第28話 2−10
その時、これで何度目だろう。金髪ウェイトレスゴーレムちゃんと配膳ロボットがあたし達のテーブルの前にやってきて、
「お待たせいたしました、いちごのショートケーキとブレンドコーヒー二セットでございまーす。こちらお下げしてよろしいでしょうか? それでは、ごゆっくりー」
アンとアルカちゃんのケーキセットをテーブルに置き、あたし達が食べたケーキなどの皿を配膳ロボットに片付け、そしてお辞儀をしてから奥の方へと下がっていった。
目の前に並べられた、丁寧に作られているいちごのショートケーキを見てアルカちゃんが、
「うわぁ〜、本当に美味しそうですよこれっ! 食べていいですかっ?」
「いいわよ」
「それじゃ、いただきますっ」
心の底から嬉しそうな声でそうアンと言い交わしながら、ナイフでケーキを切り、口に一口頬張った。
何度か口で噛み、飲み込んだ後、
「これ、本当に柔らかくて甘いですよっ! スポンジケーキは本当に口当たりが良いし、クリームはなめらかで甘いですよっ! 本当に美味しいですねっ。これっ!」
どこかのグルメリポーターのように早口でまくし立てた。
「そんなに気に入ってくれたんだ〜。アルカちゃん、良かったわね」
サーティが彼女のレビューを聞いて、にししと歯を見せて笑った。
あたしも同意見よ。でもあまり度々来られちゃうと、この静かな環境が気に入っているあたしとしては、ちょっと迷惑かも。
ちょっとため息を付き、あたしが目を細めたときだった。
すぐ近くから、小さな歌声が聞こえてきた。
Amazing grace! How sweet the sound!
That saved a wretch like me!
I once was lost, but now I am found;
Was blind, but now I see…….
その歌声は、アンの口から流れていた。
あたしとサーティが口を揃えて言った。
「Amazing Grace《アメージング・グレース》……」
そしてあたしは言葉を続ける。
「これってイギリスのゴスペルですよね。たしか、元奴隷商人の牧師が遭難して助かった時の経験をもとに作った曲だとか」
「ええ、作詞したジョン・ニュートンが自身が経験したときのことが元よ。貴女の人種の日系のコロニーなどでは結婚式のときに歌われることもあるけど、本来は葬式のときに歌われる曲よ。そして、船が航海を終えて港に着くときにも」
その歌詞は、訳せばこんな風になるだろうか。
素晴らしき恩寵! なんという甘い響き!
私のようなものでも救ってくださる!
かつて無くしたが、今は見つけた。
かつては盲目だったが、今は見える……。
嵐のときに遭難し、流された荷物が穴を塞いたことから沈没を免れた船に乗っていた奴隷商人が悔い改め、創ったという曲。
それを今、なぜ彼女は歌ったのだろうか?
心の奥に湧いた疑問を問いかけようとする前に、
「ねえねえねえねえアンさんー、なんでそんな曲歌ったのさ〜?」
あたしの気持ちを代弁するかのように、サーティが問いを投げた。
アンはその言葉のボールに、また少し顔を背けながら、
「そうね。歌いたい気分だったのよ。ちょっとね」
そう苦笑しては、フォークを持ち、ケーキに手を付けた。
また、嘘をついた。
あの歌には、なにかあるはず。
考えながらあたしは窓の外を見た。
平和な、造られた街がそこにはあった。
私のようなものでも、救ってくださる、か……。
ここは「わたしのようなろくでなしでも」「わたしのような罪あるものでも」と訳されることもあるけど。
そこであたしはふと思った。
彼女には、どんな罪があるのだろうか。
同時に、こうも思った。
そして、神は
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