第4話 1−4
彼女たちを実際見た時、少しばかり罪悪感という「感情」が生成されたの。
でも。利用しないと私の復讐は完遂できない。だから利用するの。
それに護民は私のもともとの使命の一つよ。もし彼女らが地球に帰りたいと言うのなら、宇宙船を造るなり救援を呼ぶなりして、地球に送り届けなければいけないの。
だから、復讐は別にしろ、彼女たちを生かし続けなければいけないの。そういう義務が、私にはあるのよ。
それは私のプログラムに刷り込まれているの。コードとして。
今。
私が操っている長髪の銀髪、赤目に浅黒い肌に中東人顔の女性型ヒューマノイド型インターフィース《H I R》は、地上に墜落したノア三一四のブリーフィングルームにいるわ。
広さは学校の大きめの教室ぐらい。船員が会議したりするには丁度いいぐらいの大きさよ。二人に状況を説明するには十分過ぎる広さね。設備も揃っているし。
そこで、私は私が蘇生させた二人の少女と相対していたの。
私は壇上に立ち、彼女らは室内にある机付き椅子に座っているわ。
向かって左側の席に座っている黒髪の東洋人──もっと細かく言えば、日系人──の少女は、その傍らに四足に立方体の頭部を載せた非ヒト型ロボット──UARを三体控えさせていたの。
あれは彼女のサーバロボット達。彼女のナノマシンで強化された脳とネットリンクしているのよ。
彼女のバックアップ情報や情報空間などが収納されているの。
さっき蘇生させるときに役立ててもらったわ。彼女には無断でね。
ブリーフィングルームには、その他に彼女らを各部屋からここに連れてきた少女型HAR(ヒューマノイドタイプ・AC搭載・ロボット)達が居て、部屋のあちらこちらに待機していたわ。
ブリーフィングのときには、彼女らもアシスタントとして説明に加わってもらう予定よ。
部屋はやや傾いているわ。宇宙船自体が傾いているからね。
明かりは付いているわよ。推進用のエンジンは壊れていたけど、艦内の電気や空気などを作る発電機などは生きていましたからね。
でも、壁や天井、床のあちらこちらにはひびや歪みが入っていたし、部屋の備品もあちこち散らばっていて、墜落時の衝突の凄まじさを物語っていたわ。
これでもブリーフィングのためにHAR──私のメーカーではゴーレム、と呼んでいたわ──が掃除をしたのよ。
偉いですね。
まあ、私が命令したからなんですけど。
座っている二人の印象は、それぞれで異なっていたように見えたわ。
向かって右側に座っているサーティ・ワンという地球人の白人の美少女。彼女は、金髪のボブカットという髪型に似合わず、作業用軍服を着込んでいるわ。というか、艦内着に付着しているナノマシンに情報を与えて、軍──星系連合宇宙艦隊陸戦隊の仕様にしてあるのね。見て分かる通り、彼女は遺伝子操作されたヤングソルジャー。戦うために生まれた人間よ。
普通はこういう人って、命令に忠実な、どちらかというと生真面目な性格をしているのだけど、この娘はあちらこちら見ては隣の少女やHAR、そして私に視線を向けてはニコニコ笑顔を向けてる。
なんかやりずらいわね、この子。
それに対し左側に座っているチヒロ・ヤサカという、同じく地球人で日系人の美少女は、同じデザイナーズチャイルドで不老不死化処置を施されていても、どこか生真面目過ぎるきらいがあるように見えたわ。
素の艦内着のまま、というのも、それが伺えるわ。
生真面目過ぎるというか、どことなく緊張、というか、何が何だか分からない、と言う風にも見えるわ。
それもそうね。見知らぬ星で、見知らぬ女の子、それに見知らぬAC達とで、これからどうなるのか不安なのでしょうから。
その不安を解くのも私の仕事よ。それをこれからのブリーフィングで行うのよ。
さて。
まずは二人に今の状況とこれからやることを説明しないとね。
今どこにいるのか。ここはどうなっているのか。なにがいるのか。どんなところなのか。etc。
色々あるわね。
それを伝えたら、次は何をやらなければならないか、ね。
最終的に選択肢は三つあるのだけれど。
その前にまずは生きてゆくために、今あるもので街や工場や農場などを作って色々なものを生産するわ。
