57話 テレフォンを使いますか? 中編
―― ルルーナ・フォーチュン ――
じゅうもんじライバーの那由多に関して、事前に調査していた情報を公開しよう。
彼はじゅうもんじ創立からおよそ1年後、『ゲーミングス』というゲーム配信を中心とした部門からライバーデビューを果たした。ゲームの腕としてはそれなりに甘んじているが、何事にも諦めないバイタリティと、ここぞという場面で起こす悪運の数々で視聴者に笑いと感動の数々を与えている。
そして彼の特徴といえば、女難の相だ。彼は女性を食事に誘う、プレゼントするという行為を度々繰り返すため、勘違いを生みやすい。本人の中では男子相手と同じ感覚だそうだが……自覚の無い親切心も罪よのう。
以上、那由多を簡単に紹介させてもらった。
『団長だってモテモテじゃない。人のこと言えないよ』
「そうか? 確かに嫌われた記憶は無いが」
『いやー、それにしても……前から団長とは話してみたいとは言ってたけど、ひとつ夢が叶っちゃったよ。感無量だね』
「対談は初めてよな。今夜はよろしく頼む」
:じゅうもんじ初絡み!!
:ヤタプロやGSとはそれこそ路線が違うから楽しみ
:でも違いって何だ? 男女カップリングの有り無し以外で思いつかんが
:↑言われてみれば……
:細けえことはいいんだよ!
:おかしい……ベテランの那由多に上から目線しててイラッとする場面のはずなのに、自然すぎて受け入れられる自分がいる
:那由多自身もまったく気にしてないからかな
「前から話したかったのはお互い様だよ。君にはひとつ、相談に乗ってもらいたいことがあるんだ」
『おお、団長から? それは光栄じゃない。全然大丈夫だよ』
「初期の君は3D酔いに悩まされていたが、今は長時間配信にも耐えうる力を身に着けている。酔いを克服する秘訣を教えてほしい」
『あー……団長、3D酔い酷いみたいだね。っていうか、初期の配信、見てくれたんだ。いや恥ずかしいなー』
「掻い摘んでになるが。相当な努力は見てうかがえる」
『改めて言われると照れるなー。ズバリ答えると、やっぱり慣れだね』
「ふむ」
『回数を繰り返して、脳みそをゲームに合わせるしか無いかなー。俺の場合、まず三人称視点のゲームで頑張ってから、酔いの少ない一人称視点のゲームをプレイして、最後に
「確かに、一人称よりも三人称視点の方が酔いにくいとは聞いたな。しかし、ううむ……参ったな」
『きっと団長はこれから忙しくなって時間が取れなくなっちゃうかもだけど、焦っちゃダメだよ。一朝一夕では治るもんじゃないし、どうしても時間はかかっちゃうものだから、ゆっくり馴染ませていこう』
「いや、時間で悩んでいるのではなくてな。脳みそをゲームに馴染ませるって点が、ちと困ってるんだ」
『というと?』
「俺の場合、おそらくゲームソフト側の反応速度が足りないことが原因なんだ。こいつはハゲの――観照退の受け売りだが……例えるなら、ロボット物のアニメなんかで、主人公の反応速度にロボット側が追いつかなくなることがあるだろう? たぶんアレと同じ現象が起こっている」
『え』
:嘘だろwww
:いや団長なら全然納得できるわ
:なゆたも思わず絶句
:プレイ歴4ヶ月程度、しかも1日1時間程度でソロ英雄を何度も取れてるのだから、めちゃ説得力ある
:団長専用キャラの実装が望まれる
:団長自身の規格がレギュレーション違反ってコト!?
:電子世界の敗北
「ただ、三人称視点のゲームを触ってみるのは良いプランだな。そいつは新規で取り掛かってみようか。何かオススメはあるかい?」
『あ、ああ。そうだね……配信向けだったらDeadry Spaceanなんてどうかな』
:おいwwwwしれっと鬼畜ゲーを紹介するなwww
:鬼難易度+最恐ホラゲーの金字塔じゃねーかww
:いや的確じゃね? 団長ゲーム適性バカ高だし ホラー耐性は知らんけど
:団長の腕前なら難なくクリアできそう
:二人同時プレイができるってのも配信向けだよな
:意外に反応速度は求められないから、酔いを慣らしていくにはうってつけかも
:(堂)<ン゙ーッ! ア゙ーッ!(死体を踏みつける音)
:マグロが食いたくなってきた
:工具は銃より強し。ンッンー名言だねえ♪
「ほうほう、コメントが訳の分からん内容で溢れ還っておる。スラングが多いゲームは名作と聞くが」
『団長、ホラーゲームのプレイ経験は?』
「まったく無いな。視聴もほとんどしとらん。だがホラー耐性は高いと思うぞ。うむ、今度プレイしてみようかな」
『じゃあせっかく話ができたんだから、記念にプレゼントするよ。
「いいのか?」
『ゲーマーとして、高額スパチャよりは気が楽だよ。ついでに今はセール中だから遠慮は無しで』
「安い時期に布教か。したたかでもあるな。ありがたい。いただこう」
:まーたそうやって女にホイホイプレゼントするんだから
:学ばないな、なゆた!
真皇マオ/MaouMao〈じゅうもんじ〉:ゲームを送るのか? 私以外の女に……
悠御前/HarukaGozen/はるごぜ【じゅうもんじ】:なゆた君がまた女性を口説いたとお聞きして馳せ参じました
アーレイア・j・エスターテ:まーた浮気現場だよ……いい加減にしろ
怠惰人のルチル・ストレイバード:まったくブレないジゴロな姿勢、評価できる
永久かなめーTowaKanameー:お前を○す(私にもゲームください!)
:!?
:名だたるじゅうもんじの英傑たちが一気に雪崩れ込んできてる!?
:那由多レーサーズ怒りのスタンピードwwww
:コメントも団長が無礼講いったからガン刺さりしてるなww
:待ってルチルいるやん!
:ファーっ!? ルチル!? 嘘やろ!?
:超レアキャラじゃねーか! 囲え!
:あんた那由多レース不参加者だろ!? しれっと混ざるんじゃねえww
:落ち着け、ここはYaーTaプロの配信だ
「おーおー、賑わっとる賑わっとる。いらっしゃいいらっしゃい」
『コメントの話?』
「んム。じゅうもんじのライバーさんが大挙して君へメッセージを送ってくれとる。俺としては盛り上がるから有難い話だが、ちと団員たちが混乱しとるな」
『うわっ!? マジでごめんなさい、ウチの奴らがご迷惑を』
「迷惑とは思っとらんよ。ただ、催促しているようで悪いが、動揺している団員達のために、もしよければ同時視聴なりで分散をお願いできるだろうか」
:怠惰人のルチル・ストレイバード:分かった。枠取る。ウチのライバーも枠に呼んどく。迷惑かけてごめんね
「感謝する」
:ルチルが人に言われて動いた!?!?!??!
:嘘だろ!?
:前の配信いつだ?
:ラスト配信、去年じゃねえか!
:あっさり奇跡起こしやがった!!! パねええええ!!!
:団長、いまありえないくらいの偉業やったからね!
:もっと驚いてくれよ団長……俺たちがおかしいみたいじゃないか
「おん。コメントの流れが早いな。また盛り上がって何よりだ。一件落着」
『本当にいいの? 同時視聴枠取らせちゃって。向こうに流れちゃうんじゃない?』
「構わん構わん。団員含むリスナーの皆が楽しめるならスタイルは問わんよ。しかし凄いな。流石じゅうもんじのトップエース、ルチル嬢だ。対応も迅速だ」
『んぅえ!? ルチル先輩!?!?!??』
「おや」
『ルチル先輩が枠取ったの!?』
「おう。コメントでは取ってくれると書いてくれたぞ。じきに立ち上がるんじゃないかな。彼女にしては珍しいとは思ったが、俺の想像以上の珍事なのだな」
『さすがにルチル先輩の事、知ってるんだね』
「界隈にいる者なら避けて通れぬ名だろうて」
枠を取っただけですっかり話題の中心となってしまった、じゅうもんじライバー『ルチル・ストレイバード』について軽く紹介しておこう。
