第50話 3-12
「アン様、先の戦闘で捕獲した昆虫型巨大生命体の生身や死骸の分析が終わりましたにゃ」
あの戦闘から二日が過ぎたグライシア時間での朝のこと。
私の市庁舎オフィスに科学者ゴーレムのメフィールちゃんがやってきてそう報告しました。
椅子に座っていた私は立ち上がりながら、
「ご苦労さま」
そう言って労いました。
さて、気になることを聴いてみようかしら。
「で、分析の結果は?」
「その事にゃんですが」
メフィールちゃんは他には誰も居ないのに声を潜めて応えます。
なんでしょうか?
「このグライシア-Ccに生息する他の動植物と遺伝子レベルで比較してみたのですがにゃ、昆虫型巨大生命体は、この星の本当の原住生物とは全く異なる遺伝子構成を持っていましたにゃ」
「つまり」
「あの昆虫型巨大生命体は、この星の生物ではなかったんですにゃ」
やはり、そうなのね。あの特異性からしてみれば、そうではないかと思っていたけれども。
メフィールちゃんは言葉を続けます。
「死骸などを研究所に運び込み、分析調査した結果、昆虫型巨大生命体はある種の生体型ロボットであり、新型の甲虫型は生物的な自己進化ではなく、機械的な進化によるもので誕生したものだと思われますにゃ」
「やっぱり、そうだったのね」
私は首を縦に振りました。
それならあの戦闘兵器ぶりには納得がいきます。短期間であっという間に進化し、こちらの兵器に適応する生命体なんて、普通の生命体ではありえないし。
しかしそれなら、対応策はあるというものです。
どうしてそんなものがこの星に来たのか、どうやって彼らが生み出され、進化するのか、その目的はなんなのかなど、謎は多く残されています。
けれども正体の一環が明かされた以上、それに弱点がわかった以上やりようはいくらでもあります。
私はメフィールちゃんにニッコリと微笑みながら、言葉を続けました。
「まあ、殺虫剤が出来上がった以上、対応策はいくらでもあるわ。あとはこちらの戦力を充実させて、またあのような大群が来ても対応できるようにすることね。あるいは、こちらから打って出て、駆除することも行わないと。これからも研究をよろしくね」
「はいですにゃ」メフィールちゃんは静かに頭を下げました。「詳しいレポートをそちらに転送しておきますにゃ。対応策の案も提示しておきましたので、そちらもご参考にしてくださいにゃ」
そう言うなり、私の目の前にファイル状に重なった多数のホログラフィックスクリーンが現れました。
「では、後で読んでおくわね」私はそう応えると、レポート群を保存フォルダへと収納しました。「また何かあったら報告を頼むわよ。それでは、下がっていいわ」
「了解しましたにゃ」メフィールちゃんはもう一度頭を深々と下げました。「それでは、失礼いたしますにゃ」
彼女がそう言うなり、白衣姿の彼女の体は立体ウィンドウが閉じられるように消えていきました。
そう。彼女とのやり取りはホログラム通信だったのです。
さて。
敵を撃退できた。街や工場などの安全は守られた。
これからいよいよ、私の宿願であるロケットの打ち上げに取りかかれるわ。
私は窓の外を見て、空を見上げました。
グライシアのいびつな月が、青空の中白く浮かんでいました。
あの月に手が届くのも、そう遠くはないでしょう。
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