39話 ブレイジングシンガーお嬢
―― 紅焔アグニス ――
Agnis Ch.紅焔アグニス
【歌枠】愛と怒りと悲しみの応援歌で優勝していくぞ!【紅焔アグニス/Yaーtaプロ】
6.2万人が視聴中 チャンネル登録者数 112万人
#紅焔ちゃん燃焼中
「はい。そういうことで紅焔ちゃん怒りのカラオケ配信です」
:推しの記念配信とスケジュールがダブったか
:まだ売れてない個人勢だと名前出せないわな
:お嬢の推しめっちゃ気になる
:順当に行けば今週末は収益化解禁の記念配信になるのか
:気が早いけど備えはしといたほうがいいな
:おまけに収録も重なっているのか……かわいそうに
:シンデレラガールもつらいのう
:デビュー前まで見る側だったもんな
「推しの記念配信だからこそ生で応援したいんだけどね。紅焔ちゃんも応援される側になっちまったからにはファンの期待に応えたいんですわ」
:記念配信で歌枠取ったほうが良かったのでは?
「紅焔ちゃんの記念配信でも歌枠するよー。でも記念配信はお題フリーで、今日は応援歌縛りにしようかなと思ってる。もしも推しが聞いてるんだったら応援になればいいなって。紅焔ちゃんは紅焔ちゃんなりの応援を今日はします」
:エモい
:てえてえ
「こういうモヤッとした時は歌って発散してナンボですよ。でも緊張するなー。初回配信の十倍は緊張してる」
:普通逆じゃね?
:スタートの人数が違うから?
「見てる人が多いってのも理由あるけど、初回配信ってめっちゃ気合入ってたのよ。トップバッターだったし……憧れだった人の下で憧れのアイドルになれたって興奮のほうが強かったかな。
それに、あの時は崖っぷちだったんよ。紅焔ちゃんはYaーTaプロで活動したくてアイドルVtuberになったから、絶対成功させなきゃって。紅焔ちゃんはYaーTaプロを最初で最後のアイドル活動にするつもりです」
:アツいなお嬢……さすが炎の精霊
:そこまで追い込んでたのか
:あの紅蓮烈火も納得だわ
:気持ちが乗りに乗りまくったのね
「だからこそ緊張ですよ。今日って通常配信じゃん。毎回そんな崖っぷち精神で歌えるはずもないから、あの時ほど出来はよろしくないのよ」
:カラオケで毎回あのクオリティ出されたらプロだって裸足で逃げ出すぞ
:配信は初めてか? 肩の力抜けよ
:発散したいのに緊張で追いこんでいくスタイル
「そう、この配信は紅焔ちゃんの真価が試される場でもある! さあ、そろそろ行こうか紅民たち。推しへの愛と! 応援できない怒りと! 語感が良かったからノリで付けた悲しみの! ボカロ中心の紅焔ちゃんカラオケリサイタル開始じゃい!」
:ノリwww
:応援できない悲しみじゃないんかいww
:だが勢いは大事
「まあリサイタル言うてもカラオケですからね。友達と行く時と同じように、いつも通りを心がけるよ」
:一曲目はなんじゃろな
:Say、Hello World!
:ハロワ……ハロワじゃないか!
:働けってことですね分かります
:おっ、空気変わった。カメラ越しでも分かるわ
:スイッチ入ったな
:カラオケの歌枠だよね?
:あ
:これは
:まずい
見てるかな。聴いてるかな。
私の歌が届くといいな。
・・・・・
・・・
・
人に聴かせる曲を歌うには、まずは聴かせたいと強く想う心が大切である。まずは音程や技術を勉強しろという輩がいるが、私的には後回しでいい。気持ちよく歌っても誰も聞いてくれなくて悔しさを感じたら、君はもう立派な歌手だ。後は体が勝手に研究を始める。技術が体に叩き込まれる。心が歌へ勝手に傾く。私はそういうタイプの人間だった。
そんな歌い方を続けていると、カラオケのようなエンジョイな場でも歌に引っ張られてガチ歌唱となってしまうことがたまーにある。ヨーミやシズにも自重しろとはよく言われてたけど……まさかここまでやべー奴だったとは、私。
「えーと……みんな聞いてくれてありがとうね。大丈夫?」
:優勝
:脳内で5回優勝した
:紅焔アグニス……お前がナンバーワンだ
:ごめんお嬢、紅蓮烈火だけの一発屋だと思ってたわ
:お嬢、カラオケいつもこんなのなの?