一言で表すなら『神出鬼没』。唐突に枠を取っては配信を行うというスタイルが主なのだが、とにかく配信の頻度と露出度が低く、公式の企画や同箱のコラボ企画にも滅多に顔を出さない。マイペースを極みに極めた振る舞いはリスナーたちに「チャンネル外で見かけたら幸運」とすらも呼ばれるほどのレアな人物となっている。レアと言われつつも配信は印象深い内容ものが多く、雑談・歌・企画も何でもござれである。
最大の特徴は、頻繁に旅を繰り返すこと。配信中に得た金で各地を渡り歩き、拠点や旅先での実体験を交えた配信を行うといった、Vtuberとは思えないほどのバイタリティは多くのリスナーを惹きつけている。登録者数もおよそ198万人と、次点140万を抑えて箱内では圧倒的だ。
『ははは……すごいな団長。誰でも例外なく動揺する場面なのに、まったく動じてない。本当に珍しいんだよ。ルチル先輩がコメントを残すのも、誰かに言われて枠を取るのも』
:ルチルの知名度を知っててその反応かよ……肝すわりすぎよ……
:他人の言う事を聞かないことで有名なルチル嬢がいったいどうして
:お祭り騒ぎに惹かれたのかな
:もしかして ルチル団長ガチ恋勢
:たぶん団長の配信を荒らしちゃった責任取ったのだと思われ
:天才肌だから似たもの同士のシンパシー感じちゃったのかな
:なゆたの初配信の話を思い出すな。なゆたの大失敗を最速でフォローしたルチルのエピソード、ホンマてえてえ
:何も知らない東遊が爆速でルチルに呼ばれて唐突な地獄企画やらされた奴なwww
:いきなり通話はじめて「10個の面白いこと言うまで帰れまテン」は誰でも無理よww
:ベテランでも準備無しだと失敗するという例を見せたかったとはルチルの談
:なお火傷したのは東遊だけ
「ふむ。那由多デビュー時におけるルチル嬢のエピソードは、俺もよう聞いている」
『恐縮です。本当に誰かが困っている時、やってほしいことをやるのが上手いんだよ、ルチル先輩は……』
「この辺の裏話は君の鉄板話だろうから、今回は省略させてもらうぞ。詳細は那由多のアーカイブや有志の切り抜き動画で確認してほしい。
……さて。そろそろ本題へ入ろうか。回答は用意できたかね?」
『『結婚したい理想の女性』だったね。おーけー、大丈夫。アンサーは考えたよ。よくよく考えたら、好みのタイプを言うだけだから火傷はしないよね』
「さてどうかな。して、その心は?」
怠惰人のルチル・ストレイバード:わくわく
:ルチルのチャンネル、勝手にアンケ取り始めやがったwwwwww
:めっちゃポップコーンとビールでリラックスしてやがるwwww
『まず基本的に世話焼きさんかな。世話するよりも世話をされたい。俺、私生活がズボラだから、生活のスタイルを変えてくれるくらいの影響力がある娘がいいな』
「ふむ」
『それでいて自分の意志はしっかり持っている娘だね。しっかり真正面から向き合って、お互いに悩み相談したり、頼り頼られたりの関係になりたい』
「ふむふむ」
『それから、けっこう大事な要素なんだけど、料理が上手な人がいいな。いつも宅配ばっかり頼んじゃうから、やっぱり手料理が恋しいんだ……こんなところだね』
「世話やきで料理上手、それでいて自分の意志をしっかり持つ娘か。那由多と結婚したい淑女諸君。我こそはと名乗り出るなら今のうちだぞ」
『まだまだ結婚したいとは考えてないよ』
:あれ 団長じゃね?
:団長ですね
Agnis Ch.紅焔アグニス:ルルじゃないですか
蒼火セッカ/セッカチャンネル:団長じゃん
観照退@ジルフォリア戦記31巻発売中:真っ先に団長が思い浮かびましたね
「おお。言われてみれば、おおよそ俺は対象に含まれているな」
『え』
「コメントで、俺が該当してると言われて同意したんだ。つまり、遠回しで口説いているとなるな。公衆の面前で現役アイドルを口説くとは、なかなかの胆力ではないか。プレゼントもその一環と。成る程」
『いやいやいや……団長、なんか楽しんでない?』
「好き者だな、君も」
『冗談でも危ないですって! ……やばい、通知がヤバいって!』
:ルチルのチャンネルでレーサーズが発狂してるwwww
:団長、めっちゃニヤニヤしてるww
:団長のウィンクに不覚にもときめいたぞ俺
「申し開きがあるならルチル嬢のチャンネルでするといい。今なら間に合うかもしれんぞ」
『なんか誘導されてるみたいだけど、お言葉に甘えて!』
「最後に。次の方への質問を残してくれるとありがたい」
『『儲かりまっか?』でお願い! それじゃまた皆、次の配信で会おうぜ!』
「君の旅路に巡りの
さてさてお次は――む……先程の質問はほぼ無意味になってしまうな。確実に儲けまくっている方だ」
:誰だ?
