エルフの魔術師 #1
午前3時。
三日月と星達が、闇に染まったハーヴェスの空と大地を照らす。
虫の鳴き声と優しい光に包まれた農村のあぜ道を歩く2人。
身長差がある。
遠くから見たら親子に見えるかもしれない。
ドワーフの神官戦士とエルフの魔術師の2人は、農村のまわりをぐるっと回ることにした。
人間の軽戦士、ルーンフォークの銃手はすでに見張りの任務を終えて村長の家で眠りについているはずだ。
ガシャガシャと音を立てながら、ドワーフの神官戦士が歩く。
首はせわしなく左右に動いていて、それに合わせて頭の上に作られたお団子もうごく。
(村の人が目を覚まさないと良いけど・・・)
後ろを歩く魔術師から見ていると、その様子が愛らしいので思わず笑ってしまいそうになるが。
(それは流石に失礼でしょうね)
エルフの魔術師は大真面目な彼女に気を使って、あくびのふりをしてごまかした。
「あ・・・眠いの?」
おや、あくびが気付かれたらしい。
「昼間は魔法、すごく使ってたものね。もうすぐ夜明けだし先に帰ってていいわよ?」
彼女は生真面目で優しい。
「大丈夫ですよ?」
「・・・そう?」
「ええ」
「・・・」
何かを言いかけたが、再び彼女は鎧を鳴らしながら歩き始めた。
自分とは違う理由で集落を去った、
生真面目で優しい。
装備など見る限り、神殿で正規の訓練を受けている神官戦士ではないだろうか。
盾に刻まれたシンボル、鎧の端々の装飾などは
「何故・・・冒険者になったのですか?」
途端に勢いよく、神官戦士が振り向く。
「わ!」
鎧の重さに振り回されて少しよろめく。
慌てて手を差し伸べるが、制された。
「大丈夫大丈夫!ごめんね、新しい鎧に慣れてなくて・・・」
今度は何かを言いかけて・・・そして話した。
「神殿だとさ。
おや。
「高司祭の娘なの。私」
夕方の村長とのやりとりを思い出す。
調査隊の話。
あの辺りの権限、采配についての疑問が解消された。
「実力はそうでもないのに、気を使われるのよね」
その後ろめたさがありつつ、ああいう時に役に立つのは
「(その立場が)役には立つのよ?それで話は進むし、喜ぶ人も沢山いる・・・」
でも、そういうことじゃないでしょ?と、表情が語っている。
「色々うまく話せないわ、自分のコト。自分で自分を利用できないのよ」
腰に手を当てる。
愛らしい仕草に笑わないようにしないと。
もう1度あくびをしようか。
「でも、そっか。私の事を知らない人ばかりと今後は仕事をするのよね・・・」
「でも、今回の任務でいろんな人と仕事をして分かったことがある」
「出来る事がすごく広がるのね?」
「組織にいたら、わからなかったな・・・」
「ん?私ばっかり話してない?」
「あ・・・あなたはどうなの?」
「何で冒険者になったのよ?」
こちらからの返答を待たずに、次々に出てくる言葉。
テンポこそ違えど、やはりあの頃と。
「ずるいなお前は」と、
「話したくなる」
(でも、楽しそうでしたよ?話しているとき)
一瞬、顔が浮かび消える。
それに話しかけるなんて。
思い出に苦笑してしまった。
目の前にはドワーフの神官戦士。
「何で冒険者になったのよ?」
(冒険者になった理由か)
理由はある。でも、どうするかは決めていない。
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