55話 戦士たちの休息は冬の宵闇に


―― 佐藤のり子 ――


 私には夢があった。これ以上ないチャンスだった。

 奇跡の逸品をルル達と食べ終え、離れで二人が泊まるためのお布団を敷きながら、私は話を切り出した。


「パジャマパーティーだよ!」

「パジャマパーティー……とは、なんだい、お嬢」

「ベッドや布団に寝っ転がって、おしゃべりしたり、ゲームしたり、映画見たりして夜更かしをするんだよ。憧れだったんだよねー」

「パジャマパーティーかー……私じゃ思いつかない単語だなー。でも意外。のり子ちゃん、そういうパリピなイベントは百戦錬磨だと思っていたよ」

「友達と夜更かしするにはするんだけどね。やってもオンライン止まりなんですよ」


 ウチのお母さんは基本私のやることに反対意見を出さないけど、なぜか深夜カラオケを含むお泊りは中学卒業までNGだったんだよね。だから経験が無かったりするのだ。高校生になったから名目上はお泊りOKになったんだけど、私の顔が 傷だらけこんな になっちゃってから出向かなくなっちゃったし。私の友達であるヨーミとシズは泊まりに来ないし。ルルは一回だけ我が家に泊まったけど、年末の年越しだけだったし、私が先に寝ちゃって実現できなかったんだよね。

 

「あらためてパーティーって単語を聞くと緊張しちゃうなー……」

「無理して盛り上がらなくてもいいよ。眠気が来るまでおしゃべりしてるだけでも楽しいだろうし」

「つまり、俺たちが夜にだべっていることをオフラインでやろうということか」

「風情が無いなールル。でも特別感が無い? 普段とは違うシチュエーションだし。どうかな。パジャマパーティー」

「断る理由が無いな。またとない機会だし、やってみよう」

「私もチャレンジしてみようかな。話を聞いて、ちょっとワクワクしています」

「やった! それじゃ、私用の三枚目のお布団を敷かせていただきます」

「そうだ。お嬢、姫。せっかくだから――」



・・・・・

・・・


Agnis Ch.紅焔アグニス

【ゲリラオフコラボ】美女に挟まれ至福のパジャマ・パーリナイ!【紅焔アグニス/ルルーナ・フォーチュン/帝星ナティカ】

3504人が視聴中 チャンネル登録者数 123万人

#YaーTaプロ1期生


:まさかのお嬢ゲリラ配信……この俺の目をもってしても読めなかった!!

:恐ろしく早い二回行動……俺じゃなきゃ見逃しちゃうね

:三人オフで揃って盛り上がっちゃったんだろうなー

:マジで仲いいな1期生

¥300:間に挟まりてえ

:↑百合に挟まる間男は逝ってヨシ

¥1000:女が百合に挟まって何が悪い! 私は女だよ!

:↑それそれでどうなんだ……

:きちゃ!

¥2000:今来たところだが待ちわびたぞ!

:兄さん滑り込みセーフwwww


「今夜は静かにイグニッショーン。YaーTaプロ1期生の紅焔アグニスと――」

「こんナティカー。同じくYaーTaプロ1期生の帝星ナティカです」

「今夜は思い付きで突発パジャマパーティーですよ。中身なんも決めてないけど、1時間だけの配信だから大丈夫っしょ」


:おや、団長は?

 

「ルルちゃんはまだお風呂に入ってるから、もう少し待っててね。すぐに来ると思うから」

「主役は遅れて来るもんですぜ。ぐへへ」

「ルルちゃんは髪が長いからお風呂が長くなっちゃうんだよね」


:アグおじwww

:もしや一緒に入ったでござるか!? 入浴したでござるか!?


「入りたいけどねー。無理強いはできません」

「さすがに裸の付き合いは恥ずかしいよ……こんなだらしない体だし」

「ドチャクソエロボディーとクソエロ寝間着を見せておいて何を言うか! けしからん!」

「エロくないもん! 普通だよ!」

「あー? 一般ネグリジェでも隠し切れないエロスのどこが普通なんだよ! どたぷんオパーイが浮かんどるんじゃい! この! この!」

「きゃんっ! ツンツンしないでよー」

「男子どもは期待しとるかもしれないけど、つついてるのは二の腕です」


:布団上のキャットファイトは止めていただきたい! 青少年には毒でござろう!