「大体こんなもんかなー。ハロワってエモ曲だし気持ちが乗りやすいんだ。応援したいって気持ちは、めいっぱい込めて歌ったよ」
:友達いつもこんなん聴いてるのか
:毎回感情がぐちゃってそう
:しかも音程リズム完璧だし
:完璧以上だろ ところどころ微妙に細かなアレンジが入ってた 全部曲とマッチしてる
:お嬢、いつもどんな練習してるのさ
「練習方法だね。カラオケに入ってる曲なら、まずは100点目指して歌います。紅焔ちゃんの場合は100からがスタート地点ですね」
:「100点がスタート」知 っ て た
:いつもどれくらいで取ってるの?
「だいたい4、5回くらいかな。得意な歌だと2、3回で取れるときもあるよ」
:うん、もう驚かんぞ!(嘘
:たとえ絶対音感を持ってても100点は困難の極みなんよ
「あとは我が家にカラオケできる環境があるから、ひたすら歌って録音して聞き返すの繰り返しだね。トライアンドエアーってやつ?」
:ああ……
:エラーだよお嬢
:これさえなければ……
:むしろアリです! とても重要です!
:天は二物を与えず
ぐぬっ……反応したら負けだ。鋼の意思でスルー安定。
「それとなるべく感覚を忘れないよう定期的に歌い直して維持したり、良いと思ったアレンジ加えたりしてます」
:お嬢の場合、お嬢規格の採点台を作ってもらわにゃ正確な値が分からなそうだよな
:お嬢の歌は採点では測れなさそう
「紅焔ちゃんの歌っていうか、歌そのものが機械で測るのは難しいかな、と思ってる。歌の技術が上手ければ良い歌とは限らないからね。
紅焔ちゃんの持論なんだけど、いかに気持ちを歌に乗せられるかが一番大事です。その気持ちを伝えやすくするツール的なサムシングが歌の技術だと考えてます」
:意見一致だわ
:100点のカラオケよりも歌い手本人の生歌のほうが好きなのと一緒だよな
:いいなお嬢の言葉。歌に関する言葉にパワーがある。
:強い言葉を使うなよ 強く見えるぞ(真理
:超元気出たわ ありがとうお嬢
:ちょっと明日就活してくる
:明日を生きる元気が出ました。自殺なんてしてられない
「じ、自殺!? うんうん、そんなのするくらいなら紅焔ちゃんの歌聞いて元気になっとけ! 今なら出血無料大サービスだ! いやずっと無料だけどね!」
:今、私はスパチャを投げられない深い悲しみに包まれている
:悲しいね紅焔アグニス
:これ訴えてもいいのでは?
:エアスパチャで茶化す空気でもないな。訴訟
:なんで金を払えないんだ! こんなのおかしいだろ! 訴えてやる!
「なんで無料が訴えられにゃならんのだ! 紅焔ちゃん悪くないやろ!?」
不意にスマホのバイブが鳴る。ヨーミからの連絡だ。
『カラオケ行くたびに金を払いたくなった、あーしの言い分を理解したか?』
おおう……毎回この紅民たちのような気持ちだったんだね、ヨーミ。すまんかった。
:ええもん聞いたわ……
:これで天国行けるな
:明日も頑張れそうだよ、お嬢
「いやあの、紅民のみんな? まだ1曲歌っただけなんですけど? 満足して終わるとかないよ? 紅焔ちゃん、まったく歌い足りないからね?」
:あ
:そういえばそうだった
:ちな、何曲歌うのお嬢
「今日の予定? 10曲くらいはいけるんじゃないかな」
:こ ろ す 気 か
:今日寝られるかな……
:アグニシウムの過剰摂取にはご注意ください
:久しぶりに徹夜すっかー 2時間動画を5回見ればもう朝だ
:1日が48時間になんねーかな
Agnis Ch.紅焔アグニス
【歌枠】愛と怒りと悲しみの応援歌で優勝していくぞ!【紅焔アグニス/Yaーtaプロ】
12.6万人が視聴中 チャンネル登録者数 117万人
#紅焔ちゃん燃焼中
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