第6話
目の前にいる植物。
基本的には昼間見た植物と変わらないが花を支えている茎が両手を広げたくらいで、手のように左右から二本の蔦が生えているのがまるで木のように巨大化している。
根の部分は蠢いていて、ダンゴムシを裏返した時の感覚に似ている。
正直とても気持ちが悪い。
意思を持たず、どこか歪に感じる生物。
一体どこから現れたのか。
すると、植物が意識を取り戻したかのように体勢を起こした。
ダメージは受けているようだが、勇者であろうと竹刀で倒すのは難しいか。
どうしたものかと、横目で床に倒れ込んでいる三人を見つめた。
敵の攻撃を躱しながら、背後に攻撃が及ばないように闘う。
今の状態で果たして出来るのだろうか。
舌打ちでもしたい気持ちになった。
「魔王様、他の者は私が……」
「玲!」
勇紗に気絶させられた氷椿が、眉間に皺を寄せながら身体を起こした。
「動けるの?」
「この失態は必ず返上致します」
「頼んだわよ」
こうも必要な時に頼りになるのは昔から変わらない。
ふらつきながらも引蛇と印童を背中と脇に抱えると、緩慢な動きで教室の隅へ移動する。
魔物の時だったらいざ知らず、その細腕でよく二人も抱えられるなと思う。
若干、引蛇は雑に引きずられているが。
あ、落とした。まあ、いいか。
「玲、これを」
座り込んだ氷椿に、勇紗が使用していたアルベルトの竹刀を放り投げる。切れなくてもないよりはマシだろう。
これで背後の憂いはなくなったと、再び動き出した植物へ視線を戻した。
後は、こいつを倒すだけ。
正直、魔力が使えないこの状況で倒せるかどうかわからない。
――らしくないわね、と逢魔は自嘲した。
倒せるか、倒せないか、ではない。
かつて世界から恐れられた、この魔王がやすやすと他者に引けを取って良いものか。
「わたくしのものに手を出してタダで帰れると思わないことね」
相手が何であろうと誰であろうと、関係がない。
ただ、刃向かうものは全力で倒すだけ。
逢魔は竹刀の柄を握り締めた。
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