:儲けまくってるってことは、かなりの著名人は間違いない
:もう男の関係者なんて全然分からんぞ マジで予想がつかん
「約束の時間には間に合っているな。あとは先方が憶えていてくれれば……おお、さすがに繋がったか」
『ほんまにしょーもない置き土産を残しよったな……『儲かりまっか』ときたら『ぼちぼちでんがな』としか返せんやんけ』
:!!??!?!?!?!??!?
:は? ……はああああ!?
:ガイ社長!?!?!?
「もうコメントではネタバレしてしまったな。流石の知名度だ。お名前を」
『どもどーもー。アイドルVtuber事務所「GーState」を経営しとります、株式会社「クリアリング」社長の
「よろしく頼むぞ、ガイ社長」
『任しときルルちゃん。オジサンがドッカンドッカン盛り上げていくでー』
:いや「よろしく頼むぞ」じゃねえんダワ!!!!!
:セッカちゃんいなかったら逆凸でのG-State初絡みになるのか……社長が初って何だよ
:ルルちゃんて……社長もフランクすぎるんだが……あんた所属のタレントにそんな愛称呼びしないでしょ
:どうなってんだよマジで……今日は本気で予想が全くつかねえ
:今日の団長の配信は完全にパンドラボックスやでぇ……
・・・・・
・・・
・
「さて、ずいぶんな人たちと話してきた。やはり今夜のような取り留めのない会話は楽しいな。愛おしささえ感じるぞ」
:なんだこれ……なんだこのラインナップは……
:むしろVtuberが少ない件
:(G-Stateメンバー) 漫画家 じゅうもんじライバー GS社長 無名の個人Vtuber コスプレ専門店店主(おネエ) 老舗銭湯のオバちゃん 新進気鋭の実力派アニメーター カリスマパティシエ 町内会の会長(将棋仲間)
:センセェ経由も多いとはいえ落差が激しすぎる
:個人Vのユエちゃん、けっこう期待
:まさかの前職がらみとは 縁ってホント分からんなー
:配信チラ見してきたけど才能感じるわ
:チャンネル登録1週間だけど、もう登録者1万超えてるで 400人から50倍も増えてる
:団長効果パねぇ……が、団長を宣伝に使う神経の図太さもすげえ
:団長の紹介前から1週間で400人って十分凄いけどな
:マジで運が良かったな 団長と縁が持てて もちろん集まる要素も多いけど
「ユエの評判も上々だな。これから暖かく見守ってやってくれ」
:あれ そういやGSのメンバーがいないな 突発のセッカちゃん以外
:そういえば
:アリたん出ると思ってたわ
「ふふふ……彼女たちとはいずれ、な。さて……次が最後だ。皆の者。今回の
:毎回整えてるけど無理だよ驚くしかできないよ
:もう何度モニターを見直したことか
:心の中の「マジ?」が今日はもう20を超えてる
:つまり全員臨戦態勢ってこったァ!
「よろしい。では、お迎えしようか。次の質問は『好きな将棋の駒』だったな。むはは、会長らしい……さて、繋がったようだ」
『もしもーし。聞こえますかー?』
「音質良好。問題は皆無だ。リスナーの皆のほうは、音声に問題はないか?」
:誰?
:聞いたことはあるけど
:あ、分かった。分かってしまった。嘘だろ
:マジで心臓止まりかけたぞ俺
:まさかアイドルの配信でこの方の声が聞けるとは しかも対談で
「お名前を」
『フリーランスの声優をしております、
「光栄だ。今夜はよろしくどうぞ」
:いやだから……大物ポンポン呼ぶんじゃねえ! ご近所のおじいちゃんじゃねえんだぞ!?
:大御所中の大御所じゃねえか!?!?!?!
:無礼講にも程があるよね!??!?!?
:頼むから、その人だけには敬語を使ってくれ団長おおおお!!!!
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