:またナティ姉のエロスでチャンネルが危ない

:エロ路線に転換したのかヤタプロ

:でもお嬢と団長はそういう目で見られないんだよな

:お嬢は近所の娘さん、団長は男友達ってイメージ

:団長は圧倒的に抱かれたい派

:↑分かる

:↑同意

:↑同志よ

:↑その意見に賛同する

:↑ここにも私が……ドッペルゲンガーか


「おーい、そういう生々しい性事情はやめたまえお前たち。さすがにBANしちまうぞ」

「気持ちは分かるけどねー……」

「ナティ姉!?」

「あ、あー! 今のなし! 無しです! 切り抜きもNGですからね!」


:大丈夫。俺だけのログに残しておくよ

:切り抜きは禁止か……だがまとめサイトはどうかな?

:キ……キマ……キマシ


「まだ夜の9時前なのに深夜テンション極まっちゃってるなー我々。てゆーかナティ姉って、いつもネグリジェなの?」

「そうだね。パジャマって基本上下別れてるでしょ。でもネグリジェって別れてないじゃない? 管理や洗濯が楽なんですよ。値段も、上を見なければ大したことないし」

「意外に実用性重視だったんだ」

「だって、見せる相手が……ね?」

「あ、はい。申し訳ない」


:これからは俺が見るよ いつでも言ってナティ姉

:ナティ姉のネグリジェが見られるならアカBANも辞さない

:ところでいちおう聞くけど、お嬢はどんなの?


「アグちゃんは可愛らしいキャラもののパジャマだね」


:ほーん

:なるほど

:らしくていいんでない?


「反応薄っす! 分かっちゃいたけどね!」


:うそうそ、ごめんお嬢

:でも解釈一致なんだよな 

:逆にセクシー系の寝間着来てたら激しく違和感だし

:それはそれで冒涜的で良いかもしれんが


「やっぱり胸かー。胸なのかー。胸はお母さん譲りの控えめななんだよなー。遺伝子的に負け組なんだよなー」


:お嬢はお母さん呼びなのか

¥479:草藪うねる:胸の大きさは遺伝子で決まるもんじゃない。女性の魅力は体格で決まるもんじゃない。もっと自分を誇れ、紅焔アグニス。君には君の魅力があるじゃないか。


「草なんとかうねるさん、ありがとうね……次までに読み方調べてくるよ……」

「うぉーい、待たせたなー。飲み物も用意してきたぞー」

「おっ、ルルだ。待ちわビッ!?!?!??」

「どしたのアグちゃふあああああああ!?」


:耳が、みみがあああああ!?

:なんつー絶叫ww

:何があった!?

:団長やらかしたな!


「おいおい。そんな急に叫んだらリスナーさんの鼓膜が破れちまうぞ。ほら、寒いだろうからホットココアだ。俺の飲み物は、いつもなら強炭酸のソーダなんだが、配信中だから趣向を変えて微炭酸の乳酸菌飲料で水分補給だ」

「え、あの、ルル? 寒くないの?」

「ぜんぜん。むしろ今は熱くてかなわん」


:え

:あの、ちょっと? 団長?

:猛烈に嫌な予感がする いや最高の予感がする どっちなんだ

:つかぬことを聞きますが、今の団長、どんな服装をしているので?

 

「俺の服装か? あー……服着てない時の服装ってどんな表現すりゃいいんだ、お嬢?」

「うるせえ! さっさと乳首と股を隠せ! 服を着ろ! このチャンネルは成人向けじゃねえんだぞ!」

「アーッ! 駄目アグちゃん! 言葉に出しちゃダメ! BANされる! BANされちゃうから!」

「配信に実物を載せてねえんだから大丈夫だろ。ルルーナが脱いだでもあるまいに。俺は熱々の風呂に入って限界まで体を温めてから風に当たって体を冷やすのが好きなんだ」


:ガタッ!

:↑座ってr……いや無理か。無理だよな、こんな刺激のつええ言葉聞いちまったらよぉ!

:リアルで椅子から立ち上がっちまった

:パジャマパーティー(ただし服を着るとは言っていない)

:質問者よく言った! よく『服装』を聞いてくれた! そのワードこそが勝利の鍵だ!

:まさかの裸族

:団長ならやりかねないと思っていたが、現実になるとは

:予想通りではある でもいざ言葉に出すと刺激強いな……

:ありがとう神様……ありがとう神様!


「あ、いや。言葉に出したのはマズったか。お嬢のチャンネルって未成年多いんだったな」

「おいルル。紅焔ちゃんの話を聞いていたか? 聞いてたなら今すぐ実行しろ!」

「別に女しかいねえんだから、そう目くじら立てることもあるまいに……すぐに服を着ると胸や尻が蒸れちまうから、タオルで対応させてもらうぞ」

「はー、心臓に悪かった……でも分かるなー。熱いお湯に入るとすごく汗かいて蒸れちゃうんだよね。お姉さんはいつもぬるめのお湯で長めに入って、あまり汗をかかないようにしているよ」

「頼むから巨乳あるあるトークはマジで勘弁してくれ……紅焔ちゃん、ミリも共感できないから……」


:これから! お嬢はこれからだから!

:巨乳は巨乳なりの悩みが多いんだがな

:持ってる女子からするとむしろ貧乳のほうが羨ましい

:役者は揃ったな パジャマ ネグリジェ タオル(全裸) よりどりみどりだぜ!


「期待に沿えなくて申し訳ないが、体が冷えたらちゃんと服は着るからな。既に用意してあるぞ」

「ルルはハイブリッドタイプだね。下はすその長いパジャマで、上は長袖のシャツか」

「この真冬の時期でお風呂上がりに服を着てないなんて、よく風邪をひかないね」

「風呂に入る程度でくたばるような軟弱な体じゃあねえのさ。風呂上がりはいろいろ試したが、これがベストアンサーだ。最高に気持ちがいいな!」

「真冬の時期だから、紅民のみんなは真似しないようにね。ルルだからこそ出来る荒業だからね」


:そのうち団長は風邪引きそう……そのはずなんだが、ビジョンが見えねえ

:むしろ風邪の症状を経験したことが無さそう


「さて、我々が揃っちまったが……お嬢はプランあるかね?」

「ゲームや映画は用意が大変だから、無難に雑談かなー。顔を合わせて話し合う機会も案外少ないし、三人揃ってるうちに言えることは言いたいね」

「そのうち、こうしてのんびり集まることも出来なくなるかもしれねーんだよな。GーStateの面々なんか誰も彼もが忙しいと言うとる」

「お姉さん、そろそろレッスン漬けになりそうなんだよね。二人と比べたら勉強することいっぱいだし」

「ナティ姉も本腰じゃん。紅焔ちゃんもレッスン入れたいんだよね~」

「おお、我々アイドルっぽくなってきたじゃないか。俺もレッスン受ける予定だぞ」


:ついにレッスン!

:アイドルらしい単語が!

:どちらかといえばイロモノとか、おもしろ集団扱いされてたもんな

:それで三人はどういったレッスンをするので?


「お姉さんは歌とダンスだね」

「俺も同じレッスンを受けたいな」

「そういえば二人の歌って聞いたことないなー。いっそのこと歌枠に変更しちゃうか?」

「悪いが事務所NGなんだ」

「お姉さんはセルフNGで」

「待って、ナティ姉はともかくルルの事務所NGって何だよ初耳なんだが」


:お? なんだなんだ?

:ナティ姉は分かるが団長はいったい

:ナティ姉は同志を見つけたような目で団長を見るんじゃあないwww

:団長は歌も一流だと勝手に予想していたが……

:下手っぴーだったら、それはそれで個性としてアリ

:下手な場合、ますますYaーTaプロの採用基準に謎が深まる

:↑超人要素が1つ以上あるかじゃね?


