第5話 1−5

 さて、始めましょうか。

 私はコントロールしている遠隔操作型ゴーレムを舞台役者のように、授業を行う教師のように、あたりをぐるりと見渡す仕草をさせ、こう告げました。

「さて、みんな揃ったわね。とは言っても、人間は二人しかいないけど」

 声をかけた私に対して、サーティはニコニコとしていて、チヒロは相変わらず警戒した表情のままです。

 対象的な二人だわ。

 ともかく、話を続けましょうか。

「私はこの移民船ノア三一四に搭載された初期植民星用OACアン〇一型。正式名称はアン〇一ーN三一四型だけど、それはいいとして。改めまして、サーティ・ワンさんと、チヒロ・ヤサカさんね」

「はーいっ」

「ど、どうも」

「先程部屋で少しほどお話させてもらったけど、お二人、特にヤサカさんには多少蘇生時の記憶障害があるみたいなので、ここで詳しい状況説明をさせてもらうわ。いいわね?」

 私の問いかけに、二人は首を縦に振ったわ。サーティは強くブンブンと二回ほど。チヒロは静かに一回、コクリと。

 肯定ね。

 じゃ、本題に入りましょうか。

 私の遠隔操作型ゴーレムの人工声帯を震わせて、発声しました。

 同時に、私のレンタルボディの後ろにあるスクリーンに、銀河系の星図を表示させたわ。

「じゃあ、現在のこの銀河系の状況や、今私達はどんな状況下に置かれているか、これからどうするべきかなどについて説明するわね。説明は私と」

 という声と同時に、私のそばに私のHIRと同じ銀髪に赤い目、そして白い肌の、様々な人種の特徴を平均化させたような美少女のゴーレムちゃんが姿を現しては、ペコっとお辞儀をしました。

「わたし、お二人をサポートするゴーレムのアルカがお手伝いさせていただきますねっ」

「アルカちゃん、よろしくね」

「はーいっ」

 そうやりとりした後、一つ咳払いをして、私は説明を始めたわ。

「現在、太陽系連邦は星系連合と呼ばれる星間政治経済同盟に加盟していて、その協力下で発見した殖民星へ殖民、移民を行っているわ」

「……」

「しかし、太陽系連邦や星系連合のイデオロギーなどを気に食わない異星人が私達を敵視し、戦争を仕掛けているの。その一つが、ウォルラ人。彼らが、私達の船を襲ったのよ」

「アタシたちの戦争相手ね。そして、アタシが生まれた理由」

「……」

 サーティの言葉に、チヒロはちらっと彼女の方に目を向けました。

 少し気にいらないというように。

「ウォルラ人は他の異星人とのコミュニケーションに形態クローンと呼ばれる別の異星人を模した人造人間を用いる、正体や生態などが不明なところが多い宇宙人よ。最近、地球人を極度に敵視、差別して、戦争を仕掛けてきたわ。その理由も今のところ不明ね」

「アイツら、相変わらず卑怯もんよねー。色々な意味で」

「で、そのウォルラ人に攻撃された私達の移民船はノア三一四。本来は殖民星ニューオーストラリアへ単艦で向かっていたの」

「そこがアタシの本来の赴任地だったのよねー」

「本来は移民船は船団を組んで航行するのだけれども、なにか特別な事情があったのかしら。そうやって単独航行しているところをウォルラ人に狙われたようね」

「はい、質問良いですか?」

「なんですかヤサカさん」

「なんで通常移民船団で航行する移民船が単独航行していたわけ?」

「さあ? 私はそう命令された移民船に搭載されただけですし」

「理由は不明ってわけかー」

「そこ、明るく一人で納得しない」

 チヒロとサーティが漫才を繰り広げていますけど、まあ聴いているようですし、説明を続けましょうか。

「私達が墜落した星は地球から千光年ぐらい離れた星グライシア星系の第四惑星。いわゆる超地球型スーパー・アースタイプ惑星よ。事前の探査では、正体不明ながらある程度知性を持った原住生物がいるらしいため、各星間国家や勢力はここを不可侵星系としてお互い黙認しあい、殖民を避けていたの」

「そんなものいるんですか?」

「いるみたいですよっ。詳しいことはまだわかりませんがっ」

「アルカちゃん、補足ありがとう、でね。また、グライシア星系は星系外縁の彗星と小惑星オールトの雲が厚いため、探査もあまり行われていなかったの」

「ふむ」

「それでも星系は多くの惑星や衛星が存在し、様々な資源が豊富なのがわかっているわ。この点においては幸いだったわね」

「……」

「……」

「グライシアの三重太陽のうち、最も外縁を廻るC星の第四惑星グライシア-Cc、その北部にある大陸の一つに私達は墜落したわ。人類の乗組員及び乗客の生存者は貴女達二名だけ。これが基本的な情報であり、状況よ」

「オーケイ、わかったわ」

「はい」

 そこで私は言葉を切り、一つ咳払いをしました。

 二人の表情が引き締まります。特にヤサカさんは。

「改めて言いますが、私はそのノア三一四に移民用ACとして搭載されたアンと申します。正確には、アン〇一型オーバーシンギュラリティACね。アンと呼んで頂戴」

「はーいっ」

「わかりました」

「本来は移民船に搭載されて到着時に殖民星に降ろされ、そこの殖民都市や宇宙ステーションなどの初期管理ACとして活動した後、本格的な移民団の到着と同時に本格的な管理用ACなどと交代してその役目を終えるのだけれども……」

 そう告げたあとで、私のHIRは二人を見回し、言葉を続けました。

 宣言を告げる女王のように。

「こうなってしまった以上、この地で本格的管理ACの代わりとして、貴女達をお守りいたします。そして貴女達が希望するなら、貴女達をニューオーストラリアかどこかか、地球へと送り届けるわ」

「それは約束できるんですか」

「約束するわ。ヤサカさん。この身に誓って」

「でも、どうやって……」

 チヒロの問いは当然の疑問でした。彼女の黒髪が斜めに傾き、揺れます。

 同時に彼女の顔に陰が走りました。

 これは……。

 本当に帰れるのか。いや、本当は地球には帰りたくない、とでも思っているような陰りね。

 そう、そうなのね。

 それなら。

 彼女の想いに対する私の応えは。持っているわ。

 そして応えを告げたわ。

「ひとまずは、貴女達が生きるために移民船に残っているもので自動都市や工場などを造るわ。それからこの星の資源を手に入れ、新しい工場などをさらに作っていって、様々なものを作って生活していく」

「生活……」

「そして地球との通信を回復させ、貴女達を救出してもらうか、宇宙船を作って地球に帰るか。できることはそれぐらいしかないわ。あるいは」

「あるいは?」

「あるいは、このままこの星に居続けるか、ね。サーティさん」

「そうするしかないかー」

「ですね」

 現状、そうすることしかないため、二人はうなずくしかありませんでした。

 チヒロの肯定は、最後の言葉に対してのものに思えたわ。私にとっては。

 まあ、そうよね。

 家出同然でこの船に乗り込んだ彼女にとっては。

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