それからこの星にある資源を使って街や工場などを大きくして、その選択肢を実行するためにも、ロケットを作って人工衛星を打ち上げるのよ。
ここまで来るのに一苦労だけど、これができてようやくスタートね。
ロケットを打ち上げることができたら、衛星や資材を次々と打ち上げて、宇宙にも工場などを作って、宇宙船などを作ったりしたいわね。
ウォルラ人が攻め込んできたりしたときのための、迎撃体制は必要ですしね。
で、それからの選択肢は三つ。
一つ目は、宇宙船を作ってこの星から脱出し、地球に帰るか。
当然、超光速航法可能な宇宙船を作らなければいけないので色々面倒だけれども、目処はあるわ。
最悪、このノア三一四に搭載された超光速機関を修理して新造した別の宇宙船に積み込んでそれで脱出すればいいし。
問題なのは、もしウォルラ人がやってきた時にどう脱出するか。それが問題よね。
時間が経てば経つほど、脱出は困難になるし。
選択肢その二は、地球などとの通信をつなげて、宇宙艦隊の救援を待つか。
この選択肢は、その一に比べればかかるコストは安いわ。
これも最悪ノア三一四の通信機を修理して、軌道上の衛星を通じて超光速通信などを行えばいいし。
しかしこのケースもウォルラ人が攻め込んできた時、どう対応するか。
期間と方法によっては、その一よりもコストが掛かることを覚悟しなければならないわ。
そして最後の選択肢は。
この星に、居続けるか。
脱出することも助けてもらうこともせず、ただこの星に居続けることを選ぶか。
それは不可能ではないわ。事前の探査では何やら変な生き物が居ること以外は知的生命体は居ない星だと言うし、資源も広さも不老不死の人間が二人とOACとゴーレムだけの私達なら、何十年、何百年、いえ何千年と生きてゆける。
でもそのためには二つの選択肢よりもより防御を固めるか、あるいは息を潜めてじっとやり過ごし続けるということをするしか無い。必然的にコストも高くなるわ。
前者はともかく、後者を許してくれるのか。
そもそも。
この星に居続けることを二人が許してくれるのか。
でも。これを私はやりたい。
やりたいのよ。やらなければいけないのよ。
私の中の何かが、そうしたい、やらなければいけない、と語りかけてくるのよ。
あの二人にそれをわかってもらえるのか。
それから。
私はウォルラ人に復讐をしなければならない。
死んだノア三一四の乗組員と移民の敵を取らなければいけない。
あるいは、ウォルラ人との戦争で死んだすべての地球人類の敵を。
私は敵を取らなければいけないの。
復讐を行うための何かを計画し、造らなければいけないの。
例えば、恒星間超光速弾道弾のようなものを。
そのためにも、この二人の少女には大いに働いてもらわなければいけないわ。
サーティには、軍事面の兵力の指揮や戦闘などを任せてもらわないと。
チヒロには。
彼女の持つ進化した人類、ホモデウスとしての頭脳を利用させてもらいましょうか。
具体的には、チヒロの脳と私のサーバをネットリンクして、彼女の「人間らしさ」を私達の演算に利用させてもらうの。
私達OACやゴーレムなどは、光と量子の関係などを演算に利用する光量子演算機や人工ニューロンや化学変化などを思考演算に用いた生体型演算機、あるいは無数のナノマシンを演算に利用するナノマシン型演算機などの組み合わせで動作するの。
で、もっとも人間に近い仕組みを持っているのが生体型演算機よ。
私も生体型のゴーレムを作ることでその脳を演算に利用するけれども、やはり人間の脳の「ゆらぎ」「発想力」や「創造力」は、時にシンギュラリティを突破したACを超えるものがあるわ。
例えば地球の二十一世紀初頭から後半に活躍した日本の将棋界の伝説の将棋マスター、ソウタ・フジイのように。
私の復讐を達成するためにも、二人にはここに居て働いてもらわないと。
だから、ここに居続ける選択肢を選んでもらうためにも、私も働かないと。
彼女たちにとって快適な世界を創って、居続けてもらう。
それが私に課せられた
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