49話 激突!炎と光!お嬢がやらねば誰がやる! 後編
―― 紅焔アグニス ――
「お、おかしい……おかしいぞ。どうしてこうなっている」
「4ー60か。俺の予想ではお嬢が5か6だったんだが。誤差の範囲かな」
「リバーシだよ!? 4枚って何だよ!? リバーシで出ていい点差じゃないよ!?」
:何もおかしくは無いと思うよ、お嬢
:アンケート通りの結果じゃん
:残当
:団長の予想よりも下回ってるwww
「ルルって、本当にこの対局が初リバーシなんだよね?」
「嘘じゃないぞ。これだけシンプルなルールだし、戦略を練るのが容易かっただけだよ。ところで序盤に言っていた不利コマの真相って、なんだったんだ」
「うるせー! 人の黒歴史に塩水ぶちまけるんじゃねー!」
:ノリで団長勝利にアンケ入れたけど、今は逆にお嬢へ入れたくなるほどかわいそう
:まさか団長のゲームセンスがここまで高かったとは
:脳みその構造が俺らやお嬢とは比較にならんな……
:お嬢のロリボイス楽しみにしてるわ
非常にまずいぞ。ルルのゲームセンスを侮っていた。
「さあお嬢、次はどんなゲームを紹介してくれるんだ?」
「ちょちょ、ちょっと待った! 考えさせてくれ!」
:死刑宣告wwww
:邪気が無いぶん、余計にたちが悪いwww
:ガチモード入りまーす
頭脳系は駄目だ。そもそも私のおつむは学校内でも体育以外は下から数えたほうが早い。切り捨てよう。次は実技で勝負! 私がやり込んでいる系のゲームならっ!
「それじゃあエアホッケーで!」
「これもシンプルなゲームだな。円盤を相手のゴールに叩き込めばいいのか。先程と違って技術の勝負になるな」
「よく友達ともプレイするけど、紅焔ちゃん、相手が二人いても勝てるからね。流石に覚悟しようか」
「おお。期待するぞ。でも、このゲームでいいのか?」
「ノー・プロブレムですが何か」
「さよか。お嬢がええなら構わんが……」
:あ……これは……
:またお嬢の黒星がひとつ……
:お通夜ムードwww
「いやいや。紅焔ちゃん、まーじで強いからね? みんなの予想の5倍は強いからね? ようし、ルールは10点マッチだ。いざっ」
[対戦結果]
[ルル:10点 紅焔ちゃん:1点]
「あっるぇー?」
「俺、弾道計算系はかなり得意だぞ」
:バックス、序盤で跳弾武器取ってからほぼ跳弾縛りで英雄取ってたもんな
:今のマッチ、お嬢の最初の1点以降、団長のスマッシャーの後ろにパックが通らなかったよな……
:お嬢の弾道すら完全にコントロールしてたぞ
:お嬢もかなり上手かったんだけど相手が悪すぎる
:お嬢の渾身スマッシュを簡単にいなしていたときは目を疑ったわ
:俺、あのスマッシュ見えてなかった
嘘だろ!? エアホッケーは大百科の中でも極めた部類だったんですけど!? 適応力どうなってんの!?
ルルの弱点ってどれだ? いやまあ3D酔いって弱点はあるけど人として選択しちゃダメなやつだし……。
頭脳で駄目。技術でだめ。じゃあもう運しかないじゃない! でも完全な運ゲーだと撮れ高がちょい微妙なので。
「次はブラックジャックだ!」
「えらいシンプルなデザインのカードゲームだな。数字のカードはなんとなく意味が分かるけど、QやJはどういう意味なんだい?」
「ルルはトランプ自体見るのが初めてだったのか。簡単に言えばカードの合計値が21に近づくようにすればいいんだけど……今はルールの紹介動画を見てカードの意味を覚えよう。今回はちょっとルールが複雑で、しかも運ゲーですから、さすがのルルでも無双は無理っしょ! このゲームはギャンブルだから、まずはコインをベットしてね」
:またお嬢はそうやってぽんぽんフラグを建てるんだから……
:一級フラグ建築士でも目指しているのか?
:でも運ゲーだし、多少はマシになるんじゃ
:と、おもーじゃん? 団長だよ?