「しまった、馬鹿正直に答えるべきじゃなかったな。今日はいろいろ喋っちまいそうだ」

「寝間着って気が緩んじゃうよね。それにルルちゃんとお姉さんは旅行気分だし、余計に気が抜けちゃう」

「そういやお嬢のレッスンって何だい? 歌もダンスも必要ないだろ?」

「アグちゃん、フィジカル半端ないもんね。ダンスも上手そう」

「運動神経に自信はあるけどねー。ルルに比べたら全然だよ」

「比べる相手が間違っていると思います」

「俺から見れば、お嬢は人類でも上位だと思うけどな」


:まずいな、早く3Dの1期生が見たい人生になってしまった

:人類上位の運動神経を持つお嬢 そのお嬢を超える団長 巻き込まれた一般人の姫さん

:姫さんはあまり運動出来なさそう

:でも姫さんがキレッキレの動きしたら面白いなwww


「それで、アグちゃんのレッスンって何になるの?」

「フフフ……ボ・イ・ト・レ、ですぞ。声優用のな!」


:おおおおお!

:1期生は割とアニメ声だから全然アリだな

:お嬢もロリ声ショタ声上手いから映えそう

:聞きてぇ~……小一時間聞きてぇ~……


「ほう。その心は?」

「必殺技とか叫びたい」

「分かる」


:分かっちゃうのかwww

:二人とも男の子やなwww

:ナティ姉は分かりかねる顔しとるwww

  

「事務所はOK取れたのか?」

「優先度低めだってさ。案件がねー、そろそろ危険が危ないのよ。スケジュールジュルスケちゃんがシャドーボクシングしながら迫ってるんダワ……見る?」

「どれどれ……あ、うわー……」

「これでも仕事は選んだって言ってるんだよ……おにちくじゃね?」

「Vtuberとしての話題性があり、アイドルとして王道の紅焔アグニスは最高の広告塔だからな。納得の采配だよ」

「学校の時間を確保してもらってコレだもんなー。自分で選んだ道とはいえ、実際にやる側となると、感慨深いねー。アイドルになるんだなーって思うよ」

「アグちゃんに比べたらお姉さんはスカスカだから、頑張らなきゃね……」

「その分、俺たちはレッスンと配信でお嬢に追いつかないとな」

「そうだねー。追いつきたいねー……」

「二人にリスペクト貰うと違和感あるなー」


:団長は強者イメージなのにお嬢を追いかけるって割と違和感ある

:お嬢のアイドル像が完成しすぎているからこその現象


「お嬢と並べたら、ゆくゆくは3Dの体を貰って――やっぱアレだよな、アレ」

「アレって……お姉さんが思うに、考えることは同じかな?」

「お。それじゃあ、せーので言ってみようよ。3Dになったらやってみたいこと。

 はいせーの!」


「「「3Dライブ」」」


:ふおお! ハモった!

:完全一致!

:台本無しで言ったならガチエモい

:全員ボケが無かったな……ガチなんやな

:あー^^ てぇてぇがマキシマムでホルモンに響くんや~

:ピュア回答が熱すぎるぜYaーTaプロ……

 

「ナティ姉からその言葉聞くとは……染まってきたね~」

「えへへ……アリアさんのライブ見ちゃったら、憧れちゃうよね」

「アイドルVtuberの到達点のひとつよな。やはり、あのアリアのライブは俺たちを高みへと押し上げてくれるひとつのきっかけになってくれそうだ……む。失礼。会社からの連絡だ」


:なんだ? 配信中止か?

:団長の裸が原因か?

:エロには厳しいよなYuTub


「いやいや中止じゃない。むしろ逆だよ。リスナーの皆には告知せにゃならんことができた。連絡の転送許可取れたから二人にも送るぞ」

「どれどれ……おおっ!」

「ええっ!? これって……お姉さん聞いてないけど」

「姫の内容は会社指定のようだな。これもVtuberの醍醐味ってヤツで。お嬢。チャンネル主だし、告知を」

「合点承知! テキスト作るね」


:おおお? 何だ何だ?

:高が胸なるぞ!

:反応からして朗報だよな!



「YaーTaプロ1期生、外部コラボ解禁のお知らせでーす! 早速コラボ配信も三連打しちゃうぞ!

 まずは第一弾! 私こと紅焔アグニスと、GーState2期生の蒼火そうかセッカちゃん!

 続いて第二弾! ナティ姉こと帝星ナティカと、同じくGーState1期生の言葉ことのはアリアさん!

 そして第三弾! ルルことルルーナ・フォーチュンによる逆凸配信!

 この豪華ラインナップでお届けしまーす。 順番は前後することもありますので悪しからず! 皆のもの、震えて待て次回!」

 

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