ルーンフォークの銃手 #1

火に当たりながら、4人は食事をとる。


ドワーフの神官戦士は口の中に押し込むようにどんどん保存食を平らげ、水を飲んでから立ち上がった。


「私、周り見てるから。みんなはゆっくり食べててね」


ルーンフォークの銃手も、それに続こうとする。


それを優しく制された。エルフの魔術師に。


「ここは、お言葉に甘えましょう」


キャベツの漬物ザワークラフトに、香辛料の効いた干し肉、そしてドライフルーツ。

味気ない乾パンに旨味が加わる。


それにしても口の中の水分がとられる。

喉が渇くので、水を飲みながらゆっくりと噛んでから飲み込む。


(なんでこんなに美味しいんだろう?)


栄養カプセルと、まったく違う。


人造人間ルーンフォークの彼女は、栄養カプセルがあれば1粒で1週間は飲まず食わずで活動可能だ。


食事は効率が悪いという価値観が、彼女の頭の中には組み込まれていた。


それなのに、製造機ジェネレーターから発見されて最初に口にしたのは、温かい豆のスープだった。


焚火を挟んで彼女の前に座る、エルフの魔術師と。

当時彼の仲間であった戦士が作ってくれたのだ。

戦士の頭には小さい角があった。

2人ともエルフの集落の出身で、幼馴染おさななじみだったらしい。


今は、いない。

原因は彼女だった。


2人が集落へ彼女を預けようとした時に、閉鎖的な考えの長老たちが難色を示したのだ。

エルフの魔術師は「仕方ないですね」と、彼女を連れて冒険者になることを決めたらしい。

忌み子の戦士は「ここの連中はずっとこうだったな」と言ったきり、忽然と姿を消した。

魔術師にも行方は伝えなかったらしい。


「もしかしたら帰ってくるかもしれない」と眠りについて、朝に毎日裏切られる。

”寂しい”という感情は、最初はなかったのに覚えてしまった。


今背中を向けて、周囲をせわしなくキョロキョロ見ているドワーフの神官戦士も。

隣で口についた乾パンの食べかすを拭いている人間の少年。


いつかいなくないのだろうか。

寂しいという感情はこれからもずっとたまっていくのだろうか。


「その不安が、”愛おしい”という感情ですよ」と、エルフの魔術師は教えてくれた。

以前、不安で落ち着かなくなった時にエルフの魔術師にそのことを話した。

彼もいなくなった時の事を、想像してしまった時だ。


「私のことを”愛おしい”って思ってくれているのですね?

 なんだか自分で言うのは、恥ずかしいですねえ」

と朗らかに笑う。


「私はずっと愛おしかったのですけどね、あの集落が。

 でも思い切って、集落を出て良かったです」

「集落ではなく、世界というのは、とっても愛おしいものですね。本には載ってなかったです。

 実際に自分の目で。見ないと、聞かないと駄目ですねえ」

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