:バックスのガチャ、5回連続でスパレジェ (0.1%)引いた剛の者
:フォーチュン性は伊達やないで
[対戦結果]
[ルル:560枚 紅焔ちゃん:−430枚]
「ン゛ン゛ン゛ッ!?」
「運ゲーのように見えて、その実、確率や期待値も計算せにゃならんのか。奥深い」
「そんな要素ある!?」
「お互いに手札が見えてるから多少はできるぞ」
:約1000点差wwww
:なぜ初手で100枚ベット勝負に走らせたのか、コレが分からない
:↑その結果、団長はご祝儀BJキメて250枚のリターンであるwww
:その後もダブルダウン連続でキメてホックホク
:一方、お嬢は初手50枚ベットで爆死の模様
初手MAXリターンかますとかRPGの裏ボスかよ!? どうしよう。今後のゲームでルルに勝てるビジョンが全く見えない。今ならバックスでルルをチート通報したプレイヤーの気持ちが分かるぞ……。
「どうした紅焔アグニス。最初の勢いが見えないな。そろそろボイスレコーダーをポチる準備したほうがいいかね?」
「もう勝った気でいやがる! ぐぅう、腹たつー!」
「『ねぇねぇ、おねーたん! はやくあそぼーよー!』」
「めちゃ上手いのが余計に腹立つわ、そのショタボイス! ぜっってーそのにやけヅラ歪ませちゃる!」
・・・・・
・・・
・
はーい、あっと言う間に10戦目ですよ。4から9戦目はどうだったって? わざわざ紅焔ちゃんのDieジェストを聞きたいかね? 私は語りたくない。たまーに惜しい場面や白熱する場面はあったけど、結局全敗しました。なけるぜ。
:団長容赦ねえ……
:どっちかっていうと、普通に楽しんだ結果圧倒してしまった感はある
:争いは同じレベルの者同士でしか生まれないんだよ
:お嬢は泣いていい! 泣いていいんだ!
「もう最後か。宴もたけなわってところだな。最後は何にするんだ? 俺、またバ○ルドームやりたいな」
:ボールを相手のゴールにシュウゥゥーッ!
:超! エキサイティン!
:よく収録できたなwww
:実物より球がゴロゴロ出てくるから思ったよりもエキサイティンする
:団長マジでエキサイティンしてて可愛かったwww
「○トルドームは1日1回くらいがちょうどいいよ……ラストはやっぱりこのゲームです。配信の定番、ヨット!」
:やはり来たかラスボス
:アソブ配信なら外せないよな
:お嬢、完全運ゲーで完全試合くらい大敗してるけど、大丈夫?
:そもそも、もう勝ち越せないし
:勝ち越せないならアレがある
「そう。この秘策を使うときが来たぞ! ルル! このゲームに勝ったら100勝ね!」
「おお、これが噂の! そのセリフが聞きたかった! やられる側も感慨深いな」
:109ー0か……
:まだ『ブタのしっぽ』のほうが勝率あるんじゃ……
「で。そんな無茶な要求をするからには代償を受ける覚悟もしてるよな?」
「んが!? いやいや、こういうのって無条件ってもんじゃないの!?」
「こいつはエンジョイ対決じゃあない。プライドと名誉を賭した勝負なんだ。譲歩する以上、無条件では納得できんな。俺負けたくねーし」
「ごもっとも!」
「とゆーことで、このヨットとやらに俺が勝ったら、お嬢書き下ろしのポエムを俺が朗読する。お題は団員か紅民から安価取ろうぜ」
「…………はぁ!? ふざけんなし!?」
:間があったなw
:ルルの朗読ボイス聞けるならアリじゃね? とか思ってただろww
うーん図星☆
「ぜっってえ勝つ! ルールはちょっと複雑だよ」
5個のサイコロを3回振り、出た目で役を作って得点を競うゲームだ。サイコロ版ポーカーみたいな感じだけど、出たサイコロの目から自由に役を選べること、そして選んだ役は選び直しが効かない、というルールがゲームのポイントとなっている。
例えば、とあるターンで、1・1・1・2・2という出目を出してフルハウス(3つの同じ目と2つの同じ目が揃った役)を指定したとする。得点は出た目の合計なので、えーと……7点になる。その次のターンで2・2・2・3・3の出目をもう一度出した場合、フルハウスの役の条件は満たせてるけど、既に前ターンでフルハウスを指定しているので、別の役を指定しないといけない。この場合、合計は…………12点になるので、結果……5点もの損が生まれる。
このように出目による運は重要な要素なのだけど、役を指定するタイミングによって勝敗が大きく変化する駆け引き要素もあり、実に奥深くもリプレイ性の高いゲームとなっている。当然ア=ソブ配信では大人気コンテンツである。
「――とまあ、こんな感じ。紅焔ちゃんの手は1・1・1・5・6……1が多いから、紅焔ちゃんはエースにします」
「オッケー。ルールは把握した。俺の番だな」
「知ってるぞ。どうせ初手ヨットなんでしょ。紅焔ちゃんは世界一ルルーナ・フォーチュンに詳しいんだ」
『ヨット!』
「ほーらごらん予言通りですよ!」
「すげえなお嬢。占い師になれるぞ。50点だ」
:いや何に突っ込めばいいの? 「ほーらごらん」じゃねえんだワ
:台本みたいに6のヨットだすんじゃないwww
:「すげえなお嬢」団長もすごいよwwwwww
観照退@ジルフォリア戦記31巻発売中:世界一団長に詳しい発言は聞き捨てならねえっすね
:↑張り合うのそこかよセンセェwwww
:↑いい大人が喧嘩するんじゃねえwww
:対するお嬢は……11345 ゴミ手やな
「ま……まあまあまあまあ。最初くらい初心者に華を持たせないとだよね」
「お嬢、今日そのセリフ4回目。もうちょっと語彙を増やそうぜ。じゃあ投げるぞ」
「ルルが初手から理不尽かましまくるからですー!」
『ヨット!』
「ほらほらぁ! これだからビギナーズラック女は!」
:2手連続ヨット……しかも6だと……?
:すまぬ団長、流石に疑っている自分がいるわ
:これ、確率どれくらい?
:単純計算、6の10乗ぶんの1かな? だいたい6050万ぶんの1
:団長、宝くじ買った方が儲けるんじゃ?
「確率ゼロじゃなければいつかは出るもんだろ。とりあえずシックスにしとくか。6✕5で30点」
「はーい投げまーす。順番はやーい。えーい」
:お嬢の口調に覇気がねぇwwww
:64431……どっちつかずの手だな
:お、チョイスにしたか。もうちょい取っておいても良かったかも
:点が開いてまいりました
:さあ団長
『ヨット!』
「……………………」
「……………………ルル?」
「さすがの俺も反応に困る。チョイスにしとく。出目の合計だから、これも30か……次に同じ手が出たら不戦敗でいいよ」
「なんでルルが心折れてるんだ!? 紅焔ちゃんが折られそうなんだけど!?」
:3回連続で6のヨット……
:言葉が出ない
:団長? ホントにやってない?
:バグか?
:バグってるのは団長の運だろ
:デバッグモードかな?
雲行き怪しい展開になってしまってゲームの切り替えを考えたけど、さすがに次のルルのターンでは同じ手は出なかった。それでも66655のフルハウス理想手である。4ターン目時点でルルの得点は50・30・30・28の138点。対する私は50点にも達していない。エアホッケー以来の絶望感だよ。
とはいえゲームは順調に進んでいく。ルルの出目の大多数が5か6となっており、これはもうルルやってんな! というムードが視聴者にも漂う中、最後のターンが紅焔ちゃんに回ってきた。
点差はこんな感じ。
[ルル:199 紅焔ちゃん:160]
「はーい終わったァ!」
「続々とお題が投下されてるな。『ボーイ・ミーツ・ガール』か『甘酸っぱいファーストキス』で悩むぞ」
「拾ってんじゃねえ、そんな小っ恥ずかしいお題!」
:いやお嬢もけっこう良い手やで
:逆に団長が思ったよりも全然伸びてない
:団長は出目が456あたりに偏りすぎてる
:それはそれでおかしいけど
点差は39。逆転には50点となるヨットを出すしかないんだけど……残念! 紅焔ちゃんも、もうヨット出しちゃったんですよね! 残っている役はフォー(4の出目合計)だけだから、最大でも20点。負け確定じゃんよ。
「さあ投げるんだ紅焔アグニス。俺におじーちゃんボイスを聞かせておくれ」
……声、作っとくか。最期にドラマティックな大往生をキメたかったな。気分は崖っぷちだぜ。
よし、死のう! だがこの紅焔アグニス、タダでは死なん。気持ちでは主人公させてもらうぞ!
