第30話 愚かな王子の悔恨1(マクシミリアン視点)
11歳の時、幸運なことに僕の婚約者がユリアに決まった。ヴィリーもユリアを好きだとわかっていたけど、これだけは譲れなかったから、ひどい兄だとは思うけど、気付かない振りをした。
元々、僕は王位継承権を放棄してヴィリーに立太子してもらい、王家から爵位と領地を下賜してもらってユリアとのんびり幸せに過ごしたいなんて夢を持っていた。本当はそんな馬鹿な振りをしなくても王位継承権を放棄できたらよかったんだけど、母上が納得しそうもなかった。それで考え付いたのが素行不良の振りをしてヴィリーのほうが次期王にふさわしいと周囲に納得させることだった。だからそんなに長期間放蕩の振りをするつもりはなかった。あまり長引かせるとユリアとの婚約破棄や王族の地位剥奪まで行きかねないからだ。
素行不良王子の計画は、オットーにだけは打ち明けたが、公爵夫妻やユリア自身には言わなかった。公爵夫人とユリアは思っていることがすぐに顔や態度に出てしまうからだ。オットーと公爵は王家の影も真っ青のポーカーフェイスだけど、強面の公爵にこの計画を打ち明けるのは怖かった。今思えば、それは愚かな計画だった。
そのために家庭教師や剣術の授業をさぼったり、架空の女遊びの噂を流したりした。もちろん、女遊びは振りだけだった。夜会に出席すれば何もしなくても令嬢がわらわらと寄ってくる。その中でお忍び外出や観劇に誘ってきた令嬢達と同時に出かけた。だからほとんどの場合、2人きりではなかったけど、2人きりじゃないことに不満を抱く令嬢達に押し切られてたまに2人きりで外出した。でも誓って何もしていない。一応礼儀で手にキスをしたり、エスコートしたりしただけだった。
娼館通いの噂も流したが、実際に行っても性行為はしていない。ユリアの兄のオットーにもそう伝えてあった。僕が初めて身体を重ねあって愛し合うのはユリアと心に決めていたからだ。でもその決意を覆すようなことになってしまうとはこの時は思っていなかった…
第一王子派が不利な状況に対して母上が実家の派閥を使って予想外に長く粘り、僕が16歳になってもまだ王太子は決まっていなかった。そんな焦りからあんな怪しい女を味方につけようとする失敗を僕は犯してしまった。
フェアラート男爵令嬢アナと名乗ったその女は、夜会やお茶会で僕に接触するようになった。あの女は鋭くて、娼館通いと令嬢達とのデートがただの振りだけだとか、どうして僕がそんな素行不良の振りをするのかとか、なぜか気づいていた。娼館へ行く振りも、令嬢たちに気がある振りももうしなくていい、第一王子派の力を弱めてヴィリーを立太子させる流れに持って行くいい計画もあると言う。自分の気持ちに反することをやってきて心が擦り減っていた僕には、おろかにもこれが魅力的な提案に思えた。
何度か夜会でアナのダンスのパートナーをつとめたり、城下へお忍びで一緒に出掛けたりすると、アナと僕の噂が社交界に流れるようになった。本当はアナと2人で外出するのは避けたかったのだが、計画の実行にはこうしたほうが手っ取り早いとアナに説得されて渋々了承した。オットーにはユリアへのさりげないフォローをお願いして、時々贈り物と手紙をユリアに送るようにしておいた。だけど、いつしか正気を保てる時が少なくなって贈り物と手紙を送る間隔があいた。更にその頃は気付けなかったのだけど、アナが僕の手紙や贈り物をオットーの手に渡らないように都度都度細工していた。
--------------------------------------
マクシミリアンは、今はまだこんなに反省できるほど正気になってませんが、治療が進んだ頃には後悔できるほど正気に戻れる時があるという感じです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます