歳ハタチになったセッカちゃんの初飲酒配信を要チェックやで!」

「それより前の配信でもちょこちょこ話してるけど、最新はその飲酒配信かな。おっと、重要だから前もって言っておくぞ。

 セッカちゃんは、初飲酒だ」

「はい、初飲酒ですね!」


:お、そうだな

:(暗黒微笑)

:あまりにも堂々とした呑みっぷりだったけどなw

:ウィスキーをコークハイで割る暴挙www

:ナティ姉との飲酒コラボ……は期待しないほうがいいか 相手はザルすら通り越して枠の人だから

 

「セッカちゃんのデビューエピソード、紅焔ちゃんは好きなんですよ。ご友人にアイドルを布教されて不良を卒業して、オーディションを受けた先がガイ社長のところだったんですよね」

「合格するとは思ってなかったし、当時バーチャルアイドルなんて知らなかったから二重にびっくりしたよ」

「未だにそのお友達のことを『密かな推し』と公言してるところがエモエモのてぇてぇちゃんです。まだ再会できてないんですよね?」

「まあな。でも、気持ちは今でも変わってないよ」


:ホンマ友人のかた、GJやで

:セッカちゃんをこの世に産んでくれてありがとう

:オーディション勝ち取れたのはセッカちゃんの実力と情熱だけどな

 

「ということで、セッカちゃんが元ヤンという経歴をお話しましたが……実はこの元ヤンという経歴。紅焔ちゃんにも、とある共通点がございます!」

「ホ? 共通点? 紅焔嬢もヤンキーなん?」

「違います。実は――私のお母さんも元ヤンなんです!」

「へーっ! マジか!」


:お嬢のお母さん、元ヤン!

:どうりでお嬢が怖がるはずだ 頭上がらないって言ってたのも納得

:お嬢の声の圧が時々バカ高くなるの、すげえ納得 血の成せる業か

:たまにゲーム配信でお嬢がキレる時、マジでビビる時あるからなー

:台パンで机を凹ませたのはガチでドン引きした


「こらこら紅民たちー。紅焔ちゃんはヤンキーじゃないぞー。健全な一般高校生で、精霊ですぞー」

「おふくろさんが元ヤンって、実際紅焔嬢から見てどーなの? 普段から圧強いのか?」

「別に普通と変わらないと思いますよ。むしろ私のお願いをよく聞いてくれる、とても良いお母さんだと思います。仲もいいですし。でもやっぱり怒らせると怖いですね」

「団長の配信でもたまに話題に上がるけど、人が良さそうなんだよな。団長がデビューする前はよくお世話になってたとか」

「ですね。困ってる人は放っておかないタイプです」


:人は皆ヤンキーを経験すると他人に優しくなれるのだろうか

:世話を焼きたくなっちゃうんだろうね

:お嬢って、父親とか兄弟の話はしないよな

:↑母子家庭で一人っ子ってのは公表済みよ


「そして今日はセッカちゃんに、とある写真を見てもらいたくて、スタッフさんからデジカメ借りて撮ってきたものがあるんですよ。お母さんが現役時代に着ていた特攻服です!」

特攻服トップク!? まだ保存してあんのかよ!?」

「何だかんだで記念品として保存してますね。案外見た目も綺麗なので、セッカちゃんやリスナーさんにも見てもらおうかと思いまして。ちっちゃいチームで威張ってただけって本人は言ってましたけど、服はご立派ですよ」

「見る見る! うわ、モノホンのトップクとかブチ上がるわー。派手でケバケバしいけど、逆にそれが大好きなんだよなー」

「セッカちゃんの特攻服特集の配信を見て閃いたんですよ。画像写しますねー」

「おっけー」


:何気に、書いてある文字を読むのも楽しいのが特攻服

:あのセッカちゃんの特集は、どう読むのが正解か盛り上がったなー

:何年前くらいの特攻服なんだろうな

:少なくとも20年くらい前か? 骨董品やで

:知ってる名前出たら笑うwww

:俺も特攻服好きなんだよなー カタログ買ったわ

:コスプレ用でも充実よな

:ダサかっこいいの象徴


:時間かかってるな

:画像マダー?

:おっとPONか


「あれー? 上手くいかないな。いつもならマウスでポンなのに」

「写真ファイルの拡張子とか合ってるか? 対応してないと載せられないぞ」

「んー……ごめんなさい、よく分からないです。お手数ですけど、セッカちゃん見てもらってもいいですか?」

「オッケーおまかせあれだぜ」

「またパソコンの使い方を勉強してきます。ファイル送りますねー」

「あいよー……あーこれ、やっぱり配信ソフトに対応してない拡張子っぽいな。こっちの変換ソフトで対応できそうだから、ちゃちゃっと用意しちまうわ。リスナーもお待ちかねだろうし」

「ごめんなさい、お願いします!」


:学生にとってパソコンは馴染み薄いだろうし、しゃーないしゃーない

:俺ら待ってるから安心しー

:お嬢のおつむは言わずもがなだが、パソコンはそれなりに使えるよな

:自宅でカラオケ環境あったって言うし、そのおかげじゃね?


:あや? セッカちゃんも苦戦中? さっきからリアクション止まってる

:めっちゃ目を見開いたままだ バグったか?

:これ、驚いてない?

:セッカちゃんの呼吸荒くない?

:なんだなんだ? 何が起こったし


「セッカちゃん? どうしたんですか?」

「おま、これ、どこで、撮ったん――ですか?」

「で、ですか!? えーと……自宅ですけど。特定対策が甘かったですかね? 背景を写さないように布地を敷いて撮ったんですけど」

「ちょっと、待ってろ――ください」

「セッカちゃん? 様子が変ですけど!? 紅焔ちゃん怖いんですけど!?」

「紅焔嬢。配信――切れる?」

「切れませんよ!? さすがにリスナーさんが困惑します!」


:はい、してます マジで何が起こってるんだよ

:誰か説明してくれよぉ!

:セッカちゃんの息が絶え絶えでホラーなんですが

:GSのベテランライバーらしからぬ判断 よほど動揺しとる

:これには紅焔嬢もたまらず困惑 そりゃそうだ


「とにかく、裏、話せる?」

「あー、えーとえーと……ミュート! ミュートで話しましょう! リスナーさんごめん。しばらくの間、声が聞こえなくなりそうです。もし配信切れちゃったらゴメン! 映像だけは少しこのまま流します。話せる内容だったら後で説明するね! 皆は無理しないで。移動しちゃっても紅焔ちゃん全然平気だからね!」


:はぇ!?

:マジでミュートしやがった!

:セッカ嬢、謝罪案件じゃねーか

:マジでなんなんだ

:あからさまに紅焔ママの特攻服が原因よな

:怖いわ まさかのホラー回になってるじゃねえか!

:移動できそうにないな 結末が気になりすぎる

:数々の耐久配信を経験した我々にとってノープロブレムですぞ

:復帰はよ 信じて待つぜ ホトトギス



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る