「せめて最後に一花咲かせるぞ! いけ、4のヨット!」
『フォーダイス』
「むあああっ! 4は4でも、惜しいぃ!」
「むはは! ウィニングランというやつだな! むははは――は?」
:お?
:いやこれは……
:喜べ紅焔アグニス。お前の望んだ世界が待っているぞ
[ルル:199 紅焔ちゃん:211]
「あれぇ!? 逆転!?」
「ボーナスで35も加点してるな。出た目の数も足して51点。ボーナスって、なんだ?」
「えーと……あぁーっ!
:ジャスト63点。ボーナス発動!
:うおおお!
:これは予期せぬ熱さ!
:勝ちを確信したとき、既に負けているのだ
本当に主人公展開しちゃったよ!? 次回作にご期待くださいしなくていいんだ。やべー興奮してきた。リスナー側で見たかったな。
「成る程。これがお嬢の戦略か。負けの演出を重ねることにより相手の慢心を炙り出し、最後の最後で油断という隙間に瞬撃を叩き込む――それも特大の切り札を添えて。お見事としか言いようがない」
「違――そう! その通りだよルルーナ・フォーチュン! まんまと踊らされよって! ざまあってヤツよっ!」
:これは良い茶番
:お互い遊んでんなぁ!
:団長、マジで言ってないか?
:否定できん……
「ざまあだと? それじゃあ俺からはこの言葉を送ろう。『俺のために演出どうもご苦労さん』だ」
:団長まだまだ射程圏内
:残ったのSストレートだもんな 15点加算で214になる。逆転。
:1〜4、2〜5、3〜6が段々で出たら終わり
:団長の運ならありえる
「俺はまだ1ターン残っている。3回もサイコロを振れるぞ、お嬢。3回だ。
「ま……負け惜しみ言われたって、点が全てだよ、ルル!」
「では見るがいい紅焔アグニス!」
『ヨット!』
「君の決死をかけた渾身が一瞬の輝きで終わる様を!」
『ヨット!』
「だが君だけがエンターテイナーではないんだよ! 勝利の栄光は俺がいただく!」
『ヨット!』
「………………おや」
「………………え?」
:え? は? マ?
:こんなことある?
:6、5、5のヨット3連打……で、無得点だと!?
:ちょっとトリハダ立ったわ
:150点相当が全部無効とか嘘やろ
:団長、チートツール切り忘れてますよ
:リアルチートツールは切れねえんだワ
「……私の勝ち?」
「だな。完敗だよ、お嬢……いや、今はアグにゃんだったな」
「アグにゃん……って、何のゲームだっけ」
「お嬢。現実はここだよ。戻ってらっしゃい」
:お嬢がもう配信モードを忘れておるww
:ワンゲームでヨット6回……お嬢の足して7回とか、明日俺らの誰かタヒぬんじゃね?
:これがYaーTaプロダクションに見出されしツワモノか
か……勝った気しねー……試合に勝って勝負に負けたってやつだよ……。
「……終わろっか」
「俺、ゲーム機修理に出してソフト再インストールするよ」
「そだね。何か対策だけでもしとこ。そいじゃみんなまたね。プロミネーンス」
「君の旅路に巡りの
:プロミネーンス!
:貴女の旅路に祝福を!
:なんつー虚しい結果なんだwww
:団長は修理じゃなくてお祓いしたほうが良くね?
:悪魔に魂売り渡してそうな豪運だったな
:敗因「運が良すぎた」
:神が降りてたな、この配信
:もう団長という(女)神がいるんだよなぁ……
:これだからヤタプロの配信やめらんねえわ
「あ、告知忘れてた。次のお休みに三人リレー形式で収益化記念配信しまーす」
「新衣装あるらしいから、よろしくなー」
Natica Ch.帝星ナティカ:よろしくお願いします!
:オイイイイイ!?
:さらっと重大発表してるんじゃねえwww
:エンディングカット中に言うなしwwwwww
:弾の補充しなくちゃ……
:さあ、おいくら万円のスパチャが蔓延するかな?
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