第3話

「そうだ吉住さん、この近くで変な人見ませんでした?」ビールにレモンを入れたカクテルのクラーラを吉住の前のカウンターに置きながら、緑男の話したくてしたくてしょうがなかった花は出勤前の顛末の話をし始めた。


「そこってこの近くだよね、見なかったな。うちの店にも来なかったと思うし」

クラーラを一口呑んで目じりが下がって口角が上がった吉住は「バラエティのドッキリとかじゃない?そのうち花ちゃん出てたりして」と、私と同じような考えを笑顔でそういう吉住の顔を見るとそうなのかなとも思うが

「でも撮影の人たちいなかったし、ああいうのって終わった後『ドッキリでしたー』みたいなのするじゃないですか」

「そもそもドッキリしたわけじゃなくて、どちらかというと不信者っぽくて」


その横で絹は二人組のお客さんを前に「ごゆっくりどうぞ」と赤いカクテルをカウンターにサーブした。

この所作が花は好きだ。

絹の時だけは置くのではなく、サーブすると言いたくなる。少し手前に置いたコースターの上にグラスを置きグラスの底を指で添え、すっと前に押し出す。水面は一切波打たない。一拍置いて手を放し、ごゆっくりどうぞ。かっこいい。


顔をすっとこちらに向けた絹は微笑みを残したままで

「その緑の人なら平気だと思うな、もう当分来ないと思うし」こともなげに言った。

「え、絹さん知ってたんですか、なら早く教えてくださいよ」

「花ちゃんから聞いたの今だったし」それもそうでした。

「で誰ですかあの人?」

「名前とかは知らないけど」

「今度さやかちゃんに聞いてみたら」さやかちゃんの友達って感じはしないですよと反論しつつ、今度会ったら早速聞いてみようと花は思った。


ところでなぜさやかちゃんが知っていると絹さんは思ったのだろうと疑問に思い聞いてみると

「ふふふ」と茶目っ気のある笑顔で絹はこちらを見つめ、

「前にさやかちゃんも同じような恰好で出勤してきたことあったのよ」

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